第16話 新しい朝

 ちゅんちゅんと鳴く鳥の音で目を醒ます。

 ……なんか身体がやけに重たいなと思って目を開けると、いきなり目の前に美少女の顔があった。

 うおっ、可愛い。

 そしてその天使は俺がびくりを身体を震わせた衝撃で起きたのかうっすらと眼を開け、俺を見つけると同時にふにゃりと笑う。


「おはよう、アルトさん」

「……ああ、おはよう。重たいから降りてくれ?」

「んんー、ちょっとだけ待って」


 そう言った彼女は俺の胸倉にぐりぐりと顔を押し付けてくる。

 そしてすんすんと鼻を鳴らす音。


「おい」

「チャージ」

「何を?」

「アルトさんエネルギー、ちゃーじ――おーけー」


 彼女は名残惜しそうに俺の上から離れ、それから改めて「おはようございます」とはにかんで見せた。

 

「今日も良い天気で、良い日になりそう」

「仕事日和だ」

「むぅ、そうだね」

「そうむくれるなよ、仕事以外の時間はちゃんと作るつもりだから」

「ん、そうしてください」


 仕方なさそうに笑うシャナの頭をぽんと撫でる。

 すると彼女はすりすりと俺の手に自身の頭を押し付けてきた。

 仔犬のような仕草に全くと思う。

 ……このままだと彼女に手を出して一日を「有意義」に過ごしてしまいそうなので、俺は「食事にしよう」と彼女から手を放すのだった。


 それから俺達はリビングで朝食を始める。

 サンドイッチに果物、紅茶。

 サンドイッチは燻製肉と卵が挟まっていた。


「改めて、今後の事を話そうかシャナ」


 彼女との関係は一日で変化した。

 だから、改めてその事を話し合わなくてはならない。


「俺は、何度も言うけどマッサージ師だ。だから今後もいろいろな人間とかかわりを持つ事になると思う」

「うん」

「その中には女性もいると思うので、そこら辺は理解して欲しい。あるいは、君にも俺と同じ技術を修得して貰うって手もあるけど、それは時間が掛かるから、それについては長い目で見よう」

「確かに、私もアルトさんと同じ事が出来るのならば、とても嬉しい」

「そっか、それなら適当な時間を作ってそこで練習しようか――で、だ。君には前にも言った通り家事をして貰うつもりだけど。何か必要なものがあったら、今のうちに言って欲しい。料理に使うもの、食材とか。あるいは掃除に使う道具とか。家具とかも必要なら、言って欲しいし、服とかも買ってきても良い」

「……こういう下世話な話をするのはイヤだけど、お金の方は大丈夫なの?」


 申し訳なさそうに言ってくる彼女に「大丈夫」と言う。


「そこに関しては、ちょっとしたスポンサーがいるから大丈夫とだけ言っておこう」

「すぽんさー?」

「上客、VIPとも言う――ともあれ、お金の心配はしなくても大丈夫だよ」

「むぅ……?」


 良く分からないといった感じに首を傾げた彼女は、それから控えめに「これは提案だけど」と言う。


「家事が終わったら、仕事の手伝いをするとか、そういうのは必要?」

「基本的に俺一人でやる仕事だからなぁ、強いて言うならば接客をして貰うってのもあるけど」

「あ。それなら私、頑張るよ」

「大丈夫か? この店、基本的に人を選ばずに客を入れているから、結構苦手な人が来るかもよ?」

「……ダイジョブ! 頑張ってみるよ」

「そうか。まあ、無理ならそれでも良いから、前向きに頑張ってみよう」


 そんな訳で俺達は食事を終えて、そして俺は職場に向かう。

 彼女は家事を始め、そしてそれをすぐに終えた彼女は(例によって洗浄魔術を使っているのだろう)「接客、頑張る!」とエプロン姿で現れた。


「あ、ちょっと待て」


 と俺は、彼女の髪のハネをちょいちょいと直してやる。

 

「ん、可愛くなった」

「も、もお。そういうのはお客さんが来たらやめてよね、王子様」


 ――と、そんな彼女の言葉が合図だったように、扉が開かれ客が入って来る。 

 シャナは勇み足で扉の方へろ歩いて行った。


「いりゃっしゃー、!」

「あらあらぁ、可愛らしい店員ね」



 入って来たのは淫魔だった。

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