アニミタス

 ほんとうに、雪原に降り立った。初めてだった。生きているものの気配すら見当たらない丘の上で、心の奥底まで冷たくなってゆくような風のひゅうひゅう言う音がした。視界の限り、ただ曇りきった空と、叩きつけられる雪がすべてだった。ふと轟音に埋め尽くされた鼓膜に、わずかに混じり合う異質を見出した。その音の波を拾い上げようとじっと息を詰める、それは、鈴の音だった、一度気がつけば見放すことはなかった、無数の鈴が鳴り散らされていた、振り返った。

 群れ。鈴の群れだった。錆びた雪をかぶった鈴が群れていた。激しく揺さぶられ、無茶苦茶に振り回され、鈴同士がぶつかって、鈍く音を響かせていた。幸せが弾けた。つめたい空気にふぶく、その激しさに睫毛へ付いた涙は凍てついて重く、孤独、寂しさが足の指の付け根に生えた一本の毛にまで巡っていくような感覚が幸福、こごえて、こと切れるまでこの風景を見つめていたい、誰にも知られることなく。




 深夜に帰宅してから渡ったのに、戻ると昼下がりになっていた。急に時間のつながりが緩くなってしまったように。この私を導いている存在について考える、今見てきた世界がこの世の中にあると思いつづけることが私の信仰、なのかもしれない。


 あまりに物語じみているけれど。

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雑魚寝の夏 永里茜 @nagomiblue

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