渡ってきたワタリです
斜向かいに相席していた女性がついとこちらに目を向けた。途端、いまワタリは「流行り」なことを思い出す。緊張した空気がビッと通り抜けた。けれど、その女性はおずおず、
「あの、すいません、渡ってきたワタリです」
と告げる。跳ね上がる語尾を抑えつけられずにいた。彼女の言語の特徴なのだろう。
「私はこの世界に来たはじめての時がよんねん前、18歳の時でした」
「いつもくると同じひとの家でした」
「こっちのことば、教えてもらったけど、まだ慣れてないです」
少しずつ唇から放出される言葉は重なり、詰まり、繰り返され、いっぽんの根元からぱさついたささくれのように分岐、つたのように根元と先端をつなぎ葉のようにささめき合う。#ワタリ の議論についてかいつまんで伝えると、彼女は、
「自分にとってありえないと思うならば無視すれば良いです。ワタリでないところの私が、私だと思えば良いと思います。そういうひとは」
と答えた。そののち、少しはにかみながら、かつて彼女にそのような助言をくれたひとが居たことを告げた。短髪の外側をブロンドに染め、前髪をかき上げるようにして、袖の装飾が綺麗な服を着ていた。全部、よく似合っていた。
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