渡る
〈初めまして。渡りびと?〉
女が変わっていた。そういえばこれも、よくわからない。親しみの深い場所が、急に見知らないものになるような気がして目眩を覚える。
〈どうしてお世話をしてくれるの?〉
〈そう導かれるから〉
〈どうして役割の交代があるの?〉
〈それもまた、導かれること〉
〈どうしていつも女なの?〉
〈君が自身を女として認識しているひとだから〉
〈誰がこれを決めているの?〉
〈渡りびとは知っているはず〉
〈知らない、知らない〉
突然、帰る時の感覚がやけにぐわんと感じられ、傾いでゆく視界に、
〈つぎはきっと深い雪のはらに着くことだろうね〉
と告げる肉の少ない紅の唇のつり上がったさまと、頭の上におかれたしっとりとした柔らかい手の感触だけがいつまでも残っていた。
大きく見開かれた目が私を迎えた。
「帰ってきた」
「遅すぎて揺らしちゃった、ごめん」
「え?」
「もう3時間は経ってる」
「体感3分よ」
「嘘」
「何分居て体感どんくらいだったん?」
「1時間。体感もほぼ同じくらい」
「普通はそうなんだけどなんか今回変だった」
「私も。場所動いてご飯たべよ」
目に付いたそば屋の暖簾をくぐって、向かい合う。彼女もやはり「導かれる」といったことを言われたらしい。
「お世話してくれるひとって変わる?」
「いや、ずっと同じ。ホストファミリーみたいなもん」
「あれ、違うな」
「……なんで私達、当たり前のように往き来してたんだろうね、何も疑問に思ってこなかった、身体のこと、この世界と〈往き先〉が私だけで繋がってること、渡る意味」
「そうだ、揺さぶられてぐわん、て感じがした。身体はこっちに残していたのに」
「私たちの中の、一体何が渡ってるの?」
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