最終話 明日への一歩

 鬼ヶ島での恐怖支配に幕が閉じた。

 解放された者達は、同じ事が二度と繰り返さないようにしていくと誓う。



 桃太郎達はおりんを連れ帰還する――。


 おじいさんとおばあさんは、桃太郎の無事を喜んだが「嫁まで連れてくるとは! これはめでたい!」と大いに盛り上がる。慌てた桃太郎は「」と言ったが、二人の耳には聞こえていない。


 居た堪れなくなった桃太郎は、村長の所へ向かった。鬼ヶ島の実態と、鬼と呼ばれた者達の悪事について話す為である。幸い、村長は話を分かってくれたので、村人達を集めてくれた。

 しかし、ある者は「財宝はどうしたんだ!?」と物欲の事しか考えない者もいた。挙げ句には「桃太郎が独り占めしたに違いない」と言われだす。


 桃太郎は静かに言った。


 「そのような欲深い考え、人を疑う心を改めて下さい。その心根が鬼となる原因です」


 思い返す――惚れた女の為とはいえ、抑えきれない憎悪で人を殺めた事を――。


 「私自身の中にでさえ、憎悪おには潜んでおります」


 そこに居た者達は戸惑った。

 桃太郎は続ける。


 「人の心が鬼を生み出し、その鬼が人の心を食い尽くす。すると。止める手立ては、常に己の心を律することです」


 と、その時。


 「あのぉ、って、どういうことだべか?」


 呑気そうな男が不思議そうに言うと、皆ザワザワしだした。


 桃太郎が答えようとした時、村長がそれを止め、

 「良い機会だ、皆で考えてみようか」と、言ってくれた。







 十日後――。

 縁側で涼んでいるおりんを見つけた桃太郎は、側に歩み寄る。


 「体の方は、大丈夫か?」

 「はい。お陰様で」と軽くお辞儀をし、頬を染めながら「あの……」。初めて出会った時よりも愛らしい仕草。そして、真っすぐに桃太郎を見つめる。

 「私に、新しい名をつけてくれませんか?」


 桃太郎は目をぱちくり。


 「おりんでは、駄目なのか?」

 「この先、桃太郎あなたと生きてく為にも……生まれ変わりたいの」


 顔を真っ赤にする桃太郎は頭をぽりぽり。視線を空に向ける。


 「では、〝百合ゆり〟というのはどうだろう。凛として咲く白い百合の花は、そなたを思い浮かべる」


 おりん改め、百合は幸せそうな笑顔を滲ませ「はい」と柔らかく答えた。


 「最初はどうなるかと思ったけど、良かったキジね!」

 「仲良しイヌ!」

 「まぁ、旦那はそのうち尻に敷かれるサル」

 「おい! それはどういう意味だ!?」


 得意気に喋る猿右衛門、言い返す桃太郎。

 皆の笑う声が風に乗って大空へと舞う。


 この者達の笑顔は、明日への一歩かつりょくとなるだろう。


 めでたし。めでたし。 


















  パキッ――


 「ここに居たのか。やっと見つけた……」


 長い顎鬚に落ち武者のように乱れた髪。腰には虎の毛皮を巻いている大柄の厳つい男が、林の影から覗き込んでいた。


 「あの雉、猿、犬あやかしたちを俺のモノにできれば、今度こそ……!」


 目を光らせた男が二本の角が生えた牛の頭蓋骨を被り、桃太郎達に向かって足を一歩踏み出す。


 


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桃太郎と一輪の花 伊桃 縁 @Ito_enishi

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