第5話 鬼ヶ島

 人は鬼にも仏にもなれる。


 思わぬ形で鬼ヶ島に上陸した桃太郎は、大きな屋敷の庭に座らせられる。すると、頭領だという大柄で厳つい男が出てきた。腰蓑こしみのひとつに虎の毛皮を袈裟掛けし、二本の角が生えた牛の頭蓋骨を頭に乗せている。何かのまじないなのか、それとも趣味が悪いのか。


 「仲間にならないか?」その頭領が言った。桃太郎は即「断る!」と一言。


 頭領は長い顎鬚を撫でながら、「鬼ヶ島ここはな、村八分にされた者や……」と、だらだらと話を始めた。そんな事よりも桃太郎は「おりんはどこだ⁉」と話をぶった切る。


 「……ああ、十三番目の息子にやった褒美おんながそんな名だったかな」


 桃太郎は内から込み上げる感情をまだ抑えていたが、頭領は気にもせず話を続ける。


 「今ではその子孫が……」

 「居場所を教えろ!」

 「先祖代々、報復を……」

 「助けると約束したんだ!」

 「話、聞いてくれてる?」

 「積年の恨みがあるとしても、何をやっても許さるわけではない!」

 「ちゃんと聞いてくれてるじゃん!」

 「うるさい! おりんはどこだ!」と、桃太郎は話を切りまくる。


 遂に頭にきた頭領は「殺せ!」と怒鳴ると、その場に居た何人かが刀を抜いた。


 桃太郎は縄で縛られたまま。


 ドドーン


 「こんな所で死なれちゃ困るサル!」


 筋肉隆々の巨大な猿右衛門。


 誰かが「化け物だ!」と叫んで腰を抜かしたり、逃げ出す者も続出。

 頭領は「あやかし使いか!」と悔しがっている。


 「こいつら酷いギジよ! 弱い人間は力でねじ伏せ、こき使ってるキジよ!」


 空から大きな鳥となった雉ノ助が降りてきた。


 次に大きなモフモフ犬吉も現れ「助けに来たイヌ!」と、器用に縄を噛みちぎり桃太郎を解放する。


 「おりんの居場所を探せるか!?」

 「もちろんだイヌ!」


 桃太郎が背中に飛び乗り、二匹に向かって「ここを頼む!」と叫ぶと、犬吉はビュンと走り出した。





 ある屋敷に到着――。


 鼻をクンクンさせた犬吉が言うには、この中におりんが居るようだ。桃太郎は斬りかかってくる者から刀を拝借し、次々に敵を倒して屋敷の奥へ。更に奥の部屋で、おりんの姿を目にした。天井から紐で手を縛られ、かろうじて立っている。顔は下を向き、ピクリとも動かない。着物は細かく切り裂かれ、露出した肌には斬り傷や血が滲む痣が幾つもあった。


 「……何をした!?」


 男が振り返りこちらを見た。砂浜にいた男か、なかなかの美形である。


 「おりんは俺のモノだぞ」

 「おりんはモノではない!」

 「こいつ、財宝を奪ってこいという命令に背いて、朝までおまえと居たんだぞ? 躾けが足らなかったんだ」

 「まるで、鬼の所業だ!」


 睨む桃太郎をその男は鼻で笑った。


 「鬼ヶ島ここでは、強い者が……」

 

 グシャリ――


 「黙れ、二度と喋るな……」


 桃太郎は男の心の臓を一突き。


 「なっ……クッ、お前こそ……その顔、まるで、鬼だ、な……」


 崩れていく男から離れ、桃太郎はおりんのもとへ駆け寄り、縛られている紐を慎重に切った。


 「遅くなって、すまない。そなたを脅かす者は成敗した……安心しろ。だから、死ぬな……」


 おりんがようやく目を開けると、うっすらと笑みを浮かべ静かに目を閉じた。

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