第5話:後日談というか答え合わせ
俺に「ざまあ」が行われた日、俺は知らない黒髪ロングの美少女と腕を組んで下校した。キラキラの美少女。勝手に脳内エフェクトが発動して彼女が輝いて見えていた。
途中、「あのぉ……」とか話しかけてみたけれど、「しーっ、まだ誰か付いてきているかもしれないから」とたしなめられてしまった。大人しく彼女と歩くしかない。組まれた腕は嫌でも意識してしまう。
彼女の声はすごく甘い声。アニメとかみたいに少し高いトーンでよく通る声。小説などで「鈴が鳴るような声」というのを見たことがあったが、リアルではこれなのでは、と今まで言葉だけ知っていたものに現実の事象が紐づけされた。
なぜか、嬉しそうに俺と腕を組んでいる。俺にとっては、まるっきり見覚えがない子。なんでそんなにうれしそうなんだよ。まるで「ずっとこうしたかった」みたいな。
困惑する俺に対して、彼女は幸せいっぱいの顔。まるで本当に俺に恋をしているみたいな。俺のことが好きみたいな……そんな、少し照れた笑顔。
あれよあれよという間に俺の家まで着いてしまった。彼女は何の迷いもなく、俺の家まで付いてきた。途中、一度も「どっち?」とか道を聞くこともなかった。あたかも最初から俺の家までの道を知っていたかの様だった。
当然、そんな訳はない。俺は彼女に会ったのは今日が初めてなのだから。万が一、以前い会っているのならば、脳内に焼き付けられていて忘れるはずなどない。
そして、いよいよ信じられなかったのは、彼女はポケットから鍵を取り出すと俺の家の玄関の鍵を開け家に入ってしまったことだ。
もう訳が分からない。本物の美少女とは行きたい家の鍵を持っているものなのか、と訳の分からないことを考えてしまう程、俺は混乱していた。
玄関に入ると、彼女は「よーし、もうOK」と言って、自分の髪の毛を引っ張った。次の瞬間、きれいな黒髪ロングは外され、それがウィックであることに気がついた。
ウィックが外されたそこには、髪の毛を整える千尋の姿があった。
俺は、徐々に冷静さを取り戻し、目の前の状況が少しずつ見え始めていた。あぶり出しで徐々に絵が現れて、それが何なのか分かった瞬間大きな声で答えを言ってしまうのに似ていた。
「はぁーーー!? 千尋ーーー!?」
気づいたときには大声で彼女の名前を呼んでいた。
「お兄ちゃん、髪型変えただけで妹が分からないとか普段、人の顔見なさすぎでしょ!」
そう言われれば、なんの言い訳できなかった。
言われてみれば、声はちょっとだけ声色を変えた千尋そのもの。気づいてしまったら、なぜ今まで気付かなかったのかと思うことはある。過去に何度も経験がある。そして、それが今 目の前でも起きていた。
俺はあの日、千尋から授かった「作戦」について思い出していた。
*
千尋は、「『ざまあ』の日は中庭に行く前に私のクラスに来て」とだけ言った。
訳も分からず、中庭に行く前に千尋のクラスに行ったら、俺は髪の毛をセットされ、メガネを取り上げられた。
そして、最近使っていなかった使い捨てコンタクトを渡された。目が重たい感じになるので箱買いしたものの、半分くらい使ったところで使うのをやめてしまったヤツの残りだ。
俺はどうにもならないと思っていたし、どうでもいいとさえ思っていたので、千尋のすることに何の抵抗も、何の疑問も持たなかった。ここでも持ち前の「興味を持たない」が発動してしまっていたのかもしれない。
「じゃあ、中庭に行っていいよ」
コンタクトを入れると、そう言われて、訳も分からず中庭に行った。
千尋はこの時、普通に制服。いつもの千尋。俺を中庭に送り出した後に、自分も準備していた「変装グッツ」でびっくりするほどの美少女に変身したのだろう。
*
「まさか、千尋があんな可愛く化けるとか想像もしなかった。クラスのやつらに馬鹿にされなくて助かったよ、ありがとう」
彼女が可愛いのは知っていた。ただ、今日のは異次元の可愛さだった。まるで男の理想を具現したような存在。いや、俺の理想を具現化した存在だった。封印した俺の気持ちのドアを強引にこじ開けるほどの強烈なインパクト……
「お兄ちゃんはもっと自分に自信を持って。周囲の人のことも見たら、絶対いい線行くのに!」
「そうかなぁ……」
自分に自信などなかった。でも、千尋がいうのならば……他の人がどう思ってもいい。千尋が良いと思ってくれるのならば、少しだけ信じてみてもいいと思った。もしかしたら、これが「自分に自信を持つ」ということだろうか。
少し前向きになれた気がした。そして、そんな自分は嫌いじゃなかった。
でも、少しだけ……残念なことがあった。
「それにしても、見知らぬ可愛い子に告白されるとか、嬉しいイベントで俺にも彼女ができたと思ったのに、まさかそれが妹だったとは……」
「妹じゃダメ?」
「ダメってことはないけど、妹とは付き合えないもんなぁ」
心にもないことを言った。その言葉の刃は直接俺の心に突き立てられた。
「じゃあ、高校の間だけデートの時は、またウイック付けようか?」
周囲にバレなければいい、という発想なのだろう。俺に気を使ってくれている。本当にいい妹だ。それにしても、なぜ「高校の間だけ」?
「その後は?」
「高校卒業したら そのままでいいんじゃない? 私たち兄妹と言っても血はつながってないし、結婚だってできるんだから」
「は!? そうなの!?」
「あれ? お兄ちゃん知らなかったの? どれだけ周囲のことに興味ないの⁉」
俺は、俺と千尋に血のつながりがないことを初めて知った。うちの両親が再婚同士なのは以前に聞いた。その時に、それぞれに子供がいて1つの家族になった……そんな可能性を完全に失念していた。
よくよく考えれば、俺と千尋は学年こそ1つ違うけど、誕生日は割と近い。千尋が母さんのお腹の中にいる期間が短すぎるのだ。そんなことこれまで考えたこともなかった。
どうやら俺は本当に周囲のことに興味がなかったらしい。自分の事も、周囲のことももう少し積極的に興味を持つようにしようと思った。
まずは、妹の千尋のことからかな。
いや、もう既に俺の中の「恋心」というラベルの付いたセンサーが彼女の方を向いていることに気づいたのだった。
【完結】クラスメイトに嘘告白で「ざまあ」を仕掛けられ渋々告白現場に行った結果 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry
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