第4話:ざまあ当日の放課後
ついにこの時が来てしまった。今日は、クラスメイト達が俺に仕掛けた「ざまあ」が発動する日だ。
俺は、偽のラブレターの指示に従って放課後の中庭に向かった。幸い指定の17時までには少し時間があったので余裕をもっていくことができた。
いざ、中庭に行ってみると、クラスメイト達が人払いをしたのか放課後だというのに誰もいない。
一口に「中庭」と言っても校舎と校舎に挟まれた場所は全部中庭だ。意外と広い。
中庭には植栽がされていて、その後ろにはクラスメイト達が隠れているのだろう。それだけでは全員が隠れるスペースがないから、建物の陰などにいるのかもしれない。
様式美として、俺はあまり植栽に近づかない方が良いだろうし、死角になりやすい柱の陰などに行かない方が良いだろう。
そう考えると、割と広い中庭の中央にぽつんと立って17時を待つ必要があった。
俺は何をしているのだろうと空を見上げると、灰色の厚い雲が本来高い空を遮り空からも自由を遮られているようでため息が出た。
*
約束の17時になっても誰も現れない。まあ、当然だ。そろそろクラスメイト達が飛び出してくる頃だと思い、更に気が重くなりため息が出た。
物陰でゴソゴソ聞こえ始めたので、そろそろだと覚悟を決めた。むこうはむこうで出るタイミングを見計らっているのだろう。
クラスメイトの姿が植栽の後ろから一瞬見えたかと思った次の瞬間、遠くから一人の女生徒が駆け寄ってくるのが見えた。
「
誰だれ誰だれ誰ーーーーー!? 誰だ!? 混乱する俺。
駆け寄ってくる女生徒は確かにうちの高校の制服を着ているし、黒髪ロングの清楚系。近づくにつれ分かったけれど、めちゃくちゃ可愛い!そして、なんかいい匂いがする!
息を切らして走ってきたのがすごく可愛い。
どこからどう見ても美少女! 俺はこんな子を知らない。
「お待たせしました! すいません、準備に時間がかかって」
上目づかいで、少し はにかみながらそういう彼女は控えめに見ても、間違いなく美少女だった。
出るタイミングを失ったのか、クラスメイト達は誰も出てこない。一瞬見えたと思った人影も今は全く見えない。
「ずっと好きだったんです!付き合ってください!」
「は、はい……俺でよければ……」
色々ツッコミどころはあるはずなのだが、美少女に可愛く告白されてしまい、反射的にOKしてしまう俺。それ以外の答えなんて口から出てこなかった。
「じゃあ、一緒に帰りましょう♪」
「え、あ、はい……」
勢いに押されて見知らぬ美少女と一緒に帰ることになった俺。何一つ状況は理解できない。それでも、彼女が行こうといえば、俺は行くしかない。
*
物陰の後ろでは、ザワザワしていた。いつもボサボサがデフォルトだった姪浜の髪型は今日に限っては、きれいにセットされていた。もっと言うと、ついさっきまでは間違いなくボサボサだった。
それが、ついさっきいた姪浜はまるで別人のように髪をキリっとセットしていた。
そして、いつもかけられているダサいメガネは、コンタクトに変えられていた。メガネをコンタクトに替えただけという、少女マンガなどでもよくありそうなべたな事象なのに、まるっきり印象が違った。
髪型とメガネだけでこんなにも印象が違うのか。誰もが思っていた。
「あれは別人だ」と。
「あれ誰!? もしかして、姪浜くん!?」
「私……変な話、一目ぼれしたんだけど!」
物陰に隠れていた女子たちは、興奮が収まらない様子。
「誰だ! あの可愛い子を準備したヤツは!?」
「『先輩』って言ってたし1年か⁉ あんな可愛い子うちの学校にいたか⁉」
男子は男子で興奮が収まらない様子。
その日のグループチャットは大荒れに荒れていた。姪浜をダシにしてみんなでバカにして盛り上がるはずが、180度違う結果が目の前にあった。
こんな状況を誰が予想しただろう。
「姪浜くんって、隠れイケメン!?」「超タイプたったんだけど!」と女子を中心に評価が真逆になっていた。
そう言えば、
見た目はイケメン。しかも、普段分からないイケメン。
女子たちにとっては「自分だけが知っている」と特別感もあるという特典付きのイケメン。
成績はトップとまではいかないけれど、常に上位にいる。
運動神経も悪くない。
状況を正しく理解したときには、彼は女子たちの前にはいなかった。どこに行ってしまったのか!? 誰に取られてしまったのか!?
取られてしまうと欲しくなるのは人の性、クラスの女子たちは翌日から姪浜友和に色々とアピールしたり、アタックしたりし始めるのだが、既に彼女たちは眼中になかった。
男子たちは男子たちで、あの謎の美少女を探し回るのだが、やはり見つからなかった。変にまじめなやつなど1年の教室を一つ一つ見て回ったヤツもいたほどだったが、あの謎の美少女は見つからなかった。
一度見たら忘れたくても忘れられない。そんな美少女。
本来、全ての教室を見て回ったヤツが見逃すはずないのだ。しかし、いない。あれが夢だったのではと思い始める者もいたほどだ。
告白の日、何が起きたのか、その「答え合わせ」は、その日の夜の姪浜友和の家で行われていた。そのことを、クラスメイト達は知る由もなかった。
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