第3話:ざまあ当日の朝
この日、いつもの様に登校すると靴箱に封筒が入っていた。アニメやマンガと違って、扉付きの靴箱じゃないので、左右の上靴に挟まれるようにして封筒は立てられて置かれていた。
「これが現実の靴箱ラブレターか」と、ちょっと どうでもいい感動をしつつ、その中身は空虚な物であることを思いだし、心の中でため息をついた。
この場面も誰かが見ているかもしれない。
それどころか、スマホで隠し撮りしているかもしれない。デジタルガジェットの進化は余計な心配を生んでいた。この計画に俺が気づいていることを悟られてしまったらいけないのだ。
キョロキョロしながらラブレターをそっとカバンに仕舞い、ローファーと上靴を履き替え教室に向かった。
この時、誰かが動画を撮影していることも少し意識して、俺の「コソコソ具合」を笑う人達が楽しめるように少し大げさにコソコソしてしまったかもしれない。若干ヤケクソになっていたのかもしれない。
*
教室では、クラスメイトの方が浮足立っていた。なんだかソワソワしているというか、時々チラチラとこちらを見てくるヤツもいる。普通に考えてダメだろこれ。もっと俺に悟られないようにして欲しいもんだ。
俺はいたたまれなくなって自分の机で大人しく座っていることにした。
ただ、目は死んだ魚の様な目だっただろうし、机に両肘を突き、組んだ指はあご乗せであるかのように あごを乗せ、何も書かれていない暗い緑色の黒板を眺めていた。
そう言えば、このラブレターの中身を見ないことには、時間と場所を俺が知っているのはおかしいことになる。矛盾が生じしてしまうのだ。まあ本当は、既にグループチャットで文面まで知っているのだけど。
企画したヤツはその辺りどう考えているのだろう? 俺がラブレターを開封せずに家に持ち帰ってこっそり開けた場合……そんなこと考えてないんだろうなぁ。そして、作戦が失敗した責任は俺が負うことになるのだろう。
何もしていないのに、みんなから文句を言われるのだ。
休み時間に、おもむろに封筒を取り出し、可愛いシールの封印を破り口を開け、中からピンク色の便せんを取り出し開いた。ご丁寧にラベンダーの香りがした。妙に凝っている。もしこれが本物のラブレターだったら俺は空中を歩くくらいには浮足立っていたかもしれない。
俺を騙すなら せめて俺がいないグループチャットで打ち合わせをしてほしかった。それなら、俺は何も知らずに騙されていただろう。
『放課後17時に中庭に来てください。伝えたいことがあります』
グループチャットで見た文面がそのままそこに書かれていた。字は誰か女子が協力したのか、女の子の字だった。丁寧で綺麗な字。こんなところに才能を発揮するのではなく、習字か硬筆で何かいい言葉を書いて人を感動させてほしかった。
昨日、グルチャを見ていた限りでは男子はノリノリで、一部の女子が止めにかかるような場面もあったけど、こうして女子が書いた字と思われるラブレターがここにある以上、俺に味方はいないのだと理解した。
こうなってしまったらしょうがないので、放課後に中庭に行くしかない。どんな顔をしていくか、スキップはするのか、まだ決め切れていなかった。よく考えてみると、俺にも「サービス精神」が実装されているようだ。
ご丁寧に、見ているヤツらが笑いやすいように彼らの望む行動をしようとしているのだから。
告白などされることもない中庭に行って、クラスメイト全員にバカにされるという苦行を受けに行くしかない。俺が何かしたのだろうか。全く身に覚えがない。それどころか、クラスのほとんどのやつとの交流がないと思う。
朝から放課後までこの日はずっと気が重かった。
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