第2話:作戦会議
自宅のリビングでソファに寝転がってテレビを見ていた。昨今のテレビは面白い番組がないと言われているけれど、今日の俺はそれに関係なくテレビがつまらなかった。
つまらないというより、内容が全く頭に入ってこない。
確かに画面上では猫や犬のハプニング動画が流れている。それにアフレコが無ければyoutubeと全く違いがないと思えるほどだ。わざわざテレビを見る必要はなくなったな、と意味不明な時代の切り方をしているのだが、テレビ自体の内容は全く入ってきていなかった。
視界で捉えた電気信号が脳に到達する前に、どこかでゴミ箱に捨てられたみたいに。
俺は、ぼんやりしながら無意識にため息をついていた。
「お兄ちゃん、どうしたの? ため息なんてついて……こっちが気が滅入るんだけど」
「あ、ごめん」
妹からクレームが来てしまった。
話しかけてきたのは、妹の
こいつは同じ高校の1年で歳も近いので、割と兄弟仲は良かった。実際、家で話していても嫌味がないというか、話していて全く嫌な感じがしない。
俺ですらそうなのだから、クラスメイトなどの場合はもっと話しやすいだろう。男子なんか話すだけで惚れてしまうかも。
*
俺が小さい時には千尋と一緒に遊んでいた。その時は俺にも友達がいた。千尋は俺に付いて回っていたので、人形遊びよりもシューティングゲームをやっているような子だった。
それが中学になり、高校生になると、これまで見てきた千尋とは思えない程、「女性」になっていった。
彼女の成長は、俺に彼女を意識させる要因となった。でも、兄妹だ。そんな感情はおかしいと思い、封印してしまった。俺は何も気づかなかった。俺は周囲になど興味はない。
誰も傷つかないように。彼女を傷つけてしまわない様に……
*
そんな妹が、今は風呂上がりらしく、Tシャツとショートパンツでリビングに現れた。頭にはまだタオルがかけられていて、拭いているところを見るとまだドライヤーすらかけていないほど風呂上りたてほやほやみたい。
妹とはいえ目のやり場に困るやつだ。まあ、兄妹とはこんなもの。むこうが気にしていないのならば、俺も気にしないのが礼儀と言うものだろうか。
俺は現在のいかんともしがたい状況を妹様に愚痴ることにした。
「ちょっと見てくれよ、これ」
「んーーーー? これって……ひどっ!これかなり悪質じゃない!?」
しばらく俺が手に持ったスマホの画面を見ていたが、次第に俺の手からスマホを奪って画面を真剣に見ている。次々スワイプしている。しっかり見てくれている。
「やっぱりそう思うか」
「でも、このグループチャット見れるってとこは冗談?」
「いや、俺がこのグルチャ見れることはみんな気づいてないらしい」
「お兄ちゃん、どれだけ存在感ないのよ!?」
俺も全く同じことを昼間の学校で思ったよ。やっぱり俺たちは兄妹だ。
「俺は近々放課後に呼びだされるんだけど、その時、どんな顔をして行ったらいいのか……」
「ええ!? わざと引っかかるの⁉ なんで!? バカなの!?」
「こういうのは早い段階で引っかかっておかないと、強度試験みたいなもんで、段々高度で酷い罠にステップアップしていくもんなんだって」
「むー、本当のお兄ちゃんのことを知らないくせに好き勝手言って、なんか気に入らない!」
千尋は俺の代わりに怒ってくれているけど、俺は陰キャボッチなのだからしょうがない。
「お兄ちゃんは、もうちょっと自分と周囲に興味を持った方がいいよ!」
「そうだなぁ」
「うーん、このグルチャ よーく見たら男子も女子も酷いなぁ」
「そう?」
「女子なんか、『それはやりすぎじゃない?』ってお兄ちゃんを憐れんでる子もいるくらいだよ」
「いい子もいるもんだな」
「この計画に乗っかってる時点でいい子でもなんでもないよ!」
千尋的には「憐れんでいる」というのも許せない様に見えた。最悪、バカにするのならそんな事もあるだろう。でも、「憐れまれる」いわれはない、と。
あなたたちが、何を知っているというのか、と。
彼女はそういうところがあった。俺を兄として妄信しているというか……それが「兄妹フィルター」というやつだろうか。
「男子とかノリノリでお兄ちゃんを騙す気だよ! 酷い!」
「俺なんかしたかなぁ……」
「なんで、クラスの中のお兄ちゃんの評価ってこんなに低いの⁉」
いかんいかん、怒りの矛先は俺の方に向かってきた。
「私のお兄ちゃんをここまでコケにしてくれるとか、私への挑戦と受け取った!」
「受け取るなよ」
「よーし、私にいい考えがある! ちょっといい?」
「いい考えも何も、こんなの不可避だろ。いいよ、俺はどんな顔していくか考えとくから」
「いいから、いいから。まずね……」
この日、千尋に「作戦」について教えてもらった。
正直、千尋の考えた作戦は、俺には全く意味が分からなかったけど、せっかく考えてくれたんだ。何か意味があるのだろうと そのまま従うことにするのだった。
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