第2話:作戦会議

 自宅のリビングでソファに寝転がってテレビを見ていた。昨今のテレビは面白い番組がないと言われているけれど、今日の俺はそれに関係なくテレビがつまらなかった。


 つまらないというより、内容が全く頭に入ってこない。


 確かに画面上では猫や犬のハプニング動画が流れている。それにアフレコが無ければyoutubeと全く違いがないと思えるほどだ。わざわざテレビを見る必要はなくなったな、と意味不明な時代の切り方をしているのだが、テレビ自体の内容は全く入ってきていなかった。


 視界で捉えた電気信号が脳に到達する前に、どこかでゴミ箱に捨てられたみたいに。


 俺は、ぼんやりしながら無意識にため息をついていた。



「お兄ちゃん、どうしたの? ため息なんてついて……こっちが気が滅入るんだけど」


「あ、ごめん」



 妹からクレームが来てしまった。


 話しかけてきたのは、妹の千尋ちひろ。ショートカットで活発なヤツで彼女は俺と違ってクラスでは男女関係なく人気らしい。俺と兄妹なのが本当なのかと疑いたくなる。


 こいつは同じ高校の1年で歳も近いので、割と兄弟仲は良かった。実際、家で話していても嫌味がないというか、話していて全く嫌な感じがしない。


 俺ですらそうなのだから、クラスメイトなどの場合はもっと話しやすいだろう。男子なんか話すだけで惚れてしまうかも。





 俺が小さい時には千尋と一緒に遊んでいた。その時は俺にも友達がいた。千尋は俺に付いて回っていたので、人形遊びよりもシューティングゲームをやっているような子だった。


 それが中学になり、高校生になると、これまで見てきた千尋とは思えない程、「女性」になっていった。


 彼女の成長は、俺に彼女を意識させる要因となった。でも、兄妹だ。そんな感情はおかしいと思い、封印してしまった。俺は何も気づかなかった。俺は周囲になど興味はない。


 誰も傷つかないように。彼女を傷つけてしまわない様に……





 そんな妹が、今は風呂上がりらしく、Tシャツとショートパンツでリビングに現れた。頭にはまだタオルがかけられていて、拭いているところを見るとまだドライヤーすらかけていないほど風呂上りたてほやほやみたい。


 妹とはいえ目のやり場に困るやつだ。まあ、兄妹とはこんなもの。むこうが気にしていないのならば、俺も気にしないのが礼儀と言うものだろうか。


 俺は現在のいかんともしがたい状況を妹様に愚痴ることにした。



「ちょっと見てくれよ、これ」


「んーーーー? これって……ひどっ!これかなり悪質じゃない!?」



しばらく俺が手に持ったスマホの画面を見ていたが、次第に俺の手からスマホを奪って画面を真剣に見ている。次々スワイプしている。しっかり見てくれている。



「やっぱりそう思うか」


「でも、このグループチャット見れるってとこは冗談?」


「いや、俺がこのグルチャ見れることはみんな気づいてないらしい」


「お兄ちゃん、どれだけ存在感ないのよ!?」



 俺も全く同じことを昼間の学校で思ったよ。やっぱり俺たちは兄妹だ。



「俺は近々放課後に呼びだされるんだけど、その時、どんな顔をして行ったらいいのか……」


「ええ!? わざと引っかかるの⁉ なんで!? バカなの!?」


「こういうのは早い段階で引っかかっておかないと、強度試験みたいなもんで、段々高度で酷い罠にステップアップしていくもんなんだって」


「むー、本当のお兄ちゃんのことを知らないくせに好き勝手言って、なんか気に入らない!」



 千尋は俺の代わりに怒ってくれているけど、俺は陰キャボッチなのだからしょうがない。



「お兄ちゃんは、もうちょっと自分と周囲に興味を持った方がいいよ!」


「そうだなぁ」


「うーん、このグルチャ よーく見たら男子も女子も酷いなぁ」


「そう?」


「女子なんか、『それはやりすぎじゃない?』ってお兄ちゃんを憐れんでる子もいるくらいだよ」


「いい子もいるもんだな」


「この計画に乗っかってる時点でいい子でもなんでもないよ!」



 千尋的には「憐れんでいる」というのも許せない様に見えた。最悪、バカにするのならそんな事もあるだろう。でも、「憐れまれる」いわれはない、と。


 あなたたちが、何を知っているというのか、と。


 彼女はそういうところがあった。俺を兄として妄信しているというか……それが「兄妹フィルター」というやつだろうか。



「男子とかノリノリでお兄ちゃんを騙す気だよ! 酷い!」


「俺なんかしたかなぁ……」


「なんで、クラスの中のお兄ちゃんの評価ってこんなに低いの⁉」



 いかんいかん、怒りの矛先は俺の方に向かってきた。



「私のお兄ちゃんをここまでコケにしてくれるとか、私への挑戦と受け取った!」


「受け取るなよ」


「よーし、私にいい考えがある! ちょっといい?」


「いい考えも何も、こんなの不可避だろ。いいよ、俺はどんな顔していくか考えとくから」


「いいから、いいから。まずね……」



 この日、千尋に「作戦」について教えてもらった。


 正直、千尋の考えた作戦は、俺には全く意味が分からなかったけど、せっかく考えてくれたんだ。何か意味があるのだろうと そのまま従うことにするのだった。


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