第43話:大嘘つき
ハミルトン王国暦2年8月5日・ハミルトン王国テンペス城・エマ視点
わたくし達は流刑の島でおびただしい数の竜をたおしました。
チャーリーと側近達、教団幹部らしい竜は殺さずに捕らえ、人間に戻そうとしましたが、ダメでした。
人間に戻せないのなら、流刑の島で殺しておかなければいけません。
わたくし達なら殺せますが、普通の人間に竜を殺すのは難しいからです。
わたくし達はとても食べる気になれなかったのですが、一緒に流刑島に来ていた騎士達は、強くなれるという伝説を信じて竜の肉を食べていました。
元人間だという事は気にならないのでしょうか……
とても美味しくて栄養があるそうです。
身体か強くなった気もするようです。
干肉にしてでも持ち帰りたいと懇願されてしまいました。
魔術書にも竜の身体は素材に使えるとありました。
肝臓、すい臓、腎臓、脳、胆のうなどは薬に使えるそうです。
牙、爪、鱗、骨、腱などは武具の材料になるそうです。
素材を確保するついでに、肉を加工して持ち帰る事を許しました。
薬になる内臓が最優先でしたが、肉も塩漬け、燻製、干肉にする事で保存性を高めて持ち帰ることになりました。
その日から騎士達は毎日竜肉を食べるようになりました。
つられてしまったのか、侍女達まで竜肉を食べていました。
わたくし達だけが持ち込んだ塩漬け豚肉や塩漬け牛肉を食べていました。
上陸から5日後、なかなか戻らないわたくし達を心配して、対岸に残っていた騎士団が援軍に来てくれました。
少し遠方にある村々から漁船を強制的に集めたそうです。
彼らが加わってくれた事で、竜の解体が一気に進みました。
解体を終えていた竜素材を大陸に運びました。
上陸から10日目には全ての竜素材を大陸に運び終えていました。
強制的に漁船を集めた対価を支払い、旧ダウンシャー王国領の元王城に移動し、クロエと合流しました。
クロエの指揮下で集めてくれていた魔術書を回収しました。
わたくしの代官として旧ダウンシャー王国領を細かく分割して統治する、多くの騎士達を少し脅かしておきました。
油断したり調子に乗ったりして、後で処刑するよりは脅かす方がいいですから。
そのまま王都には戻らず、アバコーン王国の王都だった廃墟に向かいました。
調べられていなかった、ステュワート教団の大神殿や中小の神殿を調べて、隠されている魔術書を発見するためです。
少々手間取りましたが、騎士団の中に探し物が得意な者がいてくれました。
罠などを見抜くのが得意な者もいてくれました。
お陰で人間を竜に変化させる魔術書を発見する事ができました。
他にも数多くの魔術書がありました。
それらを解読できるようになれば、一気に魔法や魔術を再現できるようになりますが、そんなつもりは全くありません。
せっかく大陸を統一できたのです。
魔法や魔力を広めたことで、また戦乱が始まるかもしれないのです。
わたくし達が独占するのが1番いいのです。
できればやりたくなかった、お爺様と伯父上へのけん制も、ブラウン侯爵家の分家や家臣が暴走しそうになった事で、お爺様自身がやってくれました。
多くの分家や家臣を討伐しなければいけなくなったブラウン侯爵家は、わたくしに頭を下げて支援を願わなければならないくらい弱体化しました。
経済的に10年、騎士団傭兵団の再建には20年はかかります。
王都に戻って戦争で荒廃した地域の復興を進めました。
全て想定していた以上に上手くいっています。
ただ1つだけ、とてもうれしいのに腹がたつ事以外には……
「父上、母上、新婚気分を楽しんでいたと言うのは、どういう事なのですか!」
「どうもこうもないよ、言葉通りだよ」
「わたくしがどれほど哀しみ苦しんだと思っているのですか?!」
「うん、うん、うん、エマは本当によく頑張ったよ。
少しでも苦戦するようなら戻ろうと思っていたのだけれど、すべて順調にこなしていたから、戻らない方がいいと思ったんだ」
「どこをどう考えれば戻らない方がいいと思ええるのですか?!」
「エマは他の人達が思っているよりもずっとずっと優しいからね。
私とオリビアが無事に生きていると知ったら、チャーリー達を許してしまうんじゃないかと思ってね」
「そうですよ、エマ。
貴女はとても優しくて、愚かな者が大嫌いですからね。
復讐するよりも、わたくし達を幸せに暮らす方を選んで、チャーリー達を放置してしまうのではないかと思ったのですよ」
「言い訳をするにしても、もう少しましな事を言ってくださいませ、父上、母上。
わたくしがあのような者を放置しておくはずがないではありませんか。
いえ、放っておきたくても、チャーリー達はもちろん、イザベラがしつこくつきまとってきたはずですわ」
「はっはっはっはっは、もう過ぎた事はどうでもいいではないか。
エマが女王に戴冠してくれて、ブラウン侯爵家との力関係もはっきりして、もう私達が出て行っても大丈夫だと侍女達が思ってしまったのだ。
本当ならあのまま死ぬまで隠れて暮らしていたかったのだが……」
「公爵閣下、それは、閣下の時代の義理や関係が、陛下の足を引っ張る事を心配されたのでしょうか?」
ミサキが父上と母上がわたくしの事を考えて隠れていたと言ってくれます。
全てわたくしの為だとは思えませんが、理由の1つかもしれません。
「はっはっはっはっは、少しだけな。
1番は公爵の責任から解放された事だな。
エマが代わってくれたから、どうしても戻らなければいけないような状態にならない限り、そのまま楽をしようと思ったのだよ」
「父上!
戻られた以上、もう楽はさせません!
女王の父親として、国政を束ねる宰相を務めていただきます!
母上!
母上も同じですよ!
女王の母親として、夫人や令嬢を束ねる王母を務めていただきますよ!」
「はっはっはっはっは、それくらいならよろこんでやらせてもらうよ。
公爵家の当主だった頃は、全責任がズシリと圧し掛かっていたが、宰相なら最終的な責任はエマが背負ってくれるからね」
「くっ、それくらいで済ませると思わないでくださいませ!
父上には側室を迎えていただきますわ。
わたくしの弟や妹を作っていただきます。
わたくしに何かあった時に、跡を継ぐ者を作っていただきます」
「いや、いや、いや、もう私に子供を作る力はないよ。
それよりは、少しでも早くエマが子供を産んだ方がいい。
エマが妊娠やお産で休んでいる間くらいは、私が政務を代わってあげる。
それに、何も恋が終わった相手の子供を産む必要はないさ。
新しい恋をして、本当に好きな人の子供を産めばいい」
「そうですわよ、エマ。
わたくしは運がよく、政略結婚だったフレディ様を心から愛する事ができました。
ですがほとんどの貴族令嬢は、好きでもない男性と結婚しなければならず、子供まで産まされるのです。
エマは女王になったのですから、嫌いになった男性に抱かれる義務もなければ、子供を産む必要もないのですよ」
「……もしかして、それを言うために戻って来てくださったのですか?」
「はっはっはっはっは、違う、違う、違う。
エマが女王として完全な力を得たので、私達についていた侍女達の中に、戻れば栄耀栄華を極められると思った者がいたのだ。
そうれなければ、恥さらしになるような戻り方はせんよ」
「確かに、多少の文句は言わせていただきますが、父上と母上に不自由をおかけする事はないですものね」
「そのような侍女は処分したから、何も心配する事はないよ」
「心配などしておりませんわ。
心にやましい所のあるかないか確かめた者しか、王城には入れません。
父上と母上に長年仕えてきた侍従や侍女であろうと、神明裁判で身の潔白は確かめさせていただきますから、そのように伝えてくださいませ」
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。 克全 @dokatu
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