第42話:決戦

 ハミルトン王国暦2年5月26日・北竜海の離島・エマ視点


「こんな所まで追ってくるなんね、なんて執念深いの。

 そんな蛇のような性格だから、チャーリーに嫌われるのよ。

 でも、その執念深さも私には好都合よ。

 こちらから殺しに行かずにすみますもの」


 急いで修理拡張したと思われる、流刑地の館のテラスから、恨み重なるイザベラが上から目線で話しかけてきます。


 いつもなら色香で惑わせたチャーリーと取り巻き達を前にだすのに、今回に限って自分が前に出るのはなぜなのでしょうか?


「公爵家の令嬢とはとても思えない、はしたない行動してておられたと聞いていましたけれど、本当だったようですわね」


「はん、何を言ってやがる。

 お前達罪人は知らないのか?

 エマはもう公爵令嬢じゃない。

 お前が股を開いて誑かした連中はもう無位無官なんだよ

 アバコーン王国は私達が滅ぼした。

 エマはハミルトン王国の女王に戴冠したんだ。

 罪人が粋がっているんじゃないよ!」


 ミサキが珍しく激怒しています。

 よほどイザベラの言動に腹を立てたのでしょう。

 わたくしの為に怒ってくれていると思うと、ちょっとうれしいですわね。


「ふん、女王?

 それがどうしたと言うの?

 ここで死ねば女王も奴隷も同じよ!」


「はん、股を開く以外の脳がないアバズレが、どうやって陛下を殺せるんだ?!」


「愚かなモノに何を言っても無駄ね。

 私は教団と王国に残されていた魔術書を読んで、最大の魔術を覚えたのよ。

 愚かな教徒や王家には読み解く事ができない魔術書を、私は読めたのよ。

 その力をもってすれば、大陸どころか世界を支配できるわ。

 その最初の供物にしてあげるわよ!

 光栄に思ってよね、エマ」


「その前にぶち殺してあげるよ!」


 怒りのあまり、わたくしが殺すと言っておいたイザベラに向かって、ミサキが突進していきました。


 グワッシャーン!

 ギャアオオオオオ!


 館の鎧戸が破壊されると同時に、巨大な生物が飛び出してきました!

 伝説ほどの大きさではありませんが、竜です!

 4頭の竜がわたくしとミサキに向かって2頭ずつ跳びかかってきます。


 よほど実戦を重ねた腕自慢の騎士しか対応できない速さです。

 並の騎士なら動く事もできずにかみ殺されていたでしょう。


 ですがわたくしは、常にミサキたちと鍛錬してきました。

 この身体だけでなく、ろくに動けない創ったばかりの複製体で、圧倒的な力を持つミサキ相手に鍛錬した事もあるのです。


 例え相手が人の3倍近い体長の竜であろうと戦えます。

 この速さなら身体強化する必要もないのですが、万が一の事もあります。

 思いがけない攻撃をされる事も考えて、身体強化しておきます。


 ギャフ!


 拍子抜けするほど簡単に、1頭の竜の首をはねる事ができました。

 鋼鉄のハルバートで竜の首をはねられるとは思ってみませんでした。


 ギャフ!


 竜の断末魔と思われる叫びが聞こえてきたので、残った竜から注意を離すことなく、視野を広くしてミサキの方を見ると、すでに2頭の竜を殺していました。

 わたくしも負けてはいられません。


 ギャフ!


 油断する事なく、魔力を込めた身体強化の状態で竜に近づき、同じく身体強化した状態でハルバートを振るいました。

 拍子抜けするほど簡単に竜の首をはねる事ができました。


「バケモノ、非常識なバケモノ!

 竜を、竜を簡単に殺してしまうなんて!

 もう手加減してあげませんわ!

 みんな出てきなさい!

 もう最後の手段だと隠しておけないわ!

 チャーリー、エリオット、ナサニエル、ベン、配下と共にでてきなさい!

 ゲオルギオス、ジェイコブ、ジャック、手下を連れて出てきなさい!」


 イザベラが叫ぶと、館から続々と竜が出てきました。

 人間の頃の記憶があるのでしょうか?

 小さく弱弱しい竜が先頭に立って出てきます。


 あの小さく弱そうなのが王太子だったチャーリーなのでしょうね。

 同じように小さくて弱そうなのが宰相の息子のエリオットですね。


 最初に襲ってきた竜より大きいのが2頭続きます。

 1頭が近衛騎士団団長の息子、ベンでしょうね。

 もう1頭の少し小さいのが大将軍の孫、ナサニエルですね。


 後の続く竜は、この島に送られた護衛の騎士達ですね。

 ベンとナサニエル以外は最初の竜よりも小さいですね。

 最初にベンとナサニエルの次ぐ強さの竜を使ったのですね。


 「「「「「ギャフ!」」」」」


 わたくしがゆっくりと見ている間に、ミサキが次々と竜の首をはねています。

 あれほど人殺しを嫌がっていたのに、元人間の竜なら殺せるのですか?

 ミサキの基準が分かりません。


 元チャーリー達に続いて、恐ろしく太った小さな竜が出てきました。

 後に続く竜も全て丸々と太っています。


 筋肉がついて太いのではなく、ぜい肉がついて太い竜です。

 動きが鈍くてとても戦えそうにないですね。

 ぜいたくしていた高位の神官達でしょう。


 「「「「「ギャフ!」」」」」


 いけません、このままでは仇をミサキに殺されてしまいます。


「ミサキ、私の仇は殺さないでください」


「分かっています。

 だから殺せるのに殺さないようにしています。

 さっさと殺してくださらないと、後続の騎士達が喰われてしまいますよ」


「わかっていますわ。

 チャーリー、父上と母上の仇を取らせてもらいますわ!」


 楽に殺して差し上げるほどわたくしは優しくありません。

 激痛を与える為に、手足を叩き潰します。


 「「「「「ギャフ!」」」」」


 それはエリオット、ナサニエル、ベンも同じです。

 わたくしは一瞬で絶命させてあげるほど優しくないのですよ。

 貴男方よりも先に、配下の竜を殺して差し上げますわ。


 「「「「「ギャフ!」」」」」


 ミサキはわたくしと同じようにハルバートを振るって竜の首をはねて行きます。

 わたくし達は簡単に首をはねていましたが、やはり竜の鱗は硬いようで、ミサキの振るっていたハルバートがへし折れました。


 ミサキは直ぐに後続の騎士から予備のハルバートを受け取ります。

 普通は従騎士が騎士に従っているのですが、未熟な従騎士ではミサキの後をついていくことができないので、騎士長が従っているのです。


 「「「「「ギャフ!」」」」」


 などと考えながら、チャーリー配下の竜の首をはねていましたが、わたくしのハルバートも折れてしまったので、護衛騎士から予備のハルバートを受け取ります。


「おのれ、おのれ、おのれ!

 お前のようなバケモノのために、長年がまんして用意した事が台無しよ!

 死ね、死んでしまえ、ファイアストーム!」


 魔術書に書いてあったレベル7の火魔術です。

 わたくしが手に入れた魔術書から考えて、かなりの高位魔術です。


 ですが、人間を竜にする魔術よりはレベルが低いと思います。

 憑依魔術の事を考えると、そうだろうと思います。

 竜魔術が通じないわたくし達に火魔術を使うしかないなんて、少し哀れです。


「ファイアストーム!」


 わたくしも同じ火魔術を使ってやりました。

 イザベラが信じられないモノを見た人の表情になっています。

 わたくしとミサキの強さを、純粋な肉体の強さだと思っていたようです。


 魔力や魔術の支援なしのこれほど強くなれる訳がないでしょう。

 しかし、よく考えれば、身体強化はこの世界の考えではありませんでした。

 ミサキがわたくしに与えてくれた特別な力でした。


「死になさい、イザベラ」


 あぜんとした表情のまま、イザベラの首が飛んでいきます。

 どれほど憎んでいてもイザベラは女です。

 苦しませずに一振りで殺して差し上げました。


 ですが、チャーリー達は違います。

 苦しませて、苦しませて、苦しませた後で殺して差し上げます。

 ですが、竜のままでは拷問官も困りますわね。


「ミサキ、竜になった人間を元の人間に戻す方法を知りませんか?」

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