第5話

「とこちゃんの気持ち、ようわかったわ。私、とこちゃんのこと、応援するで。」

「きっこちゃん、ありがとう。うれしいわ。それはそうと、きっこちゃんのお父さんとお母さんは、どんな結婚やったか知ってるん?」

「親に言われて結婚したって、お母ちゃんが言うてたで。お父ちゃん、痩せっぽちで、そんな人いややってお母ちゃんが言うたら、お母ちゃんの方のおじいちゃんが、美味しいものを作って食べさせたらええって、言うたらしいわ。」

「そうかあ、でも、きっこちゃんのお父さん、まだ痩せてはるな。」

二人で大笑いした。

「きっこちゃん、うちらは、大恋愛して、幸せになろな。」

「ほんまや。どこの誰がどうしたこうした、誰々が何を言うたとか、噂話するおばちゃんにならへんで。」


 あの時の私達は、生きるということが、とりわけ、女性の人生というものが、どれだけ大変なものか、何も知らなかったのだ。今ならわかる。秀子おばちゃんは寂しかったのだ。

 私は私、などと豪語したところで、生きていく中で、他の人はどうなのか気になるのだ。人の不幸を知ると、自分はまだ運がよかったと妙に安心する。

 新聞配達をしながら知り得たことを他所の家で喋る。知りたい人がいるから、秀子おばちゃんはおしゃべりをやめられなかったのだ。

 今ならわかる。でも、あなたと同じようにはならないよ、秀子おばちゃん。


 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おしゃべり 簪ぴあの @kanzashipiano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説