32 好きだ、愛してる、ありがとう。

「太陽系は、どうなるのだ?」




 僕は、意識を取り戻すと、ハッとした。




 じぶんは、悍ましく、おそろしい、ことをしてしまったのだ。




 太陽を、食べてしまうだなんて、もう戻って来ないのである。




 「まさか、本当に、太陽を食べちゃうだなんてね。君は、やっぱり、面白いね。」




 破滅ちゃんは、クスクスと右手を顎にやって、笑った。




 「ああ―、うあああ。」




 じぶんのやってしまったことに、恐怖し、頭を抱え込んだ。




 太陽のなくなった、星々は、どうなっていくのだろうか。




 地球だって、太陽の周りを、くるくる回っていたのだ。




 なくなれば、ビューンと、飛んでいきそうなものだ。




 ぐるぐると回していた、糸を離すと、反対側に付けていた、重りが飛んでいくように、太陽という手から、地球も離れ、どこかへ行ってしまうのだろう。




 「太陽がなくなると、どうなってしまうのだろうか。」




 僕は、茫然として、抜け殻状態で、呟いた。




 「そりゃあ、太陽系がなくなるね。バラバラになる。」




 破滅ちゃんは、淡々と言った。




 「太陽系が、なくなる?」




 僕は、反芻した。




 「ええ。46億年の歴史ある、太陽系を、あなたは、破壊したのよ。地球は太陽と奇跡的な距離にあったから、生命が誕生できた。」




 破滅ちゃんは、気の毒そうに、遠ざかっていく、地球の方角を向いた。




 「君は、取り返しのつかないことをしたんだよ。」




 破滅ちゃんは、僕の耳元で、囁いた。




 「どうしたの、また震えてるよ。」




 破滅ちゃんは、顔色ひとつ変えず、目を三日月のようにして、笑っていた。




 震えが止まらない。




 妙な冷や汗が流れてくる。




 「宇宙は、寒いね。真っ暗だ。」



 

 破滅ちゃんは、しんみりと、静かに、言った。




 「太陽は、偉大だった。ありがとう。」




 破滅ちゃんは、涙した。




 「ありがとう。」




 僕も、涙していた。




 太陽が、あたしの中で、燃えているような気がした。




 「もう、後には、引き返せないよ。地球を、破壊しよう。」



 

 破滅ちゃんは、ずしりと僕の背中に手を当てて、押した。




 「破滅へ、行こう。」




 破滅ちゃんは、涙を流し、笑顔をみせた。




 太陽のなくなった宇宙で、破滅ちゃんには、光が当たってみえた。




 眩ゆい、光が、差していた。




 太陽からではない、異界から、届く光なのだろう。




 「破壊くん。 食べて?」




 破滅ちゃんは、胸から、原子爆弾と、水素爆弾を取り出すと、僕の口に中に、ねじ込んだ。




 「うええ。ゴホッ、ゴホッ。うう。」




 僕は、原子爆弾と水素爆弾を、無理やり飲み込む。




 「いい感じ、原子核融合人間になって、地球を、爆発させようね。」




 破滅ちゃんは、僕の頭を撫でて、右から頬ずりをした。




 「うわああ、身体がああ。」




 核兵器になっちゃってるよおお。




 細胞が、分裂して、ウランやら、プルト二ウムになって、中性子が生まれているのが、わかる。




 重水素、トリチウムの生成が、引き起こせるようになったのがわかる。




 ウラン、プルトニウム、重水素、トリチウム?




 わけがわからない、頭の中に流れてくる。




 破壊の歌だ。




 僕―、原子核融合爆弾になっちゃったよ えへへ。




 「破壊くん。手を出して。」




 破滅ちゃんは、僕の右手を握った。




 「行くよ。ぐるぐる、ぐるぐる。」




 破滅ちゃんは、僕の右手を取って、ぐるぐると回転した。



 

 ぐるん!ぐるん!ぐるん!




 「うええええん、はっやいよおお。」




 1000万㎞を、1秒間に回ってるよお。




 うわああん。




 光の速度を、超えちゃってますよおお。




 「ええいい! 地球まで、吹っ飛んじゃえやああ!。」



 

 遠ざかる地球へ向かって、飛んでく。




 ビュウウウン!




 「ぶへええ。」




 宇宙空間を、回転しながら、凄まじい速度で、移動する。




 光の速度を、悠々と超えて、時と空間を超越したスピードで、動くのだ。




 「おええええ。」




 クラクラする、吐き気がする。




 上下左右が逆さまで、右へ進むと、斜め左に行ったり、ぐにゃぐにゃな世界だ。




 わけがわからない。




 「ワープだよ。時と空間を超越した、速度で、移動すると、ぐちゃぐちゃになるんだ。」




 破滅ちゃんの声が、脳内に響いてきた。




 脳や神経が、ドロドロに溶けて、ぐちゃぐちゃに混ざり合って、透明なエキスを作っているような、ぬめぬめとした感覚が、ずっと、続いている。




 身体中の老廃物が、飛び出て、呼吸も出来ず、息苦しい。




快楽物質が、放出されていく感覚。




 体感的には、10日は続いていたように思われる。




 気づくと、地球が、目の前にみえていた。




 「今ので、11秒だ。」




 破滅ちゃんは、僕の脳に、語り掛けた。




 11秒だって!?




 何十日も、ずっと、頭を殴られている気分だった。



 

 脳をいじくり回されたり、身体中を、ぐちゃぐちゃに、すり潰されている感覚だった。




 「ち、地球なのか?」




 地球は、氷に覆われていた。




 太陽を失ったからだ。




 海も、森も、街も、川も、なくなった、地球の荒野へ、墜落する。




 ビュゥウウウウ、シュウウウウゥ




 痛てええええ、よおおお、熱ちいいいいいい、うええええん。




 大気圏突入で、身体中が焼かれる。




 ドバーン!




 地球に、落っこちた。




 核融合原子爆弾となって、爆発する。




 身体中が、分解され、ぐっちゃぐちゃに、なっちゃいました。




 地球の落下した位置に、大きなクレーターができた。




 「よしよし、えらいねえ。ちゃんと、落下爆発できた。うんうん。」




 破滅ちゃんは、笑みを浮かべ、再生しかけの、僕の頭を、右足で、踏んづけた。

 


 

 「うへへえ。」




 僕は、涙を流し、破滅ちゃんの足を感じながら、再生していった。




 「キメえんだよ! 地球壊すまで、爆発し続けろよ。おら、おらああ。」




 破滅ちゃんは、僕を、力強く、踏みつけて、地面に押し込んだ。




 「おら、おら、おらああ。おらあ。」




 破滅ちゃんは、容赦なく、僕を、踏む、踏む、踏みつける。




 「うぎゃああああああ。」




 バッコーン!バッコーン!バッコーン!




 破滅ちゃんに、踏まれる度に、原子核融合爆発して、地球に穴が開いていく。




 「いい調子だ、マントルもぶち壊して、地球のコア破壊しよ!。」




 破滅ちゃんは、穴の頂上から、大きな岩を僕に向けて落とす、落とす、落としまくる。




 岩に、潰される度に、昇天し、逝きながら、爆発する。




 バッコーン!バッコーン!バガーン!




 「おら、まだ、まだ、地球のコアまで、遠いぞ!」




 ペチン、ペチン、ペチン




 破滅ちゃんは、鞭で、僕の尻を、叩く、叩く、叩きつける。




 勿論、容赦はない。




 尻は、赤く腫れあがり、跡が、残っている。




 バッコーン!ドッカーン!ドリュリュリュリュリュ




 爆発し、穴が、大きく広がっていく。




 「えい。」



 

 破滅ちゃんは、胸から、太い針だらけの鎖を取り出した。




 「ぐるぐる巻きにしてっと。」




 破滅ちゃんは、トゲトゲの鎖で、僕をぐるぐる巻きに縛った身体も顔も、みえないほどに。




 「どうだ? 苦しいだろ。」




 破滅ちゃんは、笑った。




 身体中に針が食い込んで、気持ち悪い。




 「うぐっ。ギョえええ、ゲボ、ッつグフ、ひああ。」




 胸が苦しい。




 筋肉と神経という神経が、溶けていく感じ。




 身体中が熱い、頭が、真っ白になっちゃう。




 「神経が溶けて、ぐちゃぐちゃになる毒薬が、針から体に注入されてるんだ。気持ちいだろお?」




 破滅ちゃんは、鎖の縛る力を強めた。




 「つらいだろお?はやく爆発して、死んじゃいなよ。楽になれるよ。」




 破滅ちゃんは、頬を緩めて、二ヤァっと笑った。




 ドカーン!ボガ!ドガ!ドリュリュリュリュリュウ!




 大爆発して、地球の中心へ穴を空けていく。




 「うん。遂に、マントルを突き破って、外核を潰し始めたわね。」




 破滅ちゃんは、頷いた。




 あジじいいいいいい。



 

 熱い、液体の金属?が、僕の身体を溶かす。




 外殻というのは、液体金属で出来ているらしい。




 「えい。えい、えいのえーい!。」




 破滅ちゃんは、胸から、槍を取り出すと、穴の奥で倒れ込む僕に向かって、上から投げた。




 槍が、身体中に刺さって、穴が空く。




 グサ、グサ、グサ―




 「うぐっ。」




 「いい鳴き声だ。」




 破滅ちゃんは、上から、石油を流した。




 ドボン、ドボン、ドボン




 「よし、燃えろ。」




 破滅ちゃんは、マッチに火をつけると、落とした。




 ボワアア!




 身体が焼けるううううう!




 数百本の槍に刺され、石油塗れに、され、火をつけられる。




 「ぐああああああ。気持ちいよおおお。」




 身体中が、焼かれて、毒が身体中に、回って、うへへええ。




 爆発しちゃうよおお。




 ドッカーン!バッコーン!ドガガガガ!




 「素晴らしい!。」




 破滅ちゃんは、2500℃液体金属でできている、地球の外核が破壊されていく様をみて、拍手した。




 パチパチ、パチパチ




 「いいですねえ。もっとですよ、もっと、無茶苦茶にしてやるのです! 地球を粉々にしてやりましょう!。」




 破滅ちゃんは、興奮した声で、爆発する僕を、鼓舞した。




 顔は、恍惚として、昇天していた。




 「粉々になっちゃいました、放射能と毒で、身体中、ぐちゃぐちゃです。」




 僕は、粉々になった血肉を動かして、声を発した。




 ドドドドド




 地球のコアからの熱で、身体が焼ける。




 5000度である。




 ジュワリジュワリィ



 

 「地球の外核は破壊できたみたいですね。次は、内核です。わかってますね。」




 破滅ちゃんは、じろりと、僕を見下ろして、みた。




 「はい。爆発しますううう!。」




 僕は、元気よく返事した。




 破滅ちゃんは、銃で、僕を、撃った。




 バン!バン!バン!バン!




 10発ほど撃ち込まれた。




 「おら!。」




 破滅ちゃんは、僕の胸を思いっきり両腕で真っすぐ、殴った。




 両腕が貫通する。




 ビューン!




 破滅ちゃんは、両腕が僕の胸に貫通した状態で、穴から飛び上がって、地上に出る。




 「だりゃああ!。」




 破滅ちゃんは、穴に向かって、思いっきり、僕を振り落とした。




 ズドーン!




 穴の底に、墜落した。




 「痛てて。」




 穴の空いた胸から血や内臓が飛び出し、痛く軋む。




 「ゴホ、ゴホ。」



 

 僕は、血反吐を吐いた。




 ボタ、ボタ、ボ、ジャアアア、ドバアアアアア




 「水か?」




 穴の上から、液体が流れ込んでくる。




 クンクンと匂いをかいでみる。




 「石油くさい、 まさか―」




 僕は、恐怖した。




 ドーン!ドーン!ドーン!



 

 穴の上から、爆弾が落ちてきた。




 原子爆弾と、水素爆弾だ。




 「ひいえええ。」




 おそろしいことが、頭に浮かんだ。




 火をつけられて、ボコボコに燃やされるのだ。




 「うえええ。」




 穴の上から、流される石油が、僕の身長を超えはじめ、溺れる。




 ヌメヌメとして気持ち悪い。




 脳がムンムンとして、意識を何度も失った。




 スゥ、ボォ




 破滅ちゃんが、マッチを擦って火をつけた音がきこえる。




 「ちゃんと、爆発するんだよ、火つけてあげるからね。」




 破滅ちゃんは、火の付いたマッチを、石油の溜まった穴の中に、落とす。




 ポチャン。




 石油に、火が付いた。




 ボワアアアアアアアア!




 ひやああ、あちい、あちい、あちいあああ。




 石油が燃え盛ってる。




 身体にも引火して、熱されていく、溶けてく。




 ピカーン!




 辺り一面が、真っ白な光に包まれた。




 バッコーン、ビュゥゥゥウ、ドリュリュリュリュ、ドドドドーン!




 凄まじい爆音が、鳴り響く。



 

 うぎゃあああああああああ!




 原子核融爆弾が、爆破したのだ。




 身体中、粉々である。




 「まだ、終わってねえぞ。爆発しろ、破壊くん! ぶち壊せ、無茶苦茶にしてくれ。」




 破滅ちゃんは、叫んだ。




 うおおおおおおおお、やってやるぞ!




 破滅ちゃんに応援されて、力、漲っちゃうぜええええ!




 「破壊くん、やっちゃって!、終わったら、ご褒美あげるよ。」



 

 破滅ちゃんは、微笑んだ。




 「みてろよ。破滅ちゃん、僕は、やるぞ!。」




 ピカーン! ピピピピピ ピューイン ピューイン ピュ―ン―




 胸の辺りが、白く輝き、内臓が透けてみえる。




 ドリュリュリュ、ドガガガガ、バゴバゴ、ガガガガーン!




 勢いよく、原子核融合爆発し、内臓が飛び散り、美しい、花火となった。




地球の内核を、抉っていく。




 僕の血肉と、地球の内核が混ざり合い、美しく赤い光が、灯る。




 ボワワア




 あたたかい血の色で、辺りが染められる。




 「感じーる、感じるぞ! 地球に残された太陽のエネルギーを!。」




 地球の内核コアに貯められた太陽エネルギーは5000度


 


 とてつもなく熱い、熱い、熱くて、心地いい、太陽を感じられる。




 「む、胸がああ、うああああ!。」




 顔面砲で、食べた太陽が、身体の中で、共鳴してるよう。




 ボボボ、バボ、ガボガガ、ボワアアアアアアア




 地球の内核が、粉々に潰れて、僕と一緒になってゆく。




 地球と、一つになっていく感覚、気持ちいい。




 身体中、手の先から足の先まで、ゾクゾクして、そわそわとした、性の快感が駆け巡る。




 「破滅ちゃん、僕、あん、ああ、いぐううう。」




 僕は、地球で、破滅ちゃんのことを考えながら、イっていた。




 「あたしが、あなたを、最高に、きっもちよおく、してあげる。」




 地球からの、キスだ。




 「ほうら。あたしが、ほしいんでしょ。食べちゃいなさいよ。」




 地球は、僕の胸に入って来て、内側から、刺激してくる。




 グリグリと、抉られる感覚。




 たまらない、苦しさ。




背筋から、ゾクりゾクりとして、頭が真っ白になる感覚。




 「ああああん!、破滅ちゃああん、僕、地球に、おかされちゃってるよお、えええんん。」




 僕は、地球に、おかされ、アヘえっとなり、身体ガクブルになっちゃいました。




 「あなたと、一つになれたわ。さようなら。」




 地球は、僕の中へ消えていった。




 ピロローン!ムニュモニュウ!




 「か、身体が、溶けて、胸がッ。」




 胸が出てきた。




 「女体化してる!?」




 Fカップはあるぞ!




 うわあああああああ!、女の身体になってくよおおお!




 「どうですか? 真理なのです! 地球と合体し性転換は、世界の神髄なのです。」




 俺の中にいる、女の部分が、騒ぎ出す。




 「美少女になりたかったんだ。 俺は、魔法少女に憧れてたんだ。」




 僕は、目覚めてしまった。




 地球が、崩壊していく。




 ボワア




 僕は、燃えていた。




 太陽のように、光り輝き、凄まじい熱を発している。




 「地球を、終わらせたようね。」




 破滅ちゃんは、焔の火球となって燃える僕を、宇宙空間から眺めていた。




 「美しい姿になったわねえ。」




 破滅ちゃんに、僕から発せられる光が反射する。




 「あなたの光を感じていられる。」




 破滅ちゃんは、目を瞑って、大きく息を吸い、両手を広げた。




 3日3晩、僕は燃え続けた。




 粉々となり、量子レベルまで分解された僕は、虚数の世界を彷徨っていた。




 まだ、宇宙がはじまるまえの世界である。




 幽霊のようになって、無限かと思われる永遠の時間と空間を、ゆらゆらと消えたり、現れたりしていた。




 どうなってしまったのだろうか?




 外の声がきこえない。




 僕は、本当に死んでしまったのか?




 「破壊くん! 出て来て! ご褒美、欲しくないの?」




 声がきこえてくる。




 誰の声だっけか―、思い出せないや。




 凄く、大事な何かだった気はするのだけれど。




 破壊くんって、誰だっけ? 何だったけな。




 「破壊くん! あたしよ、破滅ちゃんよ。 ねえ、いなくならないでよ。」




 泣きそうな声がきこえる。




 破滅ちゃん。




 懐かしい響きだな。




 ポロ、ポロ、ポロ、ポロ―




 「あれ、どうして、泣いてるんだろう―。」




 僕は、涙を流していた。




 「好き。破壊くん。」




 彼女は、僕を好きだと言った。




 ムギュウ




 「大好き!絶対に離さない。」




 彼女は、僕を強く抱きしめた。




 とても、冷たい身体だった。




 なのに、どうして、心がポカポカあたたかいのだろう。




 破滅ちゃん―。




 「好きだ。」




 僕は、無意識に、彼女を抱きしめ返していた。




 「破滅ちゃん。」




 走馬灯のように、ぐるぐると、破滅ちゃんとの記憶が、蘇ってくる。




 好きだ 好きだ 好きだ 好きだ 




 太陽も地球もなくなった、空っぽな宇宙の中で、僕たちは、抱きしめ合っていた。




 チュ




 「ご褒美のキスだよ。」




 破滅ちゃんは、僕にキスした。




 甘い、破滅ちゃんの味を口で感じる。




 舌を絡み合わせ、奥深く、吸い合う。




 「ああ、んんっっつ。」



 

 僕は、顔を真っ赤に染め上げて、喘いだ。




 「かわいいわね。」



 

 破滅ちゃんは、顔を両手で包み込んで、僕の下唇を食べるように、唇で挟んだ。




 「いい、いいの!」




 僕は、破滅ちゃんのキスに、絶頂し続けた。




 ギュウウ




 破滅ちゃんは、僕を両手で抱きしめて、キスを続けた。




 冷たくて、あたたかい身体、息遣いや、仕草が愛おしくて、とろけた。




 僕たちの身体は、ピンク色に染まり、愛を感じていた。




 「ねえ、破壊くん。」




 破滅ちゃんは、話し始めた。




 「世界を、滅ぼしたこと、後悔してる?」




 破滅ちゃんは、僕へ顔を近づけて、目を見開いて、きいた。




 「―。」




 僕は、黙りこくった。




 「みてみな。もう、太陽系は、滅茶苦茶になって、消えた。」




 破滅ちゃんは、辺りを見渡して、俯いた。




 「わかるかい? なんもなくなったんだ。」




 破滅ちゃんは、僕の顔をみて、無表情に、淡々と言った。




 「破滅ちゃんの為だよ。いいんだ。」




 僕は、返した。




 「そう。」




 破滅ちゃんは、遠くを見つめた。




 「あたしは、世界を壊す必要があった。無茶苦茶にしないとダメだった。」




 破滅ちゃんは、話し始めた。




 「どうして?」




 僕は、疑問に思って、知りたくて、きいた。




 「世界の為さ。また、画面の向こうにいる、君たちへメッセージだ。」




 破滅ちゃんは、何もない虚空を、じいっと、みつめていた。




 「画面の向こう?」




 わけがわからなくて、僕は、声に出して、繰り返した。




 「世界の外側で、あたしたちを、みている人たちのことだよ。」




 破滅ちゃんは、手を振って、睨みつけた。




 「わけがわからないよ。」




 僕は、項垂れた。




 「だろうね。あたしたちは、世界を滅ぼして、人々へ警告したんだ。」




 破滅ちゃんは、笑った。




 「警告ですか?」




 僕は、首を傾げた。




 「ああ、きっと、わかってくれてるさ。世界を滅亡させたっていいことなんて、ない。どうすれば、よかったのか。」




 破滅ちゃんは、頭を抱え苦悩の表情を浮かべた。




 「破壊しないとわからないこともある。だから、すべてを壊す必要があった。」




 破滅ちゃんは、右手を、強く閉じた。




 「世界は簡単に滅びる。人類も同様だ。貧困で苦しむ人、少子高齢化、戦争、気候変動、物価高、悪政で、苦しんでる。」




 破滅ちゃんは、涙を流した。




 「お労しいお姿。」




 僕は、破滅ちゃんの涙に、感動し、胸を打たれた。




 「君は、ただの、一人に過ぎない。」




 破滅ちゃんは、僕へ指を差した。




 「社会で、適応できなかった、負け犬だ。」




 破滅ちゃんは、僕を煽りの構図で、見下ろした。




「上は、年寄りに占拠され、弱者は淘汰される。誰もヤバい現状を変えられず腐っていく世界。破壊したくもなるだろう。衝動的に、壊して、無茶苦茶にしたくなる。ガタがきている。」



 

 破滅ちゃんは、未来を憂いでいた。




 「あたしは、おまえを愛した。救いたかった。もう時間だ。」




 破滅ちゃんは、静かに僕の方を振り向いた。




 「世界は、思っているほど悪くはない。君が、混沌としたクソみてえな現実を、どうにか、生き延びて、幸せになることを祈ってる。」




 破滅ちゃんは、僕に抱き着いた。




 「ありがとう。破壊くん、君は、立派に、世界を破滅させた。」




 破滅ちゃんは、僕の頭をよしよしと、撫でる。




 「終わりじゃあない。はじまりだ、世界を元に戻す。あたしの命と引き換えにな。」




 破滅ちゃんは、僕を強く、強く、抱きしめた。




 「待ってよ。破滅ちゃん、いなくならないでくれよ。」




 僕は、コワかった、また一人だ。




 どうしたらいいんだ。




 いなくならないでくれ。




 「大丈夫、おまえはもう立派だ。一人だって歩いて行ける、社会で、繋がっていける。」




 破滅ちゃんは、優しすぎる声で、僕をあやした。




 僕の、お母さんだ。




 「思い出してみろ。君を愛してくれた、村の人たち、宇宙船でのこと、月でのこと。」




 破滅ちゃんは、言った。




 「いやだ。元に戻さないでくれ。最悪の世界に帰りたくない。厭だ、あんな、ゴミみたいな人生も、世の中も。」




 僕は、泣き叫んだ。




 「わかってる。でも、どうしようもないんだ。運命を恨んでも、憎んでも、じぶんが苦しくなるだけだ。生きていかないといけない。」




 破滅ちゃんは、泣き叫ぶ僕を諭そうとした。




 「認め合って、許せ、誰かと、きっと繋がれる。」




 破滅ちゃんは、宇宙の彼方を、みた。




 「君があたしの為に、したように、他の誰かを、愛し、許せ。」




 破滅ちゃんは、僕を抱きしめた。




 「さようなら。ありがとう、君とあたしは、ずっと一緒だ。」




 シュラララルルルルル




 破滅ちゃんは、僕の胸へ、入っていった。




 シャララン!




 「破滅ちゃああああんんんん。」



 

 破滅ちゃんが、消えた。




 ピコーン!シュルランシュルラン。




 宇宙が! 巻き戻っていくううううううううう。




 うあああああああああああ。




 気持ち悪い、頭がクラクラする。




 僕は意識を失ってしまった。




 目覚めると、僕は、破滅ちゃんと出会った、道路にいた。




 キュウううううううう、―




 ん?




 トラックだ。




 7月29日 16歳の誕生日 トラックに轢かれる前に戻ったのだと、理解した。




 「あたしからの最後のメッセージだ。もう、君は、不死身じゃ、ないよ。あなたが幸せになること、信じてる。」



 

 頭ん中に、破滅ちゃんが流れ込んできた。




 涙が流れた。




 「死んでたまるかああああああ。」




 僕は、必死で、道路の脇に、走った。




 道路脇に転がっていった。



 

 「痛ててえ。」




 僕は、身体中を擦り剝いた、腕や足、腰の辺りを強く、打った。




 どうにか、生き残れたみたいだ。




 「大丈夫ですか。」




 心配そうに、僕をみつめる、女の子がいた。




 誰だろう、知らない人だ。




 「ありがとう、大丈夫だよ。」




 どうしたわけか、涙が流れてきた。




 「ふふふ。面白い人ね、どうして泣いているの?」




 女の子は、笑った。




 「わからない。」




 僕は、首を振った。




 「よく、轢かれずに済んだわね。感心だわ。」




 女の子は、興味深そうに僕の目を覗き込んだ。




 僕は、嬉しかった。




 普通に、僕を心配してくれる人がいて、救われた。




 「あなた、高校生?」




 女の子は、きいた。




 「いいや。学校に通ったこともない。」




 僕は、俯いた。




 「ははは。まさか―、ありえないわよ、学校に行ったことがないだなんて。でも、すごいみすぼらしい格好をしてるわねえ。」




 女の子は、目を、見開いて、僕をじろじろとみた。



 

 「何歳?」



 女の子は、きいた。




 「16です。」




 僕は、答えた。





 「ま、どうでもいいや。家は、流石にあるでしょ?」




 女の子は、きいた。




 「ない。」




 僕は、項垂れた。




 「へえ、ホームレスなんだ。大変だね、助けを求めるといいわ。きっと世の中、いい人もいるものよ。」




 女の子は、笑った。




 「助け―。」




 僕は、反芻した。




 「ええ。あたし、ホームレスって大嫌いなのよ。」




 女の子は、唾を吐き捨てた。




 「―。」




 僕は、黙りこくってしまった。




 「はあ。もう、どうしようもない、ポンコツね。凄い怪我だし、血がだらだらよ、痛くないの? ほら、いいわ、ついてきなさい。」




 女の子は、僕の汚い手を、お構いなしに、握って、歩き出した。




 空を見上げると、太陽が、燦燦さんさんと輝いていて、光が心地よかった。




 青空が、どこまでも続いている。




 「また、泣いてる。気持ちの悪いやつね。」




 女の子は、心底呆れた様子で、僕をみて、笑っていた。



 僕の人生が、新しく、はじまったような予感がした。



 ありがとう、破滅ちゃん。



 胸元に、手を当てて、僕は破滅ちゃんを感じていた。



______________________________________ご愛読、ありがとうございました。


書いていて、楽しい作品でした。


終わりだと、思うと、寂しい感じになるくらいに、感情移入できました。


読者の方々を、楽しませ、感動させていられれば、幸いです。





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生まれてすぐ捨てられ、ホームレス暮らししてましたが、実は不死身だったみたい。美しすぎる不老不死のS女に拾われ、死刑レベルのお仕置きが、ドmに気持ちい、あなたの為に世界滅ぼします、ご褒美キスくだしゃい。 無常アイ情 @sora671

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