第34話 エピローグ

 それから五年の月日が流れた。その間に、マルスを幽閉してアレクシア王国へ理不尽な要求を突きつけていたタラント王国はクーデターによって内乱状態に陥っていた。王族は反乱軍によって皆殺しにされたが、いまだに混乱が収まらず、王家派と反王家派が今も各地で散発的に争いごとを起こしていた。


 中立関係にあったアレクシア王国とカーマンド王国はこのクーデターを機に同盟関係を結んだ。今も両国に押し寄せる難民の支援に、協力して対応している状態である。

 マルスはいち早く難民の支援を国王陛下へ進言し、その動きは国内外へと広がりを見せていた。


 幽閉されているアーサー王子は、いつ殺されるかも知れないという恐怖から日に日に痩せ衰えていた。だがしかし、そんなアーサー王子を救おうとする人物はいなかった。なぜなら、第一王子派はマルスが無事に戻って来てからすぐに、厳しく粛清されたからである。




 いまだに収まらない混乱の最中、一つの予言がもたらされた。それを重く見たアレクシア王国の国王はひそかにマルスに密命を下した。

 その密命を果たすべく、マルスは仲間を集め、とある森へと向かった。


 その森はうっそうと木々が生い茂っていたのだが、不思議なことに足下まで光が差していた。最初はその幻想的な光景に驚き感嘆の声をあげていた。しかし、もう一週間ともなると、さすがにうんざりし始めていた。


「ねえ、本当にこの森にあるの?」

「リゼット、まさかお前、俺のばあちゃんを疑うつもりか?」

「そんなつもりはないけど……その、おばあ様も見つけるのに苦労したんでしょう?」


 体力の限界に達したのか、リゼットが座り込んだ。そんなリゼットの様子を見て、マルスが苦笑する。そろそろ精神的にも限界に近づいているのだろう。水の心配は要らないが、そろそろ食料の心配をしなければならないころ合いである。


「師匠も一度しか見ることができなかったみたいだからね。そう簡単には見つからないよ。ルーファス、そろそろ引き返した方が良いかも知れない。食料も厳しくなって来たんじゃないの?」

「確かにそうですが……この森に自生している野菜や動物を狩れば、まだまだ行けますよ」


 ルーファスの返事を聞いたリゼットが頭を左右に振った。信じられないとでも言いたそうである。そのとき、先を進んでいたライナが大声をあげた。明るく、歓喜に満ちた声だった。


「マルス様、見つけましたよ! きっとあれだと思います」

「本当かよ! やったぜ。これでばあちゃんがウソつきじゃなかったことが証明できる。ほら、行くぞリゼット。いつまで休んでいるつもりだ」

「いつまでって、ついさっき座ったばっかりよ」


 座り込むリゼットをルーファスがお姫様抱っこすると、リゼットが小さな悲鳴をあげた。そろそろ休憩にしようと思っていたマルスだったが、目的地にたどり着いてからでも良いかと思い直し、ライナの声がする方向へと向かった。


 そこはなぜか草木が全く生えていない空間だった。その場所には石でできた祭壇があり、中央の台座には一本の剣が突き刺さっている。全体が黄金色に輝くその剣が、探し求めていた、本物の聖剣エクスカリバーであることをマルスは確信した。

 まっすぐに台座へ向かうマルスをルーファスがとめる。


「待って下さい、マルス様。罠でも仕掛けてあったらどうするのですか!」

「罠が仕掛けてあったなんて、聞いてないけど」

「それでもです。マルス様の身に何かあれば、俺の首だけじゃすまないですからね」

「そうですよ。あたしが罠がないかを確認するので、それまで大人しく待っていて下さい」


 そう言ってライナが慣れた手つきで祭壇を調べ始めた。もう十五歳なのにいまだにライナから子供扱いされていることに、自分のふがいなさを感じるマルス。そんなマルスの耳にライナの困惑する声が聞こえて来た。


「何かしら、この文字。えっと、手持ちの言語辞典には載っていない文字ね」

「おいおい、そんなことってあるのかよ?」


 ルーファスが警戒することなくライナのところへ向かうのを、マルスとリゼットがあきれたように見ていた。二人は何が起きても良いように先ほどから周囲に気を配っていたのだった。

 ライナと並んで台座に書いてある文字を調べ始めたルーファス。文字を引っかいたり、触ったりしていたが、何の変化も見られない。


「何か分かった?」

「分かりませんね。分かることと言えば、この文字が三種類の文字で書かれているってことくらいですかね?」


 それを聞いたマルスは頭の中でそれと良く似た文字を思い出していた。居ても立っても居られなくなったマルスは、ライナとルーファスの静止も聞かずに台座へと近づいた。もちろん二人は慌てた。今、この場で一番怪しいのはこの文字である。


「マルス様、いけません!」

「ここは危険ですから下がって下さい!」

「良いから、良いから。えっと、なになに、初カキコ……ども……ぷっ、くっくっく……」


 文字を見て突如笑い出したマルスを見て三人が驚いた。ぼう然と目を丸くしている三人を横目にマルスは剣の前に立った。そしておもむろに剣の柄に手をかける。


「そこで俺たちを見て笑っているんだろう? エクス」


 音もなく台座から剣が引き抜かれた。剣はますます光を放つ。


『よう、相棒。生きてたか?』

「おかげさまでね。そっちはどうなの? まさか、また死にかけてるんじゃないよね?」

『それは違うぜ、マルス。俺死んだ!』


 マルスとエクスの旅はまだまだこれからも続いてゆく。




 ――Fin

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

マルスとエクス えながゆうき @bottyan_1129

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ