果たしてそれは本当に『兄』と呼べるのか

 不思議なクラゲのせいでスライムみたいになっちゃった兄と、その彼に会いに行った弟の物語。

 ……という、どう見てもモンスターパニックっぽい設定で、ど直球のヒューマンドラマを貫いてくれるすごいお話です。

 胸に沁みました。
 兄と弟の距離感。互いに良く知る相手でありながらも、しかし近しいからこそどうしようもなく不器用な、独特の関係性のようなものがたっぷり詰まっています。

 ただ明るい過去ばかりではなく、むしろ悲しくつらい思い出があったりもした中で、でも決して憎しみ合うような関係でないところがとても好き。

 個人的に印象深いのは序盤、スライム化した兄を見た主人公が、それを「兄」でなくあくまで「兄を捕食したスライム」と認識しようとするところ。

 確かに見るからに人間ではなくなったそれを、しかし『兄』と呼んでいいものかどうか。
 人は何をもって「その人」をその人個人と判断し、そう認めるのか。
 SFのような問いであると同時に、主人公自身の複雑な内心を示してもいて、とても印象に残りました。

 兄弟の独特の関係性と、あとそれ以外の愛や絆をも描いた、とても素敵な物語でした。