サミダレ
雪国匁
第1話
20××年6月18日
外は雨だった。別に私は外に出れないから関係ないんだけど、それでもこの天気は心を落ち込ませてくる。
これ以上私を感傷的にさせなくても、もう十分感傷的だよ。
ねぇ御天道様、聞いていますか。こんな雨、誰も得しないよ。
20××年6月19日
外は雨だった。昨日に続いて、ザーザーと音が聞こえてくる。みんな傘を差していて、元気そうな人は見当たらなかった。
小さい頃は雨の日は合羽を着てシグレと遊んでいたけど、今はもうそんなことはしない。
だって発作が起きたら死んじゃうんだもん。できないよ。
20××年6月20日
外は雨だった。そろそろてるてる坊主を飾ろうか迷う天気だ。でも、晴れたところで私に良いことなんてないんだけど。
そういえば、今日で私がこの病院に来てから7年になるのか。花の高校生活って何だっけ。
……去年の修学旅行、みんな楽しそうだったなぁ。
20××年6月21日
外は雨だった。部屋の窓は濡れっぱなし。外の景色も雨のせいで全然見えないし、百害あって一利なし。
部屋の外から体育祭が無くなる〜って声が聞こえてきた。同じ学校の人だろう。
私はどうせ行けないし、いっそ潰れてしまえばいいのに。
20××年6月22日
外は雨だった。こんな雨ばっかりじゃ、シグレも遊びに来てくれないじゃん。あーあ、退屈だなぁ。何しよう。
私の話相手はポツンと置かれているテレビだけ。芸能人の顔も、もう見飽きた。
誰かにこの病気がそっくりそのまま移ってくれたら、私は解放されるのかな?
20××年6月23日
外は雨だった。家の隣に川があるんだけど、そこの水も結構増えてるだろうなぁ。最近全然見てないから、姿形もおぼろげだけど。
1日のスケジュールは、注射、点滴、お母さんが来たら服を渡して、また点滴。
何の為に生きてるんだっけ、私。
20××年6月24日
外は雨だった。シグレ、遊びに来ないかなぁ。また一緒にゲームとかしようよ。結構練習したから、もう負けないよ。
暇潰しに勉強でもしてみるも、何の為にいつ使うか分からないから止めてしまう。
鉛筆に力を込めてみる。結構頑張ったけど、折れなかった。
20××年6月25日
外は雨だった。天気予報のお姉さんもうんざりした表情を浮かべていた。だよね、気持ち分かるよ。みんなには絶対分からないだろうけど。
私って、いつになったら退院できるんですか。そう聞いてみた。
きっと良くなるわよ。そういった看護師さんは、時期を教えてくれなかった。
20××年6月26日
外は雨だった。地理か地学か物理か科学かわからないけど、そろそろ洪水が起きても良い気がする。起きてくれたら、私はきっと自由になれる。
でも、お母さんやお父さんやシグレが死んだら嫌だなぁ。
その時は、私が身代わりになってあげよう。そうだ、それがいい。
20××年6月27日
外は雨だった。シグレからメールが来たけど、体育祭は無くなったらしい。悲しそうだったけどゴメンね。あはは、いい気味だ。
明日遊びに来れないかと聞いたら、すぐにいいよと返事が来た。
久しぶりに楽しい時間を過ごせるかもしれない。
20××年6月28日
外は雨だった。ここまで結構遠いから、シグレも来るの大変そうだな。早く雨も止んだら良いのに。
ところで、何だか廊下がさっきから騒がしいんだ。
何かあったのかな? まぁ、私には関係ないや。
20××年6月29日
外は雨だった。
シグレは事故に遭ったらしい。ここに来る道中で。雨で前がよく見えず走ってきたトラックに轢かれたらしい。さっき、シグレのお母さんとお父さんが泣きながら歩いてみるのを見た。
あーあ。
20××年7月1日
外は雨だった。
さよなら
そこで日記は途切れていた。
まぁ偏屈で悲しい日記だ。でも、あの時あの状況ならしょうがないか。
じゃあね、6月の『私』。
生まれ変わったら、みんなと一緒に遊べますように。
サミダレ 雪国匁 @by-jojo8128
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