第20話 揺れる
頬にあたる夜風が心地いい。
最後まで気を抜かないようにと、アルコールをたしなむこともなく過ごしたけれど。
実にあっけない終わり方だった。
結局聖女様にプロポーズしたのかどうかは下々の私ではわからなかったけれど。
おきまりだというラストダンスの曲が流れて、最後くらいは踊ろうと慣れないステップを踏んで踊るのは実に楽しかった。
会場を楽しく縦横無尽にアインのリードで動いた私の身体はほてりが冷める間もなく、王族がパーティー会場からさっさと退場し。
今回のパーティーについて一言の挨拶が誰かわかんないおじさんがしているのをぼんやりと聞いて。
後は身分の高い順に会場の出入り口が混雑しないように帰された。
身分的に低いラリアと騎士であるネル卿は一緒に退場することはできなくて。
私はアインに手を引かれてパーティー会場を後にした。
パーティー会場はまだ煌々と灯りがともされ、大勢の人が中にいて、ざわつく声がまるでパーティーが終わることを惜しむ余韻のよう。
会場前には身分順の退出がすでに手慣れた従者たちによって、馬車がずらりと並ぶ。
私たちは真っ先に会場を後にしたからこそ、これから出てくる人を待ち受ける長い馬車の列をみて下位の身分ともなると退場時間が何時になるのやらと思ってしまう。
先に馬車に乗ったアインが私に手を差し出し、それに私は手を重ねる。
幸せだななんて思うけれど。
私が暗殺されかけた問題は何一つ解決していない。
唯一の希望というと、ただ一つ。
とにもかくにもルミナがロニと結ばれ物語が終われば、この悪夢のような夢がさめるのではないか? という点だ。
覚めない可能性はあるけれど、今はそういうことは考えたくなかった。
なのに……
次の日から私は珍しく朝から新聞を所望するようになった。
理由はただ一つ。
第一王子ロニと聖女ルミナの結婚報告が掲載されるのを見逃さないためだ。
二人の邪魔者で悪役として立ちふさがるはずのアインは、二人の恋路の邪魔を……まぁ、ルビーは横取りしてしまったけれど。
とにかく、邪魔をすることはない。
パーティー会場では私に見張りなの!? ってくらい張り付いていてルミナと二人で踊ったりすることはおろか会話をすることも見受けられなかった。
アインという邪魔者がいなければ、他にロニと互角に争える顔と変わらぬ地位を持っている男はそうそういないから、落ち着くべき場所に落ち着くと思うのだけれど。
私が望む知らせは一向に新聞に掲載されることはなかった。
「ラリア、あの今日の」
「号外でしたらありませんよ」
新聞ではなくこういうのは号外でやるのかと一日に何度もラリアに確認するものだからラリアはもう前のめりで私の質問の答えを返す。
二人の恋愛状況に大きな進展はない。
かくいう私も、あの日以降命の危機を感じたことはない。
夜にこの屋敷にいると、恐怖を思い出すせいでアインと恋愛的な進展もとくにない、そしてそれを責められることもない。
ただ前と違うのが、ルネ卿が私の護衛兼友人ということで毎日警護にあたるようになったことと。
パーティー会場で私を見た人が、思ったよりもまともそうってことでちょっとしたお茶会なんかに誘う手紙が届きだしたことくらい。
といっても、私が誰かのお茶会に行くことはない。
もうこれは自主的に拒否している。
だって、まだ誰が暗殺を企てたのかがわからないのだから、こういうのはもう避けるに限る。
たまにラリアとネル卿それに護衛を何人もつけて町に出て買い物をしたりお茶をする。
足ることを知るって大事よね。
なんて今日も楽しくしていた時に事件は起こったのだった。
死にたくない私は悪役から逃げることにした 四宮あか @xoxo817
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