第19話 ヘンテコパーティー

 身分は高いけれど、メンヘラ行動のせいで人前に出せないってことで社交活動を全くしたことがない私、リリー・バレリアと。

 この中では一番社交力が高いけれど、身分がいかんせんギリ貴族のところに参加しできるかもしれない程度のメイドのラリア。

 身分はそれなり、忠誠心はちゃんとあるし、剣の腕っぷしならその辺の令嬢にはおそらく絶対負けないんだろうけれど、社交のことはさっぱりの女騎士ネル卿。



「どうしても、参加しないとダメかしら?」

 どう考えも、パーティーに行く方が墓穴を掘りそうでしかない。

 私のそんな疑問に、二人は顔を見合わせてこそこそと話し始める。



 しばらく話した後、意を決したようにラリアが言葉を発した。

「落ち着いてお聞きください。そのあくまで根も葉もない噂ですからね」

「改まっていったい何?」

「その……アイン様が聖女様に気があるのではないか? と巷ではその話でもちきりで」



「なんで!?」

 思わず机をたたいて私は立ち上がってはっとした。

 聖女様との接点がまったくなかったし、気のあるそぶりはつゆほどアインは見せていなかったのにどこでそういう話が進んだの!? と思って思わず言ってしまっただけの言葉が、この屋敷ではどういった意味でとらえられるかに気が付いたからだ。



「落ち着いてください、噂。本当に根も葉もない噂でございます」

 私は立ち上がっただけにもかかわらず、今日初対面のネル卿が私を落ち着かせて席に座らせようとしてくる。


「落ち着いている、落ち着いているから」

「私どもはちゃんとわかっております。聖女であることを確かめる審問会の際は、逃げた聖女にあきれアイン様が帰ってこられましたし。ミサに参加された際も聖女様と口を利くようなことが一言すらなかったことも」

 私が知っているアインと聖女ルミナはそういう感じだ。

 影で二人があっていなければとつくけれど。

「身分の高い方というのは、常にゴシップのネタにどうしてもされてしまうのです」

 ラリアだけではなく、ネル卿もそういって私が落ち着くような言葉選びをして話をしめた。




「つまり……そういうよろしくない噂があるからこそ。私がもしパーティーにアインと共に参加しなければ、アインは聖女様にやっぱり気があるから私を置いてきたと噂が出かねないとか?」

「「そうでございます」」

 私の質問に、二人が食い気味で相槌を打った。




「本当は騎士である私ではなく、こういった社交界でうまく取り入れるタイプの令嬢が付いてくれればよかったのですが。先ほども言いましたが適任がおらず。その、消去法で……」

 ネル卿はそういって頭を抱えた。




「リリー様! とにもかくにも、今回さえ乗り切ればなんとかなります。アイン様もそばを離れることは基本されないといっておりましたよ!」

 そうしてこうして、病欠することもかなわず私たち社交の場に明らかに向いていない三人がつれだち、パーティーに参加することとなった。




 いったいどうなることだと思いきや。

 アインは本当に私の横にずっといたのである。


 エスコートされて会場に入れば、しばらくすれば私はラリアとネル卿の三人でなんとかある程度の時間までは会場で奮闘しなければいけないと思っていたのだけれど。


 本当にアインが横にベタ付状態だった。

「私は、うれしいけれど。こんな風に横にずっといても大丈夫なのですか?」

 思わずそう聞いてしまうほどだった。

 アインが横にいることで、社交術が必要な失礼な質問や意地悪な質問をされることはなくて私にすると快適だし。

 大丈夫です! といっていたラリアは会場についたらかなりガチガチに緊張していて、今日もうダメかもと思っていたから、私にするとこれが一番楽でいいのだけれど。


「大丈夫だよ。第一王子も、僕がリリーの傍にいて離れないことをきっと望んでいらっしゃるからね」

 アインがそばにいることで私の緊張はかなりとけて、少し料理をつまんだり。

 たまにダンスを踊ったり。

 二人で挨拶をかえしたりと割と穏やかな時間が過ぎていく。



 パーティー会場の今日の主役は、聖女ルミナで。

 公の場で大体的に話しかけられる数少ない場ということで、多くの人が悪い噂が立ち込める私ではなくて。

 いい話満載であり、今日第一王子から婚約を申し込まれるだろうルミナに群がっていた。


 アインはというと、聖女様を私が見ていた! と言い出したら困るのか、前回のミサの比ではないほど、徹底的に聖女様に背を向け、常に私の方を向いていてむしろこっちが申し訳なくなる始末。



 アインが私を最優先にしている態度をとることで、こそこそとこちらを向いて陰口をいっていただろう令嬢はだんだんと静かになっていくのにもほっとしていた。



 どういう意図なのかはわからないけれど、アインはこの場で徹底的に私に首ったけと言わんばかりにずっとずっとふるまっていた。



 何度か明らかに私とアインを離すような動きはあったものの、アインが動かなかった。




 緊張が解けてくると、他の会場の皆様と同じように、私も今日のメインイベントの行方が気になりだす。

 プロポーズをするのかどうか。

 といってもプロポーズに使われる予定のルビーは今回もアインの手によってネックレスに変わってしまったけれど。

 ネックレスはルミナではなく私に送られたから、プロポーズは十分にあり得る。




 パーティーの時間は緩やかに過ぎていき、席を外していなかった聖女様と第一王子様が席をはずすのを今か今かとみんなが待ちわびていたのだけれど。


 一度だれかが聖女を呼びに声をかけたようで、私の期待はかなりたかまったのに。

 パーティーは何事もなく終わってしまった。



 そう終わってしまったのだ!





 











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