第18話 どうなる私
アイン曰く、前大公閣下は病でかなり勢力が落ち、付き従っていた家門たちは軒並み先行きがわからない前大公閣下ではなくアインを選んだそうだ。
屋敷の中にいた重要なポストを担う人物も、あくまで忠誠を誓っている物はバレリア家であり、個人ではない人物が多かったというか。
私を暗殺してまで通さないといけない通りがわからないと首を振る。
それは真実なのだと思う、アインは王国で一番の情報ギルドの実はボスだった。
そこを通して、身辺を洗ってもつかめなかった理由が私にわかるはずもない。
「狙われてるのは、私?」
私が自分を指さして聞くと、心配そうな顔でアインはうなずいた。
「アインではなくて?」
「一応僕は今ソードマスターだから、僕を殺すつもりならあんな刺客は送らないし、僕の身動きを封じるために毒を盛るなりしなければいけないと思う」
ソードマスターになるのだった、人よりもいろんなことに敏感に気が付けるし、暗殺にたけた人物が真っ向勝負して勝てる相手ではない。
「わ、わ、私はどうなるの?」
動揺しまくりで問うとアインはニコリと笑って私をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫、リリーの邪魔になるやつは全部僕がなんとかする。絶対に殺させたりなんかしない」
心がきゅんっとなるロマンチックなシーンかもしれないけれど、私の命が狙われていることを知った今はそんなことどうでもいいくらいだ。
「私はどうしたらいい? 家にこもってる? こもってると危ないなら、どこか遠くでもどこでも行くんだけれど」
「とりあえずはパーティーだね。政略結婚でしぶしぶ一緒にいる相手ではないって示すところからかな。リリーに手を出せば、僕が黙っていないとわかればかなりの抑止力になるんじゃないかなと思うんだけれど」
とにもかくにも他に頼れるところはなく。
私は本編におそるおそるアインと共にかかわることにした。
パーティーまでは目まぐるしかった。
ただ行けばいいものではなく、正式な大公妃としての初のお披露目も兼ねていることもあって、ふらっと気軽になんてものではなかった。
パーティーに出席することを決めたものの、私のメンタル面がよろしくない状態で続いていた婚姻だっただめ、知り合いなど誰もおらず。
パーティーでは四六時中アインの隣にはいるわけにはいかない、かといってパーティー慣れしていないどころか、暗殺が差し向けられた私を一人にしておくわけにはいかないとのことで。
そば仕えをしていたラリアの出が一応分家とはいえ本家である子爵家とはそれほど遠い間柄ではないからと一緒に行くことになった。
ラリアだけでは正式な貴族の令嬢ではなく心とないということで、バレリア家につかえる家門から一人の女性が私の友人としてそばにつくことになった。
いきなりパーティー会場で今日はよろしくね! なんてことをするわけにはいかず。
パーティーの前に何度か顔を合わせることになって私の気は正直重かった。
バレリア家に使える家門ということならば、私の奇行のかずかずを知っていただろうし、そう思うと気が重い。
「リリー様、大丈夫です。それに彼女以上にぴったりの人選はおりませんから」
不安そうにする私にラリアがそういってほほ笑む。
そわそわと屋敷の玄関をうろついていると、一人の騎士が現れた。
面をつけているので顔はみれないけれど、腰に帯刀していることに気が付いてまさかまた暗殺かと私は真っ青になった。
面を取ると現れたのは、燃えるような赤い単髪と金の瞳だった。
「騎士の訓練が予定よりも押し約束の時間に遅れそうだったので、このような格好のまますみません」
そういう声は女性だった。
「お待ちしておりました、ネル卿」
びっくりしている私の横で、ラリアがそういって卿付をして頭を下げる。
どうしたらいいの? としばしの間があると。
ラリアがここは私だけが二人を知っているの? と思ったようでラリアがにっこりと笑ってまずは私に説明をする。
「バレリア大公家の騎士団に所属されているネル・ライラック様です。ライラック家という家門がございますが。彼女は騎士として功績をたて、個人として男爵位を賜っておられるので、ネル卿と私どもは呼んでおります」
「ごきげんよう、ネル卿」
にこっとぎこちなく笑って見せた。
どうしよう、小説にでてくる人物が現れるかと思ったら、まったく知らない人が現れてしまった。
よく考えればわかることだけれど、小説はルミナの視点で書かれている為、小説には一切登場しない人物がわりといるのである。
「ネルでかまいません、爵位といっても領地をもっているわけではなく。生きている間は爵位にみあった報奨金を受け取れるだけの名ばかりのものですから」
相手も愛想笑いでそういってくる。
さて、これどうするの? とちらりとラリアを見つめると。
ポンっと手をたたいて。
「とりあえず、今日は話をいろいろできればなとお茶の用意をしていたのです。その騎士の恰好では苦しいでしょうから、お茶の準備をしている間に服を着替えられてはどうでしょう?」
こうして無理やりパーティー前に顔見世会は開かれたのだけれど。
しゃんと伸びた背筋と貴族の女性にすると見慣れない短髪になんだかなれない。
私も髪を適当にきって逃げようとしたけれど、きっともっとみんなは驚いたのかもしれない。
「楽しい話ができる人であればよかったのでしょうが、あいにく私は剣は人より優れていても、一般的な淑女的なことはその……。ですが、私は大公家につかえる騎士として忠誠を誓っております」
どうやらとてもまじめなようだ。
「リリー様が後から知るとショックを受けるかもしれないので、はっきり申し上げておきます。家臣ともなれば、リリー様の以前のご様子を知っていることが多く、言動の端々にリリー様を敬う様子が見受けられなかった為弾いたらこうなりました」
「めんぼくない」
ラリアは頭をふかくさげ、それに続くようにネル卿も深く頭を下げた。
なるほど。
貴族の令嬢たちは、私の過去の態度を知っていて、私のことをよく思っていないだけではなく。
アインが私を寵愛しているだなんてことをつゆほども思ってないのだろう。
そんな人物を傍においても、パーティーで私を守るように動くことは期待できないどころか、私の足を引っ張ることを失言のふりをしてしかねないというわけだろう。
そんなこんなで白羽の矢が立ったのが女性ながらにして騎士で爵位までいただいた忠誠心の高いネル卿だったというわけだ。
しかしこのネル卿は、剣術には優れていて、かつバレリア大公家に忠誠を誓っているから私にも粗相をすることはないけれど、他の貴族令嬢のようにふるまうことは難しいという自覚ありときたか。
どうすんだこれ!?
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