エピローグ

 拍手、歓声。眩しい光。

 右手には同胞。

 正方形のリングに立ち、相手を待つ。

 もうすぐに、試合が始まる。



 機械闘士は、勝たなければならない。

 勝たなければ意味が無い。

 だから、僕は今日も闘う。


 ああでも、

 伽藍のいないこの世界で闘っていくことは、酷く虚しい。


 歓声と拍手がどんどん大きくなり、意味をなさない音になっていく。

 それでも僕は、闘わなければならない。

 何故闘わなければならない。

 機械闘士だからだ。


 では何故、僕は機械闘士なのか。

 意志があるから。

 一体何の意志がある。

 闘い続けようという意志だ。

 では何故……


 何故、何故と問い続ける僕の中の一部の声に、僕は語り掛けてみる。

 どうしても理由が欲しいと言うのであれば、そう、僕は、新しい伽藍が作られる度、それがあの伽藍ではないと証明するために、闘い続けよう。


 証明して、何になる。

 当然、何にもならないさ。


 しかし、そうしていれば、もしかしたら、いつか、本当に伽藍が作られることもあるかもしれない。

 そんな日がいつか来るとしたら。その時、ようやく僕の本当の願いは叶うのだ。


 その日が来るのが待ち遠しいようで、そうでないような気もする。

 だからそれまでは、螺鈿の中にある、伽藍の記憶とともに、闘い続けようと思う。


 今でも、鮮明に覚えている。伽藍のあの美しい動作も、些細な瞬間の表情も、高慢な声も表情も。存在の輪郭を、いつだって強く強く思い描ける。


 ガードに唇を寄せた。剣を振るい、挨拶をする。相手に、観客に、整備員に、試合にかかわるすべてのものたちに。



 今、この世界に君はいない。


 しかし、僕の中にも君はいる。


 僕は強くなる。君にも、他の誰にも敗けない程に強くなる。


 そして君と闘おう。


 君を終わらせるその日まで、


 僕は闘い続ける。


 




 会場全体に、ブザーが鳴り響く。

 試合が始まる。


 僕は今、最初の一歩を踏み出す。




(了)

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落ちこぼれ機械闘士の病熱【完結】 日野月詩 @hinotsukushi

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