第3話 バーチャル室

 「こいつら、何を議論してるんだ・・・。国会はなんだか古いなぁ。もう、人同士が議論したって何も解決しないんじゃねぇの。マザーAIに答え貰えばいいじゃないの。国会でのこの議論いるのか」

 このバーチャル会議に入り、傍聴席で聞いていた総理の長男、吉田真一郎は、頭からバーチャルデバイスを外し、4畳半ほどの大きさの自宅のバーチャル室の椅子に腰かけたまま、天井の位置センサー見つめた。父の言葉というよりは、この質疑応答そのものに腹が立った。原稿を詰まりながら読んでた頃と比べる、なんとか議論らしくはなっているが、やはり深い論議にはならない。2年前に公職選挙法違反の疑いで質問攻めにあった時に、古い映画じゃあるまいし、「記憶にございません」を連発していた頃ともたいして変わらない。

 彼は、父の側近とも言える自由党の大物議員の秘書を務めていたが、正義感の強い性格が災いして、政治の世界が嫌になり、38歳で引き籠り始め、政治の表舞台に出ることは無くなった。それでも、政治のことが気にはなるので、たまにこうしてバーチャル傍聴に行く。そして、いつも遣る瀬無い虚脱感を持ち帰り、さらなる引き籠りを助長する。

 しばらく椅子をギイギイと音をさせて凭れていたが、徐々に現実感が蘇ってきて、トイレに行くことにした。さすが官邸である。バーチャル室は3室もあって、2階の廊下沿いに3室並んでいた。自分が最も奥の部屋を使っていたので、2つの部屋を通り過ぎると、一つのドアには利用中のランプが点灯していた。父もここからバーチャル審議会に出席しているんだろうと思いながら、通り過ぎようとしたとき、廊下前方の階段を、なんと父が上ってくるではないか。あれ、出席中ではなかったのかと思ったが、父は平然と彼に声をかけた。

 「真一郎、どこへ行ってたんだ、バーチャルでつまらないところに顔出しんじゃないぞ。もうすぐ選挙だし、お前が引き籠りなんてことは知られたくないからな。もう 一度秘書やるなら、いい奴を紹介するぞ。どうだ」

 今日はなんだか、ご機嫌である。

 審議会中は、バーチャルであっても、席を離れることは無いはずだ。しかも、急いで戻る様子もなく、今までゆっくりとリビングでお茶でもしてたかのような風だ。

 「わかってるよ」

 と、一言つぶやくと、得体のしれない父はランプの付いた部屋へ入っていった。ランプが付いているのはバーチャル中ということなので、父の使うバーチャル室には、やはりもう一人、誰かがいるとしか考えられない。しかも、審議会はアバターは禁止だし、本人の生体認証も徹底しているはずだ。やけに気になったので、父の横を通り過ぎる時、閉まりかけたドアの隙間から部屋の中を覗き見た。

 バーチャル会議に出席していたのは、デバイスは付けていたが、間違いなく父であった。得体のしれない父はそちらの方であった。

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2047年の国会 山野 終太郎 @yamatoku555

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