第四話 ノック
窓に物音がして、ふと、君が顔を上げる。
椅子から立ち上り、カーテンの端に立ち、外を見る。
今年はじめての木枯しが、枯葉を押し流し、万物が冷たい世界に向ってまっしぐらに流れていた。
誰もいない。
まっすぐに続く道には舞い去る紙くずひとつない。照り凍えた日暮れの街路樹が、霜に焦げた梢を一斉に宙にたなびかせて、老婆のようだ。
光り雲は鈍いろの空を低く飛び、その先の見えない海を、小船が一艘、太陽に向かって逆走する。
カーテンを離れて、振り向いた君の部屋。本棚の上に誕生祝いの手編みのマフラーと手袋がきのうの香りを留めている …
幼い昔、いつも遊んでいた友達が君にはいた。もう覚えていない。
何でもないのに、何かを忘れていたことを突然思い出すことがある。だが、机の陰をのぞいても何もない。無駄なのだ。
あきらめて、もう一度窓に寄り、
もし、たった今、道の向うに円盤が降り立って、見慣れぬ二本脚の者が現れ、力づくでさらおうともせず、やさしく手招こうともしなければ、君は行くだろう。
恋人と家族を捨てて彼らと行くはずだ。
人々も、いつか君を忘れてくれる。
もはや誰も君を愛さず、裁くこともない。
ニ短調のカルテ 友未 哲俊 @betunosi
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