Another story [Second]

リビングの4人がけのテーブルに突っ伏して泣いている。

「死なないって言ってたのに……」

あの人が死んでから3日がたった。食べ物も飲み物も喉を通らない。

ずっとこの調子だ。

死んで欲しくなかった。私と息子を残して逝っちゃうなんて……。

あの優しい笑みを思い出す。もう2度と見れないあの笑顔。

そう思うだけでどこに残っていたのか、涙が溢れ出す。


「お母さん、お腹すいた」

袖を引っ張られる。振り向くと息子が立っていた。

今年で10歳。少し不満そうな顔をしている。

この子はもう立ち直ったっていうのに……。

私は何をやっているのだろうか。

「ごめんね、ごめんね。ダメな母親でごめんね」

そう言って強く抱きしめた。

キョトン、としている。

いつもは嫌がるのに。今日は優しく抱き返してくれた。


この子は、この子だけは失いたくない。

もうこんな思いはしたくない。私が守らなくちゃ。



数年後

最近、息子が「ハンター」になってしまった。

あの人のように死んでほしくない。守ると決めたのに……。

このままでは息子も死んでしまう。それだけは阻止しなければ。

でも、夢を追わせてあげたい。

私のせいで、一生後悔するのはさらに悪いことだ。

あの人がいたらどうしたのだろうか。今となっては分からない。

「死なないでね。お願いだから。私を一人にしないで……」

「俺は死なねぇよ。現に今も生きてんじゃねぇか」

いつもそんな返事をされる。自分が邪魔なのは分かっている。

でも、息子まで死なせてしまったらあの人にあわせる顔がない。


「私は……母親失格だな」

無意識にこぼれた言葉。「母親失格」

何故か胸にストンとおちた。

自分の願いばかりを押し付けている。

きっと、苦しいのは私だけではない。

「頑張って」そう言いいたいのに、口から出た言葉は

「夜に外になんて出てたら風邪引いちゃうよ。重症化したら死んじゃうんだから」

だった。


息子の意志を尊重してあげたい。応援してるってことを伝えたかった。

なのに、言えなかった。私は逃げた。

それを言ったせいで、死んでしまうのではないかと思ったからだ。

言いたいことも言えない。

息子にさえ、大事なことを言えない。苦しくて仕方がない。

こんな私を救ってほしい。


夜になると色々なことを考えては心配になり、寝れない。

だから私は睡眠薬を服用してる。

水と一緒に口に含み飲み込む。

あの人が死んでから、何もしていないベッド。

その隣の自分のベッドに横になる。

目を閉じるとウトウトしてきた。それに逆らうことなく深い睡眠に落ちた。


起きたときに目の前に見えたのは宇宙だった。

「私はどこにいるの?これは夢?」

「夢じゃないですよ。あなたの息子さんが夜にあなたを連れてきて、『他の星に避難させてほしい』と言ってきたんです。あなただけをね。母親思いの息子さんですね。ほれ、手紙を預かってますから」

どうして。私だけ。あなたに生きてほしかったのに。どうして。そう思いながら手紙を読んだ。



母さんへ

勝手に避難させてごめんなさい。

俺は母さんに大事にされているのを分かっていました。

でも、その思いがいつも壁や足枷になっていたんです。

俺は親じゃないし、母さんでもないからその思いはわかりません。

でも、大事に思っているのは俺もなんです。

ここまで育ててくれたことに感謝しています。

書きたいことを書こうとすると、手紙が終わらないと思うので短めにします。

俺は死にません。この星の星喰をすべて倒したら戻ってきてください。

その時にすべてを伝えます。


俺は母さんのことを俺よりも大事に思っている。

ありがとう。

大好き。

そして、さようなら。



憤りと後悔と虚しさがこみ上げてくる。

私は何もできなかったっていうのに……。

私は息子に助けられていた。ずっと。きっとこれからも……。


必ず星に戻るから!会いにいくから!



どうか死なないでください。


そう、星に願った。

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この星空の向こうで 落ちこぼれ侍 @OchikoboreZamurai

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