Another Story

上からもらった膨大な資料をペラペラとめくって目を通す。

「はぁ〜、なんだよ!ハンターになれって急すぎるにもほどがある!」

俺は今日突然、中将から「ハンター」になれとの命令を受けた。

理由は最近世の中を騒がせている「星喰」だ。

「ハンター」は星喰のために新たに作られた政府の機関で、軍の俺が配属される理由は戦闘訓練のためらしい。

「俺は少佐になるまで頑張ってきたっていうのに……」

思わず独り言が溢れる。行き場のない憤りを書類にぶつける。

「イってぇ!」

右の拳を押さえながら、痛みに耐えるべくぴょんぴょん跳ねていた。

「何かあったんですか?」

妻に迷惑はかけられない。

「いや、大丈夫ですよ。ただ上からの命令がきに食わなくてね」

「最近は仕事ばかりですから、しっかり休んでくださいね」

「そうします」

俺らには子供がいる。今年で10歳だ。年をとる程1年が短い。

俺の黒髪が遺伝しちゃったのは申し訳ないと思っている。いじめられないといいが。

子供にかまってやりたいが、俺が働かないと妻と子供が苦しくなるので本末転倒だ。

こんな事を考えてもきりがないので、頭を空っぽにするために星を見る。

これは俺の癖だ。


数日後

「今日から君たちの教官を務めることになった。俺のことはキャプテンでいい。

よし話をする暇がもったいない。始めるぞ!」

俺はハンターになる若い子どもたちを指導した。一番若い子は15歳だったはず。

こんな子どもたちに戦わせるなんて政府は馬鹿なのか。


今日の訓練はここまでだ。皆結構疲れているが、こんなんで大丈夫なのか?

教官っていうのはだるい。コミュニケーションを取るのも大事な役割だ。

最年少のやつに声をかけてみる。

体は細いが身長はある程度あるため、鍛えればガッシリするだろう。

左の上腕に入れ墨があるが、人の名前っぽいな。

「おい、お前はさ、怖くないのか?死ぬかもしれないんだぞ」

「はっ!私はこの星を守るために命を捨てる覚悟でっ」

「いい、いい。そんな決まり文句は聞きたくねぇよ。本音が聞きたいんだ。

誰かに話さないで、抱え込むのは大変なことってのは知ってるからよ」

一瞬驚いたように目をパチクリさせていたが、ぽつりぽつりと話し出す。

「はい。……俺は親を星喰に殺されたくないからです。

もし、目の前に親がいたら仲間よりもそっちを優先すると思います。

親の名前の入れ墨をしてるなんて、気持ち悪いですよね……」

「いいじゃないか。恋人がいないなら、親を大事にしろ。

俺はそういうのを聞きたかったんだ。

ま、その前に御前が親を守れるくらい強くならないとな」

「ゲッ!ヤバそう」


初めての実戦。俺らが向かった先は最年少のやつの故郷付近だった。

「あいつが変なことをしないといいんだが……」

激闘の末なんとか星喰を退治したが、一匹だけ村に逃げ込んだやつがいた。

「クソっ!このままだと村に被害が出る!」

誰よりも早く動いたのはあいつだった。

俺らも後を追う。

しかし、どこにその力が残っていたのか、あいつはぐんぐん先に行ってしまった。

俺らが村についたときにあいつは一人で星喰と戦っていた。

「動きが変だ。怪我してるのか!?」

戦場では一瞬の遅れが命取りになる。体が勝手に動いていた。



体に感じる違和感。

その少し後に銃声。

俺はどうなったんだろうか?

「お、おい、少年。俺はどうなって……?」

「血が止まりません!どうしたらいいんでしょう!助けてくださいっ!」

「も、もういい。俺の役目は終わった。あとはお前らに預けるよ……」

他人を助けて死ぬなんて、俺も焼きが回ったな。

「俺は息子との時間を割けなかったから、お前を息子のように思っていた。

泣くな。お前は死なねぇよ」

「キャプテン!俺は・・・俺は!」

「大丈夫だ。守るものがあるやつは……最強、だからな…」

ごめん。そう、妻と息子に謝る。悪い父親だったのは分かってる。

どんどん遮られていく視界で空を眺める。

星喰のいない空をもう一度眺めたかった……。

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