この星空の向こうで
落ちこぼれ侍
この星の向こうで
ここは地球から遠く離れた星である。
「クソっ!死ぬな!」
森の中で少年が必死に手当をしている。
「もうだめだよ。僕は死ぬ。さっさと逃げないと君も同じ目に合う」
「嫌だっ!約束したじゃないか!生まれたときは異なろうと、死ぬときは一緒だって!」
「あぁ、悪い。約束は守れそうにないな。さぁ、早く行って!」
「で、でも!」
「早く行けよ!僕からの最後のお願いだ。生きろ!」
涙を流しながら、走っていく少年。
どこまでも遠くへ俺は走った。
ザッ、ザッという足音とともに獣が来る。なんとか立ち上がって
ほとんど目は見えないが、殺気を向けてきている方に銃口を向けた。
銃声が何回か聞こえたが、それから続くことはなかった。
僕らの星には
コイツラは名前の通り、星に住み着き星を壊滅させてしまう。
そんな獣から星を守るために配備されたのが「ハンター」
ハンターのおかげでこの星は30年ほど生きながらえている。
でも、もう少しでこの星も終わりだ。最近は若い連中がどんどん星喰に殺されてる。
さっきの俺の友達のように。
俺の父親もハンターだったらしいが、この星を守って死んだ。
だから、母さんは俺にハンターになって欲しくなかった。
そのため父がハンターだってことを知ったのはついこの間である。ハンターは若者の中では人気の職業なので職場体験でインタビューしたときに発覚した。
家に帰って母さんに聞いてみた。そうすると、泣きながらこう訴えた。
「ハンターだけにはならないでくれ。一緒にいてくれ。一人にしないでくれ」
母さんは父が死んだ時のショックで今でも精神を病んでいる。
そして今でも母さんはずっと俺に言い続けている。
「死ぬな」と。
もちろん俺は「死なない」と答えたが、父もそう言って死んだらしい。
人はいずれ死ぬんだし、早いか遅いかの違いだと思っている。
人の命の重さが変わらないと教えられるのに、人によって悲しんだり悲しまなかったりするのはおかしい。
俺は死を受け入れる。
でも俺も母さんを一人にするつもりはない。俺は星を守り、人々を守って死ぬためにやっているんじゃなくて、
星喰から母さんを助けるためにやっているのだ。なのに分かってくれない。
大事にされているのは分かっている。失いたくないのはこっちも一緒だ。
俺はもうあんなふうに泣かせたくない。
でも、友達が死ぬのを目の当たりにすれば次は自分かも、と感じる。
「何度も経験してるのに、人の死には全くに慣れないな」
こんな時は一人にしてほしいが、母さんは友達が死んだことを知らない。
言ったら、また「ハンターをやめろ」だのと言われる。
いつも思うのだが、親というものは子供の夢を応援するものではないのか。
ちらりと視線を向けると、それに気づいた母さんは心配性が発動した。
「最近家にいないことが多いけど、何してるの?危険なことはやめてよね」
「大丈夫だから」
「いつもそんなこと言って。ハンターやめてもいいんだからね」
「俺は死なねぇよ。うるさいな。大丈夫だって!」
気分を害していることを表すために、思いっきりドアを閉めて部屋を出た。
最近はなんか苛つくことが多い。しかも母さんに対してばかりだ。
親なのだから少しはしっかりしてほしいという気持ちもある。
少しは俺を信用してほしいという気持ちもある。
いつまでも子供扱いされているようで嫌になってくる。
俺は親じゃないから気持ちはわからないが、子供からすると面倒なのだ。
大事にされすぎて、自分の思うようにやりたいことができない。
常に壁になっている。
反抗したい気持ちはあるものの、期待に応えたいという気持ちもある。
血の滲んだスカーフを握りながら考える。
このスカーフも母が作ってくれたものだ。いつでも側で感じられるようにと。
このもやもやした気持ちはなんだろうか。最近になって抱き始めたこの感情。
「だめだ。こんなんじゃ寝れねぇ」
考えすぎると寝れない。俺は頭が良くないから。
だから俺は頭を空っぽにするために星空を見上げる。
どこまでも続いていそうな暗闇。
きっとこの広い宇宙で俺以外の誰かも悩んでいるに違いない。
「そんなやつに会ってみたいもんだ」
顔も名前も知らないそいつなら、俺のことを分かってくれる気がして。
そんなことを思っていると、ふと死んでしまった友達のことを思い出した。
あいつは俺と家が近かったから小さい頃から仲が良かった。
「何でも話せるやつだったのに。友達がいなくなるとこんなにも・・・・・・」
視界がぼやけてきた。後ろから物音が聞こえたので瞬時に目を拭く。
「夜に外になんて出てたら風邪引いちゃうよ。重症化したら死んじゃうんだから」
また始まった。母さんの心配性。
「はいはい、分かったから。母さんもしっかりしてくれよな」
後半は聞こえるか聞こえないかのボリュームで吐き捨てた。
次の日、ハンター同士の間で会議があった。だがその会議中も母親のことで頭がいっぱいであまり集中ができなかった。
そこで、母親の悩みをハンターの先輩に勇気を出して話してみた。
俺は誰かにこの話をしたかったのかもしれない。
きっと、異常だと思われるのが嫌で打ち明けられなかった。
でも、話しただけで少し胸が軽くなった気がする。先輩は真面目に聞いてくれた。
「そうか、お前そんなに悩んでたんだな。最近、星喰に遭遇したとき逃げるように戦っていたのはそういうことか」
そんなつもりはなかったが、本能的に生きようとしていたのか。
先輩は以外にも俺のことを心配してくれていたようだ。
「俺は、親がどっちも他の星に移り住んでるからよぉ、お前の気持ちに共感することはできねぇ。でもな、打ち明けてくれて嬉しいぜ。一人で抱え込むのは大変だってことは俺でもわかるからよぉ。お前がそんなに気にするのはな、きっと大人になったからだ。『しっかりしなきゃ』って自分で感じてきてるんだ。いいことだぜ、それは。少なくとも、恥ずべきことではねぇ。守るものがある奴ってのは、最強だからな」
俺は感心した。経験の差でこんなにも捉え方が違うなんて。
だから俺は一つ決心した。母さんを他の星に移り住ませることを。
母さんには幸せでいてほしいから。生きていてほしいから。
これが俺なりの「しっかり」だ。
俺に気づきを与えてくれた先輩はそのまま戦場に出向き、二度と帰って来なかった。
俺は夜に、宇宙の星に避難するロケットに母さんを寝たまま連れ出した。
母さんは睡眠薬を服用して寝ているため、そう簡単には起きない。
本当に申し訳なく思う。
勝手に一人だけでこんなに大きな決断をしてしまったことを。
どんなに母さんに憎まれても構わない。
これは嘘だな。幸せで、生きていてくれるなら憎まれても構わない。
だから、遠い星の「チキュウ」まで行ってくれ。
もしこの星が生き残ったら、俺が生きていたらもう一度会いに来てほしい。
その時はどんな憎まれ口も聞く。きっとその時が一番幸せを感じるのかな。
そう思いながら、最後にと、母さんの顔を目に焼き付けた。
母以外にも多くの人を乗せたロケットは暗闇に沈んでいった。
これが最善だと信じている。後悔はない。そう思っていたはずなのに。
どうして涙が溢れる。どうしてたまらなく母が恋しい。会いたい。あの声を聞きたい。
憎らしく、邪魔だと思っていたはずなのに……。
きっとあれが母さんにとっての「しっかり」だったんだ。
でも気づくのが遅すぎた。失ってからではもう遅い。
もっとあの時間を大切のすればよかった。
「はぁ・・・頭悪ぃな・・・俺って」
そのまま声を出さずに泣いていた。きっと会える。もう一度母さんに会うと星空に誓いながら。
俺はこの星を最後まで守る。
「ハンター」として。
俺は母さんと生きて会う。この星で。
「息子」として。
腰にぶら下がっている銃をホルスターから勢いよく抜き出して、
今ではこの星の住民よりも多いと考えられている星喰を全滅させる決意をした。
不可能ってか?
いいや。できるね。守るべきものがあるやつは最強なんだから。
そっと、首に巻かれたスカーフに手をやる。
俺らは星喰のアジトにたどり着いた。
最初は何人もいたメンバーが今では俺を含め、3人になってしまっている。
なんとか星喰を倒し、更に奥の方へと入る。
そこには、自分たちの言葉で書かれたノートが山積みになっていた。
なぜこんなところに!
その資料を読むと、星喰がもともとは自分たちの祖先が環境を壊したせいで発生してしまった有害なガスで狂ってしまった犬であった。
しかし、本来は人類の間引きが目的だったが、理性を失った星喰たちは人類の全滅を図る。
「俺らが星喰に殺されていたのは、自分たちの先祖のせいだってことかよ!」
自分たちがこの星の怒りに触れ、報いを受けていただけだと!
同時に憤りを覚える。
これは祖先がやったことで、俺らには関係のないことだ。
なんで俺らが報いを受けなければならない。
先祖と星喰に行き場のない怒りをぶつけたい。
どうして……。どうして俺の仲間は死んだんだ。
俺らのせいじゃないのに!
◯
3年後
俺は星喰が一匹もいないこの星の森の中で木にもたれ掛かって、
死んでいった仲間たちのハンターバッジを眺めていた。
俺らは不可能だと考えられていた「星喰の全滅」を果たした。
生き残ったのは俺を含め183人。
もともとは1万人近くが残って戦っていたのに。
俺は死んでいった仲間の全員の顔と名前を忘れないために、
ハンターバッジを1日中眺めている。
もう涙なんて流れない。死は小石のようにそこら辺に転がっていたから。
空からとてつもない轟音が聞こえてきた。もはや反射で銃を掴みだした。
でもその音の発生源は前に見たことがあるものだった。なんだったか。
思い出せないのに、涙が溢れる。仲間が死んでも出ないのに。
いつぶりに涙なんて流しただろうか。
たしか……最後は母さんと別れたとき……。
近づいてシルエットがはっきりしてきたものを目にしてたまらなく哀愁を感じた。
思い出してもいないのに。
気づいたときには体が動き出していた。声も漏れていた。
「母ぁさん、母さん!」
会いたいと願い続けた、誓った人の名前。
俺は叫びながらロケットに向かっていった。
「完」
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