サークル勧誘編—狐との逢瀬2
訓練場に新入生が群がっている。大きな円陣を組むような配置で、その中央には魔法剣を構えた二人の先輩が居た。
一体何のサークルなのか、そんな疑問を読んだようにローズリアが言う。
「あれは『魔法剣☆極』というサークルですわね。ウルテイオの三大サークルほどではありませんがかなり有名ですわ」
「魔法剣☆極」ならルノスも知っている。ふざけた名前が目立っていたこともあるが、魔法使いを目指しているくせに剣ばかりを磨いてる摩訶不思議な集団だと認識していた。
というよりあそこにいる先輩方は呪文が苦手で逆に肉弾戦が得意なのだろう。そういう魔法使いの存在がルノスの知り合いにも居るし、実戦においても中途半端な呪文を唱えてくる奴より魔法剣を振り回してくる奴との手合の方が厄介だ。
しかしこの5人の中で「魔法剣☆極」に入りたがる人はいなさそうだった。ルノスやローズリアなどは呪文が得意だし、フクシアやネオルはそもそもサークルに興味がない。そしてスティンは得意不得意以前に「魔法」というものに対しての強い憧れや尊敬の念がある。
魔法剣はあくまで杖としての価値が高いだけで剣自体に価値があるわけではない。魔法使いに多いこの認識を変えない限り「魔法剣☆極」の地位は低いままだろう。
「ちょうど試合が始まるようね」
「ああ、折角だから観に行こうか。もっとも、あの二人は初めからそのつもりだろうけど」
スティンやネオルは小さな身体を利用し人混みに潜り込んで1番前まで進んでいる。あそこまで行くのはルノス達では大変そうだ。
「
「いや、十分だよ」
「そうね。前に行って変に視線を向けられたら不快だわ」
むしろフクシアを視界に入れて視線を向けない人間がいるのだろうか? 特に男性はバレないようにチラチラと覗いてきそうだ。
今思えばルノスもその一人だった。
「まったく……嫌な記憶だな」
ルノスはくだらない考えを振り払うと目の前の試合に集中した。
◆
対峙している二人の先輩。
赤髪の方が長剣で青髪の方が直剣だった。ああいった魔法剣は剣としての役割も期待されている事から払いずらい。今みたいな見せ物であれば見た目を大事にするのは当然だが、それにしたって魔法使いとしては及第点にすら及ばない。
直剣はともかく長剣。これは見る人が悪ければ後でネチネチと文句を項垂れてきそうだった。
まず初めに動いたのは赤髪の男だった。長剣を握るだけあってガタイは良い。
見た目に反して素早く前進すると、横薙ぎ。対する青髪の男は跳躍して回避。そのまま一回転するように宙を舞うと上から剣を振りかざした。
赤髪の男は最小限の動きで直剣を受け止めると、体勢を崩した青髪の男に向かって己の大剣を蹴り飛ばした。乱暴だが最速の大剣が青髪の男にヒットした。しかし、今のでは刃は当たらない。打撲がせいぜいだろう。
なるほど、とルノスは腕を組んだ。
あれは騎士やサムライの戦い方ではない。どちらかと言えば「勝てば良い」と考える魔法使い的な戦闘スタイル。
己の剣を蹴り飛ばして相手にぶつけるような、まるでモーニングスターを想起させる乱雑な戦い方。ルノスは騎士ではないが、恐らく本物がこの試合を見れば憤りを感じることだろう。
試合は赤髪の男が優勢。
いや、もう決着は付いたようなものだ。青髪の方は胴体が腫れ上がっているだろうし、リーチの長さからしても体の大きさからしても勝ち目は薄い。
とはいえ、ルノスの心は冷めきっていた。
————あんなのは猿人類の戦い方だ。
つまり、猿のようだった。
確かにこの状況において青髪が負けるのは目に見えている。赤髪の方が得意げに笑うのも無理はない。
だがもしここで呪文を唱えて良いのなら、勝つのは青髪の方だろう。不得意なのだろうが進級できたのなら低級な呪文くらいは行使できるはず。相手を転ばせる呪文でも視界を遮る呪文でも構わない。適当な呪文を唱えれば身軽な青髪に勝機はあったはず。
それをしないのは、この戦いが「呪文を苦手とする可哀想な者達が傷を舐め合うための戦いだから」だ。結局彼らは努力から逃げて、大した才能もない剣に切り替えた魔法使いもどき。
こんな戦いは所詮エンターテインメントだ。今の時代、実戦で呪文を唱えない馬鹿は居ない。それこそ、猿以外は。
俺が笑って——まで。〜魔王候補として入学したが、にしても他の魔法使いが弱すぎる〜 砂糖しゅん @10tuki31hi
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