遠い宇宙の果てからの電波

 講師に泣き落とされて録音した課題、深夜ラジオ風のトークをそのまま文字にしたお話。

 主人公が大学から家に帰るまでの、なんの変哲もない日常のひとコマ……ではあると思うのですけれど、でも最終的にいろんな意味で変哲しかなくなってしまう物語です。

 若干ネタバレ気味の感想になってしまうのですけれど、でも作品のジャンルで明らかな部分でもあるのであえて言ってしまうと、もう全編通してゴリッゴリのSF。
 気を抜いて読んでいるうちに、いつの間にかとんでもない宇宙の果てに連れて行かれたような気分が味わえます。

 とにかく語りの調子というか、何気ないトークの中でゴリゴリ組み上げられている、この世界のありようそのものがものすごい!

 あくまでも普通のおしゃべり、当人が当たり前のこととして話す中で、でもこんなにも「この世(現実世界)にないもの」がごろごろしている、その手触りの心地よさ。
 存在しないはずの世界に、でもしっかり息づいている人々の生活の、その気配や質感おようなものが本当にたまりません。

 宇宙の果てまで届く電波のように、何か長い旅に出たような気持ちにさせてくれる、大変素敵なSFでした。