マイマイキリキリマイ
「よく言った!」
振り向いたオレ。の視界にはうららの隣に立ち、拍手喝采で喜ぶ中年男性――オレのオヤジが視えていた。それと、校内の有名人たる春川うららが公衆の面前で祖父の七光りでお馴染みのオレにプロポーズしてくれちゃったものだから周囲はどったんばったんの大騒ぎ。日常の風景から一変して一世一代の見世物だ。
「なんでオヤジがいるんだよ……!」
オレの混乱を察知したのか、オヤジはオレと目を合わせて軽く右手を挙げつつ「よっ」と挨拶してくる。
小学校の入学式の前日に一升瓶片手に隣の春川家へ行ったきり、帰らぬ人となったオヤジ。じいちゃんから『神切隊』の隊長の称号を受け継いでいて、長男だから妖術を使えるにもかかわらず、酩酊状態では十二分に戦えなかったオヤジ。天然パーマ。酩酊状態じゃなくてもわりとへなちょこだったオヤジ。じいちゃんに「あきらのほうがやはりわしの隔世遺伝とあって才能があるんじゃよ」と言われてメソメソしていたオヤジ。まるでダメな大人。春川家を丸ごと飲み込まんとしていたモンスターと相打ちになって、それから「うららちゃんの守護霊として十二年間過ごしてきたってワケ」息子の同級生の女子に取り憑く中年オヤジになっていたのか。キモくね。うららもよくこんなのと暮らせるな。息子のオレと過ごした時間より、死んでからうららの一歩後ろで見守っている時間のほうが長いんじゃね。もう春川家の人間になってくれよ。
「息子の息子は反応してないっつーコトで、ボクは悪霊判定をされていない」
オヤジはオレの股間を指差して指摘してくるから、つい制服のズボンのチャックを開けて確認してしまう。変わりない。うららの顔が引き攣っている。オレの今の行動、うららにしてみれば『人前で下半身を気にするやべーやつ』にしか見えないよな。仮にオヤジを悪しき者と判別していたら、うららのオーラを感知するとちんちんが元気になる激ヤバクラスメイトになっちまうところだった。あぶね。
「
大真面目な調子でオヤジが語り出したから、オレは「はあ?」と返してしまった。なんだよそれ。僻み?
「あきらは明日この高校を卒業して『神切隊』の隊長となる心算だろう。しかし『神切隊』の隊長となってしまえば、ボクのように死んでしまうまで、あるいはあきらのじいちゃん――ボクの父のように髪の毛がなくなっても戦わなければならない。
「うるせえ!」
お前らに言ったわけじゃあねえのに有象無象の観客どもも静かになった。
「聞いて驚け!」
この際だから言ってやろう。
明日の今頃には、卒業式は終わっているし。
「オレは『神切隊』次期隊長の桐生あきらだ!」
前髪を一本引き抜いて、拝んでから風に流す。オレの背後で爆発がドーンと起こり、モブ生徒たちの歓声が上がった。名乗りのシーンには爆発が必要だよな。そうだろうとも。
「オレはオレの宿命を受け入れ、悪しき者を滅ぼす!」
怪異と真っ向勝負できるのは、オレだけだ。オレにはオレにしかできないことがある。それが悪しき者と戦うことなら、オレは戦う。
「お
「うららちゃん……ガンコな息子でごめんな……」
「いいえ、いいんです。あきらの覚悟はそれとなく伝わりました」
じいちゃんに代わって、これからはオレがみんなのことを守るからな。よろしく。これまでも実は守ってたんだけど、諸事情で大っぴらに話すことができなくてな。途中で授業を抜け出していたのは『神切隊』の業務があったからなんだ。みんなの中にもオレが助けたやつ、いるな。覚えてなくていい。忘れてくれていて構わない。ヒーローってそういうのもありだと思う。これからのオレの活躍は覚えてほしい。写真撮ってSNSにアップロードしてもいい。悪意のある切り取り方をしないって約束できるのなら許可する。できるかぎり上半身を映す方向性でお願いしたい。理由は聞くだけ野暮ってもんだぜ!
「あきら!」
うららがハサミを制服のポケットにしまう。うららも見たろ。オレの髪の毛は商売道具だから。むざむざ切られるわけにはいかないんよ。見てもわからなかったならすぐそばにいるオヤジに聞いてくれ。
「わたし、世界一の美容師になるから。あきらの髪、切りたい!」
なんだか大きな夢を掲げ出した。中学校から高校まで陸上競技一筋だったうららが美容師になりたい理由って、オレのせい?
「その時までには次の隊長を育てておいてね!
後方腕組みオヤジはなるべく見ないようにして、オレはうららの、その決意に満ちた相貌を見上げる。中二の時に一気に追い抜かれて、そのあとオレも背は伸びたが追い越すことはなかった。うららもうららなりに、使命感のようなものを持っている。そしてその夢が叶えられるかどうかはオレの頑張りにも左右されてしまう。オレはオヤジみたいに志半ばで倒れるなんてことはしませんけど?
「ああ、わかったよ。そんときは切らせてやるよ」
先祖の祟りで死ぬまでロン毛「かみきりたい」 秋乃晃 @EM_Akino
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