第8話
……?
俺は今、夢でも見ているのだろうか?
オフィーリアが俺を好き?
初対面から「不細工」なんて言ってしまい、今も意地悪なことしか言えない残念な俺を?
「まあとにかくそういうことだから、私はあなたと婚約したいわ。アーロじゃなくあなたとよ。ね、良いでしょ?」
「……あ、ああ」
「あら? ダンスタイムが始まったようね」
良いのかなんて俺の方が聞きたいが、とりあえずこくこくと頷いて返事をしたところ、大ホールから漏れ出てきた弦楽器の耳心地良い合奏が、俺たちのいる中庭まで聞こえてきた。
そんな微かな音色を拾ったオフィーリアはスッと立ち上がり、彼女に手を引かれて俺も立ち上がる。
「踊りましょうオリバー。今日という日の思い出に」
「ああ、じゃあ大ホールに……」
「いいの? その顔で人前に行ける? 音楽は聞こえるから、ここで十分よ」
うっかり自分の顔がぐしゃぐしゃなことを忘れていた俺は大ホールに戻るかと提案しようとしてしまったが、そこはオフィーリアが気を遣って止めてくれた。
その優しさがまた心に響く。
俺たちはお互いに一礼して、中庭でダンスを踊った。
オフィーリアとは今までも何度か踊ったことはあったし、実はそのたびに緊張もしていたけれど、今日はこれまでの比にならないくらい緊張している。
楽器の音が遠くに聞こえるせいで、バクバクと波打つ心臓の音が聞こえてしまっているのではないかと思うと、余計にダンスどころではない。
「……心臓の音、すごいわね」
「……ほっといてくれ」
「……実は私も、ドキドキしてるのよ。今までも毎回、ドキドキしてたわ」
「……あっそ」
好きな子とダンスしながらどうやったら上手く話せるのか教えてほしい。
気の利いた返しなんてできず、適当に受け流してしまった。
「……あ、悪い。今のはその、」
「ふふ。良いわよ別に。あなたは今まで通りでいてちょうだい。いきなり優しくされても気持ち悪いもの」
「気持ち悪いって……」
言われ様はあれだが、今まで通りで良いというのは助かる。
多分すぐに変えるのは難しい。そもそもそんな簡単に性格を変えられるならここまで拗らせてないのだ。
拗らせつつも、オフィーリアに俺の気持ちが通じた。
俺は彼女と踊りながら、この幸せな時間を噛み締めたのだった────。
彼女が可愛くて仕方がなくて、俺はつい「不細工」と言ってしまった 香月深亜 @mia1311
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