第7話
「アーロから婚約の話を聞いて、動揺した。動揺して、君とどう話せば良いかも分からなくなって、もし君の口から実際に婚約したなんて聞かされたら堪らなく辛いと思った。それで君を避けてたんだ。……でもさっき、君は婚約の話をしようとしただろう? そうしたら、自分でも気付かないうちに涙が出てしまったんだ。それだけ俺は、君を誰かにとられるのが嫌だったんだと思う」
「オリバー……」
何とも格好の悪い告白だった。
好きな子を取られそうになり、それが嫌で泣いただなんて男としてどうなんだ。残念すぎるだろう。
しかもさっき涙まで流してしまったから、今は顔もぐしゃぐしゃになっているだろうし。ようやく「好きだ」と言えたのに、これではオフィーリアも引いてしまうのではないか。
俺は無言で、オフィーリアからの返事を待った。
「ふふ」
…………? 今、笑った?
すごく小さな笑い声は、間違いなくオフィーリアのものだった。
「嬉しいわオリバー。ようやくあなたから『好き』と言ってもらえた」
「嬉しいのか?」
「勿論よ。いつになったら告白してくれるかなって待ってたんだから」
俺の言いたいことが分かっていると言ったオフィーリア。つまり彼女は、俺が本当は彼女が好きだということにも気付いてしまっていたらしい。
オフィーリアへの好意が周りの大半にバレていたことは知っていたけど、まさか本人にまでバレてるとは思ってもみなかった。だってオフィーリアには意地悪しか言ってないし。……そんなに分かりやすいのか、俺。
だが、いつからバレていたかはもはや関係ない。
俺がフラれるという結果は変わりないのだから。
「……まあでも、さっきも言ったけど、俺はアーロとの婚約の邪魔になるつもりはないから。今の話はここでもう綺麗さっぱり忘れてほしい。時間が経って君とアーロの婚約を祝えるようになったら、お祝いの言葉はそのときに言わせて」
今はまだ、心が苦しくておめでとうとは言えない。
でも、いつかはしっかり二人におめでとうと言いたい。
俺はそんな気持ちをオフィーリアに伝える。
するとオフィーリアは不思議そうに俺を見てきて、こう言った。
「……何か勘違いしているようだけど、私、アーロとは婚約しないわよ?」
「…………え? そうなのか?」
オフィーリアは本当に訳が分からないという表情をしているが、アーロと婚約しないなんて俺の方が訳が分からない。
「だってアーロだぞ? 何が不満なんだ?」
「はい?」
「身分は申し分ないだろうし、顔だって悪くないし、俺よりずっと優しいし。なんで断るんだ?」
「え、あなたさっき私のこと好きだって言ったわよね? それでどうしてアーロを推すわけ?」
「好きとは言ったが、君の婚約を邪魔するつもりはないとも言った」
「そこは全力で邪魔しなさいよ、ばか!」
突然オフィーリアが声を荒げてきたことに、俺はびっくりした。
しかも「ばか」って言われた。え、何が?
オフィーリア自身もすぐハッとなり、ふーっと深呼吸して落ち着いてから、話を続けてくれた。
「ごめんなさい。つい声を荒げてしまったわ。だってあなたが……。いえ、多分これは私も悪いわね」
「?」
「オリバー、私たちどうしてまだ誰とも婚約していないと思う?」
「俺たちが? そりゃ貰い手が……」
言おうとして、はたと気付いた。
いないわけがない。
俺はともかく、オフィーリアはこんなに可愛いし、伯爵家の一人娘だ。
子供の頃から、彼女への婚約申し込みはきっとあったはずだ。
でもいまだに誰とも婚約していないのは?
「貰い手ならあったわよ。私にも、あなたにも。でもそれぜーんぶ、断ってもらってたの」
「は?」
「うちの両親もラスティン家の方々も快く私のお願いを聞いてくれたわ」
「オフィーリア? 一体何言って、」
「だって嫌だったんだもの私。他の誰かと婚約することも、オリバーが他の女の子と婚約することも。私もあなたが好きだから」
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