第6話

 オフィーリアはいったい何を言っているのか。


 俺の頬を掴んでいる彼女の両手の上に俺の手を重ねて、彼女の手の動きを止める。それから、グッと眉間に皺を寄せて真剣な眼差しで彼女を見つめて、確認する。



「俺が、何を言いたいか分かっているのか? ……いつもあんなに……意地悪なことばっかり言っているのに、俺の本音はそうじゃないと?」

「そうよ。もし分かっていなかったら今頃口もきかなくなっていたかもね。まあ、最初は私も子供だったから、『不細工』なんて言われてショックで泣き出しちゃったけど……。私のこと、本当は『可愛い』って思ってくれてるんでしょ?」


 こてん、と首を少し斜めに傾けながらそんなことを聞いてくるオフィーリアはずるいと思う。

 その仕草は可愛すぎる。


 ……多分いつもの俺なら、「ふん、自分で自分が可愛いだなんてよく恥ずかしげも無く言えるな」とか返すだろう。

 でも今は、いつもの意地悪ばかり言う自分ではダメだとぐっと堪えた。


「…………うん」


 俺は、頭を前に倒して頷いた。

 それから更に、頑張って素直な言葉を吐き出していく。




「オフィーリアは、可愛い。不細工だなんて、思ったこともない。君ほど可愛い人を、俺は他に知らない」




 初めて、オフィーリアに面と向かって『可愛い』と言えた瞬間だった。

 するとオフィーリアはサファイアの瞳が飛び出そうなくらい目を見開いて、それから嬉しそうに柔和な笑みを浮かべた。


「ふふ。ありがとう」


 ほらまた、可愛い顔をしている。


 さすがにこれ以上の直視は危険と判断して、俺はくるっと体ごと、顔の向きをオフィーリアから正面に戻して話を続けた。


「実は……ちょっと気まずかったんだ。君とアーロが婚約するかもって話を聞いて。君とももう、これまでのように話せなくなるんだなって……。でも、アーロは俺と違って君に優しくするだろうし、友人の俺から見てもあいつは良い奴だ。……まあだから反対はしないんだけど、だけどやっぱり、二人が婚約するってなると、さ」

「……オリバーは、私がアーロと婚約したら……嫌?」


 嫌だよ。

 ものすごく嫌だ。


 でもそんなことを言って、二人の婚約に水を差したくはない。


「嫌というか……。お似合いの二人だとは思うし……」

「オリバー。本音で話して」


 またすぐに心の内を見透かされてしまったようだ。

 俺はグイッと袖を掴まれて、オフィーリアに懇願されながら再び質問される。


「ここには今私たちしかいないわ。あなたの本音を隠さないで。……私がもしアーロと婚約したら、オリバーはどう思うの?」

「…………嫌だよ」


 オフィーリアの圧に負けて、俺はボソッと呟いた。


「アーロだけじゃない。他の誰が相手でも、君が誰かと婚約するのは嫌だ」

「……それはどうして?」

「だって俺は……」

「……」

「俺は…………君が好きだから」



 ここまで来たら、もう言うしかなかった。

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