第3話
「あっ、来ましたよ」
階数表示ランプの『5』が明るくなり、喜恵は嬉しそうな声を上げる。
ひとまず裕子も、心の中で沸いた疑念を忘れることにした。
チンと音がなってドアが開く。一階から上がってきたエレベーターは、二人の女性を運んでいた。
509号室に住む細田姉妹だ。妹は高校生で、姉は証券会社に勤めているという。少し年齢の離れた姉妹だが仲は良く、二人一緒に行動している姿が頻繁に目撃されていた。
「こんにちは!」
「……」
朗らかに挨拶する妹と、無言で会釈する姉。
裕子と喜恵も「こんにちは」と口にしながら、二人と入れ違いに、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターが降りて行き、裕子と喜恵の姿が見えなくなった後。
細田姉妹はチラリと後ろを振り返り、少し困ったような顔で言葉を交わしていた。
「ねえ、お姉ちゃん。今の人、503号室の奥さんだよね?」
「そうね」
「お姉ちゃん、せっかく用意した手紙、間違えて今の人のところに入れちゃったんでしょ?」
「そうよ。504号室へ投函したつもりが、一つ隣の503号室へ……。痛恨のミスだわ。今からでも『あれは間違いでした』って書いて、投函しておこうかしら?」
(「あなたの夫が同じ階の住人と浮気しています」完)
あなたの夫が同じ階の住人と浮気しています 烏川 ハル @haru_karasugawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
カクヨムを使い始めて思うこと ――六年目の手習い――/烏川 ハル
★209 エッセイ・ノンフィクション 連載中 298話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます