初恋の味

夜桜くらは

初恋の味①

『初恋の味は?』と聞かれたら、どんなものを想像するだろうか。


 きっと多くの人が、甘酸っぱい思い出を思い浮かべて答えるだろう。それは、レモンやイチゴのような味だと答える人もいるかもしれない。

 または、ほろ苦い思い出を思い浮かべる人も中にはいるかもしれない。それは、ビターチョコレートやブラックコーヒーのような味だと言う人だっているかもしれない。


 かくいう私も、初恋は苦い思い出だった。でもそれは、チョコやコーヒーのような苦さではない。

 ……言うなれば、幼い頃に水と間違えて飲んだ日本酒のような……そんな苦さだ。

 そもそも私の初恋は、「思い出」とは言えないかもしれない……。なぜなら、今でもその相手と会う機会があるからだ。



***

 私の初恋の相手は、優輔ゆうすけくんという。彼は私より7つ歳上で、私にとってお兄ちゃんみたいな存在だった。

 なぜ、そんなに歳の離れた相手と知り合えたかというと……私と彼が、いとこ同士だったからだ。


 私にいとこと呼べる存在は3人いて、それが優輔くんたち兄弟である。3人とも私より歳上だった。だから私は小さい頃からよく彼らと一緒に遊んでいたし、両親たちも仲が良かったから家族ぐるみで旅行に行くことも多かった。

 私には弟しかいなかったから、彼に会うたびに、まるで本当のお兄ちゃんができたみたいで嬉しかったのを覚えている。

 優輔くんの弟2人は私と歳が近かったから、友達みたいな感覚でもあった。でも、優輔くんは「お兄ちゃん」っていう感じが強くて、私の中では特別な人だった。


 彼は私を『茉穂まほちゃん』と呼んでくれたけれど、私が彼を名前で呼ぶことはなかった。だって恥ずかしくて呼べなかったのだ。それに、優輔くんの方が年上だし……。

 当時の私にとっては、優輔くんはカッコいい憧れのお兄さん的な存在であり、恋愛対象ではなかったと思う。今ならわかるけど、彼のことを好きになる可能性もあったはずだ。

 でも当時は恋心なんて全くなくて、ただ純粋に優輔くんと過ごす時間が楽しかっただけなのだ。


 そんな私たちの関係が変わったきっかけは、私が10歳……小学4年生の夏休みのことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る