初恋の味②

 私は父の実家に住んでいたから、お盆の時とお正月の時は親戚がたくさん家に来ていた。それは毎年のことで、私にとってはいつも通りのことだった。

 でも、優輔くんが受験生になってからはあまり会えていなかったこともあって、今年は来るかな?なんて密かに楽しみにしていたのだ。


 そして、お盆休みがやってきた。父の姉家族(優輔くんの家族だ)も、やってきた。……が、優輔くんの姿はなかった。来たのは彼の2人の弟と、叔母さんだけだった。

 私はとてもガッカリしたけど、優輔くんにも都合があるだろうと思って我慢することにした。


 しばらく子ども4人だけで遊んでいると、1台の車が家の前に止まった。すると中からは叔父さんが降りてきた。……そして、優輔くんも降りてきた。


「………!」


 久しぶりに見た彼は背が伸びていて、顔つきも少し大人っぽくなっていた。私はなんだかドキドキしてしまって、家の中に逃げるように入っていった。その時初めて、私は優輔くんに恋をしていることに気づいたのだった。


(優輔くん……制服だった……)


 彼は『高校の制服』を着ていた。後から聞いた話によると、課外の帰りに真っ直ぐ私の家に来たらしい。私の記憶の中の優輔くんはいつも私服だったから、初めて見たその姿は幼い私に衝撃を与えた。

 それなのに私は恥ずかしくなって逃げてしまったものだから、余計に会いづらくなってしまった。……結局その日は、一言も話すことなく終わった。


 それからというもの、私は夏休みの間ずーっと悶々としていた。せっかく来てくれたのに挨拶すらしなかったことが申し訳なくて、後悔ばかりが募った。


 だから、お正月にはちゃんと挨拶しようと決心した。だけど、いざとなると緊張してしまいなかなか声をかけられなかった。……それでも勇気を出して、やっと話しかけることができた。

 優輔くんは昔と変わらずに優しく接してくれた。私はそれがすごく嬉しくて、でも、心がチクリと痛んだ気がした。

 ……それは、優輔くんにとって私は「いとこの女の子」でしかないということがわかってしまったからだ。


 きっと彼にとっては、いとこの家に遊びに来ることは普通のことなんだろう。私だけが特別じゃないんだって思ったら悲しくなった。……だから私は決めたんだ。もうこの気持ちを忘れよう、と。



***

 そんなこんなで月日は流れ、私は中学生になった。その頃には優輔くんは東京に行ってしまっていて、ほとんど会うことはなかった。彼は高校を卒業して、整体師の専門学校に通っているらしい。それは私にとって都合が良かった。


 次第に私は彼のことを忘れて、中学生活を楽しむようになった。そこで好きな人もできた。自分から告白するなんてことはできなかったから、私に恋人ができることはなかったけど……。それでも、部活や友達との会話で毎日を楽しく過ごしていた。


 お盆休みやお正月も、忙しいからか優輔くんは来ないことが多かった。でも私は、寂しさを感じることは無かった。もう、優輔くんは東京で彼女を作っているんだろうなと思っていたからだ。

 優輔くんは私みたいな子どもより、同い年の女の人の方が合うんじゃないかと思った。だから、私はこれで良かったと思っている。

 そうやって、私の初恋は静かに幕を閉じたのだった。


 ……はずだったのだが。

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