初恋の味③

 私が高校2年生の時のお正月。今でも忘れられない出来事が起きたのだ。

 それは、親戚たちが集まってお酒を飲んでいる時だった。


「優輔ももう24か。そろそろ日本酒の良さもわかるようになったか?ほら、飲めよ〜」


 お酒を飲めるようになってから、久しぶりに来た優輔くんに、私の祖父なんかは良い日本酒を開けてご機嫌だった。

 優輔くんはお酒があまり得意ではないらしく、困り顔をしていた。


「あぁ、ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて……」


 優輔くんはお猪口一杯分のお酒をぐいっと飲み干すと、ふぅ……と息をついた。

 私はその様子を、隣に座って眺めていた。

 優輔くんはお酒が回るにつれてだんだん饒舌じょうぜつになっていった。

 そして、私の方を見て言ったのだった。


「……茉穂ちゃんってさ、彼氏いるの?」


 突然の質問に、私は思わずドキッとした。まさか、優輔くんからこんな話を振られるとは思っていなかったから。

 私は動揺を隠すように「ううん、いないよ」とだけ答えた。


 すると、優輔くんはお酒で少し赤くなった顔で「俺もなんだよ〜!」と言った。

 それから彼は、お酒をグイッと飲むと私の肩にもたれかかってきた。そしてまた、ふぅ……と息をつく。

 彼の吐息から香る日本酒の香りに、私は心臓がバクバクして、頭が真っ白になって何も考えられなくなってしまった……。


 しばらくすると、彼はスーッ……と寝息を立てて眠ってしまった。私はホッとしながらも、同時にガッカリしている自分に気づいた。

 それから何分経っただろうか……。

 優輔くんは目を覚ますと、ハッとして私から離れた。


「わ、悪い……!重かっただろ!?」


 優輔くんは謝ると、バツが悪そうな顔をしながら頭を掻いた。

 私はどぎまぎしつつ、首を横に振った。

 すると、彼はこう言ったのだ。



「17歳の女の子に寄りかかるなんて、情けないな……。俺は……。ほんとにごめんね」



 優輔くんは本当に申し訳なさそうにしていた。……でも私は、彼の言葉に傷つけられてしまった。


『17歳の女の子』という言葉に。


 わかっていたことなのに、改めて言われるとその事実を突きつけられたようで辛かったのだ。

 私は、彼の謝罪に対して小さく返事をした。

 優輔くんは、私の様子に気づくこともなく、おつまみを食べたりお酒を飲んだりと楽しそうに過ごしている。


 私はそんな彼を横目で見ながら、心の中で呟いた。


(……私が、いとこじゃなかったら良かったのに……)


 そうしたら、もっと近づけたかも……なんて。そんなことを思っても、仕方がないのに。

 でも、この時の私はそんなことを考えずにはいられなかったのだ。

 そんなモヤモヤした気分のまま、私はお正月を過ごしたのだった。

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