初恋の味④

 それから年月が経って、私は大学生になった。

 大学に入ってからは一人暮らしを始めたし、実家に帰る頻度も減ってきた。それでもお盆とお正月には、実家に帰っていた。


 優輔くんとは、高校2年の時以来、私が一方的に距離を置いていた。だから、親戚が集まった時は、私は挨拶だけして部屋にこもるようにしていた。

 それでも、母に呼ばれて料理を出す手伝いをしたり、配膳したりすることはあった。その時だけは、優輔くんの近くに行くことになった。彼は、相変わらずお酒を飲んで父や祖父と楽しげに話をしていた。


 私はそんな彼を遠くから見ていたけれど、やっぱり胸が苦しくて、その場を離れたくなる衝動に駆られた。

 でも、そんなことはできないから、ただ黙々と作業をしていた。

 すると、思いがけない話が聞こえてきた。


「コイツ、まだ彼女いねーんだよ」

「お前だっていないだろ!」

「人のこと言えないじゃん……」


 それは、優輔くんたち3兄弟の会話だった。私は気になって聞き耳をたててみる。そこでわかったのは、彼ら3人は今まで彼女がいたことがない、ということだった。


(えっ……?嘘でしょ……?)


 優輔くんたちがモテないなんて、信じられない……。でも、それは本当らしい。彼らは恋愛に興味が無いわけではないみたいだけど……なんというか……奥手なのだそうだ。


(意外だな……。優輔くんは恋愛経験豊富だと思ってた)


 優輔くんは私より7つ歳上だから、そろそろ結婚してもおかしくはない年齢になっている。きっと、彼も恋人を作って幸せに暮らしているだろう。

 私はそう思っていたのに、優輔くんは彼女を作るどころか未だに独り身だった。

 私がお酒を飲めるような歳になっても、優輔くんには特定の相手がいなかった。そして、そのことに安心する自分がいることに気づいてしまった。優輔くんに恋人ができて欲しくないと思っている自分がいたのだ。

 彼と恋人になりたいという気持ちは、とっくに無くなっているはずなのに……。


(こんな意地悪な考えを持ってるから、私は新しい恋ができないんだろうな……)


 私は苦笑いを浮かべながら、心の中で呟く。そんな私の想いとは裏腹に、優輔くんは呑気に笑っている。


(……ずるいなぁ)


 私はそんなことを思いつつ、優輔くんから視線を逸らした。

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