第54話 またしてもッ、荒野の令嬢は家出したッ!
王宮の、
ビリーことウィリアムの影武者をしていた人の名前は、ギャレット・マウ・ボニー。
彼とウィリアムは乳兄弟のようなものらしい。
影武者をやっているのから分かる通り、彼はウィリアムにそっくりだ。
容姿だけでなく……なんというか、仕草とかちょっとしたクセのようなものも含めて。
まぁそうなるように、教育されてきたというのもあるんだろうけれど。
「……ごめんね。ギャリー。もう一回言ってくれる? ウィルがなんだって?」
わたしがこめかみに手を当てながら、訊ねる。
一方のギャレット……ギャリーも同じような沈痛な顔をしていることだろう。
「ビリーとして出掛けてくるから、今日のパーティはボクがウィルとして出る。なんていうかこう……申し訳ないなだけど……」
「いや、うん。別にギャリーが悪いコトなんて何一つないわ。あるとしたら、あの親子が自由すぎるってだけで」
「ふつうなら不敬だよって諫めたいけど、今はマジでソレなって言葉しか出てこない」
ギャリーは、影武者としてあんな振る舞いをしてはいるけれど、素はとても良い人だ。
それは、ウィルと婚約し、ちょくちょく王宮で会うようになって実感している。
むしろ、彼は自由すぎる国王親子に振り回されている側の人だ。
誰かマジで彼を報いてあげないと、いつか爆発しそうで怖い。
「君には本当に迷惑を掛けるよ。
初対面の時の言葉は、君を間違いなく傷つけただろうし」
「あの時のコトはすでに謝罪してもらっているし、事情は理解してるわ。何度も謝らなくても良いからね」
「そうは言っても君とウィルが結婚してからも、定期的にボクが君の横に並んでちゃらんぽらんなコトをしてるワケで……」
「その時はその時でフォローするわよ? 何なら、ちゃらんぽらんな旦那を躾る恐妻ムーブでもするから。あとあと多少ラクになるかもしれないかもってね」
「本当に君がウィルの婚約者で良かったと心の底から思うよ……」
ウィルそっくりの顔でしおしおとされると、変な罪悪感が湧くのだけれど、まぁそれはそれとして――
「ビリーが出掛けた理由は分かる?」
「基本的に出掛ける時は女王陛下からの密命だからね。ボクであっても、知らされてないコトが多いんだ」
「密命……ね」
さて、どうしたものかなぁ……。
このままギャリーと一緒にビリーが帰ってくるのを待つのも選択肢の一つではあるんだけど。
わたしが思案していると、コンコンと部屋のドアをノックされる。
「シャーリィ様。
ナーディアとなるの女性がお見えなのですが、如何なさいますか?」
「わたくしの友人です。お通しして」
「かしこまりました」
ナーディアさんは緊張した面もちで中に入ってくる。
わたしはドアが閉められるのを待ってから声を掛けた。
「久しぶりナーデさん」
「ええ、お久しぶりですシャリアさん」
こちらがシャリアの調子で声を掛ければ、ナーデさんも安堵したように息を吐いて微笑んだ。
「貴女やビリーから、好きに来てくれて構わないと許可は頂いたとはいえ、やはり実際にくると緊張しますね」
「まぁ、王宮だしねぇ……」
ナーデさんからしてみると、場違いに感じちゃう面もあるんだろう。
「シャーリィ。こちらの方は」
「え? ビリーッ!?」
わたしとナーデさんで話をしていると、その区切りのタイミングで、ギャリーが訊ねてくる。
そういえば、彼にも紹介しておかないとね。
「ちがうわ。ナーデさん。こちらはギャレット。噂の影武者さん」
「……ああ――例の」
「うん。あとで君がボクに関してどう聞いているか教えてね」
おっと。藪へびったかな?
「――で、こちらは
彼女のお姉さんのナージャンさんと、ビリー。それからわたしの四人で一応、錆び付きパーティってコトになってるわ」
「なるほど。君がパーティ一番の苦労人のナーディアさんか」
「……パーティ一番の苦労人……?」
ナーデさんが一瞬だけ目を眇めるも、すぐに納得したような顔をしてしまった。
……これは、この二人を会わせない方が良かったかな……?
「そうそうナーディアさん。ボクに関しても、いつもの調子で構わないよ。
もちろん、人目が多い場所とかだと気にかけて欲しいけれど」
「ギャレットさんがそれで良いのでしたら」
「うん。それで構わない。それとギャリーでいいよ。
ボクも君のコトはナーデさんって呼ぶから」
そんな感じで、ギャリーとナーデさんが互いに理解を深めたところで、わたしはナーデさんに訊ねる。
「さて、紹介はこのくらいにして。どうしたの、ナーデさん?」
「姉さんとビリーのコトで相談したくて」
その言葉に、わたしとギャリーは思わず顔を見合わせた。
「二人は何をやらかしたの?」
「シャーリィの中だと、二人はやらかすコト前提なの?」
「やらかしでもしないと、ナーデさんがここに来る理由ないじゃない」
「……まぁ、それもそうか」
ギャリーが納得したところで、わたしはナーデさんに先を促す。
そして、ナーデさんからの話を聞き終えたわたしは一つの決意をする。
「よしギャリー。今夜のパーティで、ケンカしましょう」
「「は?」」
わたしの提案に、ギャリーもナーデさんも口を揃えた。
「ケンカの勢いで家出するわ」
そんなわたしの言葉に、ギャリーはとてもとても深くため息をついた上で、こめかみに手を当てながら、ナーデさんへと視線を向けた。
「ナーデさん」
「諦めてくださいギャリーさん。これがシャリアさんです」
「ウィルと同類かよ」
「類友でもなければ、こんな婚約成立しないですって」
「否定する要素がないな」
「否定する要素しかなくないッ!?」
あーもーッ!
本人を目の前に、ギャリーもナーデさんも結構好き勝手言うじゃないのッ!
「なら、いっそギャリーも家出する?
わたしを追いかけて連れ戻してきますとでも置き手紙を書いて」
「シャリアさん、何を言って……」
「それもアリだな」
「ギャリーさんッ!?」
名案だ――という顔をするギャリーに、ナーデさんはなぜか悲鳴のような声を上げた。
「常々、ウィルばっかりズルいと思ってたところだ」
「決まりね。今夜のパーティでハデにやらかしましょう」
「望むところだ」
不敵に笑い合うわたしたちを見ながら、横でナーデさんが頭を抱えている。
「私……どこかで間違った? 何か早まっちゃったかしら?
どうしましょう……いえ、増援とはいうならばこれ以上はないくらいの増援なんでしょうけど……」
ぶつぶつと言っているナーデさんに、もう一つの素晴らしいプレゼントをあげることにしよう。
「んー……ビリーに新しい手配書出そうかな。あと、わたしにも。そうすれば、Mr.も動くだろうし」
「自分で自分に手配書出そうとする人、初めて見たよ」
「ここにいるじゃない。ギャリーも自分に懸賞かける?」
「まだ実績が足りなさそうだし、後日で」
「実績あってもふつうは懸けようとしませんからねッ!?」
額に手を当てて、処置無し――とばかりに天井を見上げるナーデさん。
「もういいです。姉さんとビリーさんを手助けできるなら、何でもドンと来いってコトにしますッ!」
「うん。ナイス開き直りッ!」
「誰がその開き直りをさせてるんですか、もう……」
大きく嘆息するナーデさん。
なにやらとっても疲れているみたい。
「それじゃあギャリー。今日のパーティの打ち合わせをしましょうッ!」
「そうだなッ! スムーズに行くように、パーティ会場の外でナーデさんに待機してもらおうかなッ!」
「これ……王子とその婚約者を誘拐容疑で、私が手配されたりしません……?」
「そうなったら、事件の後でわたしの権限で解くだけよ」
「そうそう。そういう時に使わないでどうするの。王侯貴族の特権を」
「なるほど。ギャリーさんも同類ですか」
諦めたような眼差しを明後日の方に向けるナーデさん。
「うんッ、ナーデさんも完全に納得してくれたようだからとっとと話を詰めましょうッ!」
…
……
…………
………………
二百年ほど前にカナリー王国の王座に就いたシャーリィ王女。
彼女は非常に有名な人物だ。
先代女王の苛烈さとイタズラ好きとは別方向で有名である。
何せシャーリィ女王の二つ名は『家出姫』。
ことあるごとに、家出をし、時には夫であるウィリアム王をも巻き込んで失踪してしまうのだ。
そういう時は決まって、膨れ上がりかけている問題を、解決に導く錆び付いた保安官の女性がいた。
シャリア・ベーロを名乗るその女性は、どういうワケかシャーリィ女王が失踪している時ほど活躍する。
また、夫であるウィリアム王も巻き込んで失踪した時には、シャリアの傍らにギムレーという男性がいたそうだ。
そしてギムレーとは双子だというビリーという男性も。
確固たる証拠こそないものの、シャーリィ女王とシャリアは同一人物だとされている。
ギムレーあるいはビリーもまた、ウィリアム王なのではないかという説が通説だ。
そこに、岩肌人の血を引く美人姉妹を加えた四人ないし五人組の
彼らはどういう手段か、黒蝕に対抗する手段を持っていた。
ステージ2後半であっても、何とか出来てしまうだけのチカラだ。
当然、多くのモノたちが彼らを頼り、あるいはその手段を奪おうとした。
そんな中、彼らを外交に利用していたのがシャーリィ王女であった。
当然、友好的な国が優先され、乱暴な手段で彼らを手中に収めようとする者がいる国などは後回しにされる。
そういった外交手腕もまた彼女を有名にする理由の一つであると言えよう。
とはいえ、女王のままだと上手く解決できない諸問題は存在する。そういうモノに直面し、緊急性が高い場合は家出と称して失踪し、錆び付きとして解決する姿から、彼女はもっとも庶民に近い女王とも言われている。
しかし、シャーリィ王女とシャリアが同一人物であるとの認知が広がったのは彼女の没後である。
それまでは、シャリアとはシャーリィ女王が懇意にしている、お抱えの錆び付きではないかと思われていたそうである。
代々クセの強い女性が女王になるカナリー王国ではあるが、シャーリィ王女はその立ち回り方はともかく、その人柄は、歴代女王の中でもかなりまともな方であったらしく、彼女の在位中は非常に仕事がしやすかったと当時の関係者は語っていたらしい。
余談だが、シャーリィ王女に仕えている侍女のメアリーの叫び声は、当時名物だったそうだ。
少なくとも、シャーリィ王女の失踪の際に、メアリーの叫び声が聞こえた場合、だいたいはいつもの家出とされ、なぁなぁで済まされていたのだとか。
逆に、メアリーが叫び声が聞こえなかった時の失踪は、国を挙げての捜索が行われたそうである。
――アルティナ・ベイル・メイヤーズ著
『減りゆく黒蝕とカナリー王国』より
………………
…………
……
…
「お、お嬢さまぁぁぁぁぁぁぁぁ~~ッ!?」
メアリーの悲鳴を聞きながら、わたしたちは見事にパーティ会場を抜け出して、ナーデさんと合流した。
「いいギャリー……じゃなかったギムレー。
家出はね。帰るまでが家出だから、最後までしっかりね」
「わかったよ。シャーリィ……じゃくてシャリア」
ナーデさんの案内で、パーティ会場近くの空き屋へと飛び込むと、わたしたちはそこで錆び付き用の衣装に着替える。
「ナーデさん、ここ城に近すぎない?」
「いいんですよ。まさかこんな近くに潜伏してるなんて思わないでしょう?」
「確かに。灯台もと暗しとは良く言ったものだ」
そんな隠れ家で一夜を明かし、何食わぬ顔でわたしたちは外へ出る。
「家出ってなんだかクセになってきた気がするわ」
「シャリアさん、メアリーさんに刺されないようにしてくださいね?」
「え? メアリーがわたしを刺すなんてあり得ないと思うけど?」
「シャリア。たぶんナーデさんが言いたいのはそういうコトじゃないと思うよ?」
じゃあ、どういうことだろう?
まぁ――ともあれともあれ。
「よくわかんない話は置いておくとして――とりあえず行き先は西のサウス・ムーンでいいんだっけ?」
「はい。なので、まずは王都を出て駅に向かいます」
「タイミング良く列車が来ているといいけど」
そうして、王都の入り口から出ようとしたところで、その人と出くわした。
「ぬッ!? レディ・シャリアにレディ・ナーディアッ!? ビリー殿までおりますなッ!?」
「うっそMr.ッ!? ここでッ!?」
「逃げましょうシャリアさんッ、ギムレーさんッ!」
「ぬ? ビリー殿ではない?」
「そうなんだよ、おじさん。ボクはギムレー。よろしくッ!」
ギムレーがウィンクしてから、走り出す。
Mr.はビリーでないことに少し固まっていたものの、理解が及ぶと驚きの声を上げる。
「…………ギムレー殿ッ!? 貴方はまさか……ッ!?
「そうそう。近々Mr.宛の密命が下ると思うの。がんばってね?」
驚くMr.に、わたしはそう告げると二人の後を追いかける。
「ええッ、ええッ! 理解しましたともッ!
レディ・シャリア、レディ・ナーディア、ギムレー殿ッ! あなたがたは絶対にワシが捕まえますぞぉぉぉぉ~~ッッ!!」
王都の入り口で叫ぶMr.に手を振りながら、わたしたちは駅へと走る。
さぁて……今度の家出はどんな旅になるのかしらね?
【Ready! Lady Gunner!!
A Runaway Lady Goes to
the End of the Wilderness. - closd.】
=====================
レディガンナー、これにて完結となります。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました٩( 'ω' )و
最後までお楽しみ頂いた上で、もしよろしければ、
↓の方にあります、☆レビューをしていただけたりすると幸いです
改めて、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
【完結】レディ、レディガンナー!~荒野の令嬢は家出する! 出先で賞金を懸けられたので列車強盗たちと荒野を駆けるコトになりました~ 北乃ゆうひ @YU_Hi_Kitano
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