第14話 続く「罰ゲーム」
そして、俺が八木さんに「罰ゲーム」で付き合うということを告白してから、それなりに時間が経った。
登校しようと、玄関へ向かう。俺は玄関の扉を開け、外に出る。
と、扉を開けた先には……八木さんが立っていた。
「あ……。八木さん」
八木さんは無言で俺の家の前に立っていた。俺はそのまま八木さんに近づいていく。
すると、いきなり八木さんは黙ったままで俺に抱きついてくる。
「ちょっ……八木さん。毎日言ってますけど、ここ、普通に外なんで……」
俺はなんとか八木さんを引き剥がしながらそう言う。
「……駄目なのか?」
八木さんは不安そうに俺にそう言う。
「いや、駄目じゃないですけど……」
「じゃあ……俺に抱きつかれるのが嫌なのか?」
益々八木さんは不安そうな顔になる。
「……嫌ってわけでもないです」
「じゃあ、何か問題があるのか?」
「……ないです」
俺が結局諦めてそう言うと、八木さんは満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、行くぞ」
そう言って八木さんは当然と言わんばかりに俺の手を握って歩いて行く。俺は半ば手を引かれながら、そのまま八木さんに付いていく。
八木さんに罰ゲームで付き合うということを告白してから、俺と八木さんの「罰ゲーム」は続いている。
ただ、八木さんの俺に対する態度は大きく変わっていた。
俺をパシリにするということはなくなったし、毎朝俺の家に迎えにやってくる。
そして、毎朝、何かを確認するかのように、八木さんは俺に抱きついてくるのだった。
「……あの、八木さん」
「ん? なんだ?」
「八木さん……どうして、毎朝抱きついてくるんですか?」
俺がそう言うと八木さんは不思議そうな顔をする。
「どうして、って……お前のことが好きだからに決まっているだろ」
そして、何よりも……八木さんが俺に対する好意を隠さなくなった。
いや、そもそも、八木さんの方が先に俺に告白していたのだし、八木さんは俺のことを好きなのだろうけど。
それにしたって……八木さんはかなり俺にべったりだった。
学校でも休み時間でもなんでも、ほとんど俺と一緒に行動している。それをギャルっぽいグループにニヤニヤした目で見られるのはちょっと恥ずかしいが。
「そ、そうですか……。ありがとうございます」
「なんだそりゃ。別にお礼なんて言わなくていいんだ。あ、そうだ。今日も弁当、お前のために作ってきたからな。ちゃんと食べろよ」
「あ……ありがとうございます。その……なんか、ごめんなさい」
俺がそう言うと八木さんは立ち止まった。そして、真剣な顔で俺のことを見る。
「お前……一つだけ言っておくぞ」
「え? なんですか?」
「俺はお前が好きなんだ。だから、別に俺がお前にしていることに、お礼を言ったり謝ったりする必要なないんだ。俺が勝手にやっているんだからな。わかったか?」
八木さんは確認するかのようにそう言う。俺はそう言われてしばらく呆然としてしまったが、次の瞬間には思わず笑ってしまった。
「なっ……! お、お前! 俺は真剣に言っているんだぞ!」
「あぁ、いえ……違うんですよ。その……八木さん、俺のことほんとに好きなんだな、って」
俺がそう言うと八木さんは少し恥ずかしそうに視線をそらす。
「あ……当たり前だろ。何度も言っているだろうが……」
「フフッ。でも、それだと、罰ゲームにならないような気もするんですよね……」
俺が意地悪くそう言うと、八木さんは慌てて取り繕う。
「ち、違う! これは罰ゲームだ! お、お前と付き合うことは俺にとっての罰ゲームなんだ!」
「……じゃあ、罰ゲームやめます?」
俺がそう言うと、八木さんは不満そうに俺を見る。
「……意地が悪いぞ、お前」
「すいません。八木さんが可愛かったので」
「可愛いって……! お、お前なぁ……」
八木さんはこの上なく恥ずかしそうだったが、急に俺に優しく微笑んだ。
「その……俺はまだまだ罰ゲーム、続くと思っているんだが……お前はどうだ?」
八木さんが少し不安そうに俺を見る。俺は小さく微笑んでそれに答える。
「えぇ。俺も、まだまだ続くと思っていますよ」
俺がそう言うと八木さんは嬉しそうに笑った。そして、八木さんは今一度俺の手を握る。
そのまま俺達は手をつないで、学校へと向かった。
どうやら……俺と八木さんの罰ゲームは、まだまだ続きそうなのであった。
俺達、罰ゲームで付き合っています。 味噌わさび @NNMM
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