第13話 告白と罰

「……で、なんで俺を呼び出したんだ?」


 八木さんに背後から声をかけられて、俺はゆっくりと振り返る。


「八木さんに、伝えたいことがあったので」


「伝えたいこと? お前、昨日言っただろ。俺とは付き合えないって」


「えぇ。言いました。今でもそう思っています」


 八木さんは怪訝そうな顔で俺を見る。しかし、その顔で睨まれても、なぜかもう怖くなかった。


「……じゃあ、お前は俺を馬鹿にするために呼び出したのか?」


「違います。本当のことを言いたかったので」


「……本当のこと?」


 少し間を置いてから、俺は先を続ける。


「俺は八木さんのこと、よく知りません」


 俺がそう言うと八木さんは目を丸くする。


「八木さんのことを怖いヤンキーみたいなギャルだと思っていたし、パシりにされていたときには嫌な思いをしていたわけだし……どちらかというと、八木さんのこと、俺、嫌いだと思います」


「……そうかよ。確かに、そうはっきり言ってくれると、俺もスッキリするぜ。伝えたいことっていうのはそれで全部か? じゃあ、俺はもう――」


「だから、俺と付き合ってほしいんです」


 そのまま帰ろうとしていた八木さんがその場に立ち止まる。そして、こちらを振り返る。


「……は? お前……それ、どういう意味だ?」


「だから、俺が八木さんのこと、すごく好きになるまで付き合って下さい。これは、俺の八木さんに対する……罰ゲームです」


 そう言って、俺は無理に得意げに笑ってみた。


 八木さんはジッと俺のことを見ている。すると、そのままいきなりスタスタとこちらに歩いてきた。


 そして、俺の直ぐ側まで来ると、いきなりパシンと頭を叩いた。


「痛っ! ちょ、八木さん、俺は本気で――」


 俺がそう言おうとする前に八木さんは、俺のことをギュッと抱きしめた。


 当然、女の子に抱きしめられたのはこの時が初めてだったので、ものすごく困惑してしまった。


「え、ちょっと……八木さん……?」


「……生意気言うんじゃねぇ。俺のパシりだったくせに」


 そう言って俺達はしばらく抱き合っていた。


 誰か来たらどうしよう、とか、八木さんがとても良い匂いがする上に、柔らかいとか……そういうことを思わず考えてしまっていたが、ほどなくして解放された。


「……わかった」


 抱擁が終わると、八木さんはニッカリと悪戯っぽく微笑む。


「お前が俺のことしか考えられなくなるくらい……死ぬほど好きになるまでその『罰ゲーム』に付き合ってやるから、覚悟しろよ」


「……えぇ。望むところです」


 俺も思わず笑ってしまう。俺達は互いに笑いあった。


 こうして、俺と八木さんは……今度こそ「罰ゲーム」で本当に付き合うことになったのであった。

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