第7話

「じゃあみんなで‥カンパ〜イ!!!」

紫音が音頭をとると、みんなも

「カンパーイ!!!」

と言いつつコップ同士を触れ合わせた。カンといい音が鳴る。紫音はぶどうジュース、義人はオレンジジュース、諒也と僕は野菜ジュース、そして高原は紅茶を、コップ一杯グイッと飲み干した。

狼–ダークヴォルフ–の群れを全員無傷で追い払った自分たちへのごほうびだ。諒也の家のリビングの机に全員座って、リラックスタイムを過ごしている。

「いや〜、やっぱひと頑張りした後のジュースはうまいな、オレンジジュースうまい?」

「オレンジじゃなくてみかんジュースだけどな。うまいよ。紫音も今度飲もうぜ。」

「ああ。にしても2人は両方野菜ジュースを飲むのな。あっくんと佐野君。」

「ちょっとちげーけどな。商品名がそれぞれ違うだろ。」

「あっくんの言う通りだよ。」

「にしても高原、紅茶って…。」

「まあいいでしょ、別に、紫音。」

「前はこういう時、コーラとか飲んでなかったっけ?少なくとも紅茶なんて飲んだことなかったろ。」

「あぁ〜、最近好きになったからね。見てなくてもおかしくはないだろ。」

「そういうこと、か。」


そういえば義人はさっき、戦闘には参加していなかった。武器をつかうこともなく、なにもしてないように見えた。ヒーラ-は戦闘には向かない、回復専門ということなのか?

「なあ義人、お前武器持ってないの?」

「あ?持ってるわ。勘違いすんじゃねーよ。俺の武器は拳銃一挺と爆弾だよ。ほれ、見ろよ。」

確かに持ってた。普通のより一回り大きいくらいの拳銃と正四面体のボムの‥写真–形は某イカどうしが武器で塗り合うゲームに出てくるスプラッシ⚪︎○○ピーそのもの。

ていうか、この世界はカメラとプリンターも普通に使えるのかよ。

「このボムはな、普段は親指と人差し指2本でつまめるくらいの大きさで、使うときに頂点のボタンを押すと、手のひらサイズになる。もう一回ボタンを押すと3.5秒後に爆発するから、相手に投げて攻撃したりする。」

「モンスピー-ボーピーじゃねーか!!どんだけハイテクなボムなんだよ!!ボムは今日持ってきてなかったのかよ?」

「救護班への支給武器で、任務中じゃなきゃ使えねーんだよ。今は俺たちがボランティアとしてここに来たっていう状況としてルール上は解釈される。だから任務中には該当しないんだよ。」

…そういうことだったのか。え、でも

「だったら銃は使えたじゃねーか。」

「ああ、それはね」

紫音が代わりに説明を始めた。

「その銃は特殊でね。弾に元から属性がついてる強力なものなんだけど-普通は銃弾には属性はつけられないんだ-その弾をつくるのに手間もかかるし貴重なんよ。あの時、こいつの弾は6発しかなかった。それでは6匹倒すのが限界だし、弾をかわされる可能性もあった。あの状況を打開するのは無理だった。打開できないのに貴重な弾を使うのはもったいない、そう思ったんじゃないかなあ。」

「だいたいそうだよ紫音。」

そういうことらしい。

「そっか。その銃は絶対に弾を込めないといけないやつなのか。」

そう言うと、諒也は俺に耳打ちしてきた。

「あっくんのやつは違うけど。引き金を引けば弾は出る。無属性のだけど。属性の弾なんかは、は、銃に込めれば撃てる。込められる仕組みにはなってるし。」

えっと…何じゃそのぶっこわれな仕組みは?!僕は諒也に質問(耳打ち)する。

「どうなってんだよそれ!!!諒也!」

「僕がそういう仕組みをイ、イメージすればそんな仕組みを構築する事もお茶の子さいさいなんだよ。」

…す、すごすぎる。やっぱ魔法は魔法だなあ。


「そういえば高原。」

紫音が高原に質問した。

「お前、あの長刀–《水月鏡花すいげつきょうか》–だっけか?」

「あぁ、そうだよ。あれがどうかしたの?」

「なんか…全然上手く使えてないな。あの武器を使いこんできたとは思えない様な太刀捌きだったぜ。」

「そりゃあ、しばらく使ってなかったし…」

「訓練用の木製のやつがあるじゃん。」

「そんなに毎日訓練してるやついねーよ!」

「いや、それはそうなんだろうけど…。それにしてもって感じだぜ。なんか、この武器を使い初めたばかりの人って感じがしたんだけど。」

「エ??!!!!」

高原は一瞬目を大きく見開いた。意表をつかれ、驚愕したというやつだ。だが一瞬平静な顔になり,すぐに紫音をキッと睨み付けた。

「まさか…そんなわけ、ないだろ。この武器ずっと使い続けてきたんだよ、俺は。ふざけんなよ。…でも、そんな風に見られてたとはね…もっと訓練しなくては、だな。」

「ああ、そうしてくれ。少しでも強くなっていってもらわないと。頼むぜ。」

…ん?普通あんな風に言われたら真っ先に怒りがわくものじゃないか?なのにあいつは驚愕していた。何に驚愕したんだ?そして、怒りの表情なんて、言われた瞬間には1ミリも見えなかった。それこそ、自然に見えるようにように見えなくもない。でもなんで?…いや、これだけじゃ考えようがないか。それに、こんなこと気にしてもしょうがない、か。


「さてと、じゃあそろそろ帰るか。」

紫音がそう言って、みんな帰る準備をはじめた。僕も武器を納めて帰ろうとした。

自分の家に。

僕はめちゃくちゃマイペースなのだ。他人と暮らすことで自分の生活リズムを乱されたくはない。風呂には30分以上かかるし、歯磨きも長い。それでギャーキャー言われるのはごめんだし、家に帰ればアニメも見れる気がする。


何より、学校の連中と一緒にいるのはめんどくさい。

周りのノリに乗っかるのは苦手だ。

特に一年の時は周りのノリについていけなくて少し辛かった。一年のクラスは、行事頑張るぞ!お〜!ってみんなで一丸になって頑張るクラスだった。朝練やるとなったらみんな集まって頑張る。けど僕は興味もやる気もなく、朝練なんてほとんど遅刻して行ってた。運動会の朝練はほとんど遅れて行っていた。合唱コンの朝練は、最初の練習日の前日に任意と言われたから行かなかった。そうすると、俺以外の奴は全員来ていたらしく、クラスみんなで頑張るっていう雰囲気が好きな担任からは、みんな来てるのになんで来ないんだとさえ言われた。(自分が任意って言ったのに)その後はそれでギャーギャー言われるのは嫌なので毎日行っていたが、時間に間に合ったことは多分ない。そんなだから、多分なんで来ないんだよとかは周りから思われていたのは間違いないと思う。なんとなく疎外感(?)を感じることも何回かあった。


それに、変わっているせいなのかいじったりいじめる標的になったりもした。一年の時は豹変した誰かさんの標的となり、僕への嫌がらせやからかいが繰り返され、そいつと仲のよかったやつら(女子も含む)もそれに乗っかってきた。クラス内で信頼する友達は一人だけだったし、クラスでもほとんどその子としか話してない。三年のときもいじめる側が違った以外はほぼ同じ。そいつには筆箱の中の色鉛筆を全部取り出すと、それらを全部折られた。(後で弁償はしてもらったが。)それでも一年の時の方が印象で言うと嫌だった。


自分はみんなといるより1人の方が生活しやすいし好きだ。自分の思う通りに行動できるのは僕にとって最も重要なことだ。自分のノリとリズムで行動し、自分のやりたいと思ったことを思うようにやれる。そういう所にいたい。だけど、二中がそういう所だとは到底思えない。当番制で仕事をこなさなきゃならず、みんなに合わせて生活して、自分の意思よりみんなに合わせる・協調することを優先しないとならない。そんな所に行ったって、僕も周りもストレスが溜まるだけだ。集団生活っていうのは間違いなくそういうものなのだろう。

そんなものなら……僕は一人で暮らしていたい。


諒也の家を出て自分の住処に帰ろうとすると

「おい。」

と紫音が呼び止めた。

「どこに行くつもりだ。家に帰るなんて言うんじゃねーぞ。」

少し怒りのこもった言い方だった。

「学校に来いってか?」

「ああ、そうだ。」

「はぁ?イヤだよ絶対に。迷惑かけるし。」

「お前、一回学校に入ったよな。それまではモンスターには襲われなかったはずだ。」

「ああ。そういえばそうやな。」

「でも学校から帰るときには襲われた。なんでかわかるか?」

「はぁ?んなことこっちが聞きたいよ。わかったら苦労しねぇよ。」

「二中の周りにはモンスターの侵入を阻む結界が張られているって話したよな。それとほぼ同じ結界がお前の周りに張られてたんだよ。学校に来るまではな。」

「学校に着いたらその結界は消えるって言いたいのか?」

「ああ。学校の結界内に侵入したタイミングでお前の周りにあった結界は消滅するっていうのが定説だ。まあそんなことはどうでもいいんだ。その状態で家に帰るっていうのは自殺行為だぞ。」

「家の中いりゃ問題ないだろ。」

「帰るまでにまた襲われでもしてみろ。その時はほんとに死ぬぞ。」

いや,ぶk

「武器があるって思うかもしれないけどな、なんの訓練もしてない武器でまともに戦えるわけないだろ。それに蓄えはいずれ尽きるんだぞ。そんときはまたこうやって外に出て物をとりにいかないといけない。そんときに襲われでもしたら…」

「お前らが持ってきてくれりゃ」

「佐野くんは別だけどな、解放戦線のメンバーじゃないやつ、しかもお前みたいななんの実力も価値も示してないやつの頼みを聞くほど俺たちは優しくねぇ。そんなことやっている暇はない。それに、家に結界ははられてないからな。壁を壊せるやつがいたら、そいつに襲われて終わりだ。とにかく、家に帰るのは危険なんだ。家に帰ろうとして死んじまった仲間もいた。俺は、そんなふうに友達が死ぬのなんてもう1回も見たくないんだ!もうそんなふうな犠牲が出るのは嫌なんだ!わかってくれよ!こっちに来てくれ!!頼むよ!」

心の底から僕の身を案じていることはわかる。自分でも、自分の言っていることは我儘に近いこともわかっているし、安全を最優先するなら二中にいるのが最善ということもわかっている。けれど、それは僕の自由を奪うことになるし、集団生活や他人とのコミュニケーションなんかはめんどい。うむむ。僕はどうすれば…。

何かあるんだ。僕の自由を保ちながら、今の僕が安全を確保する方法。僕の望みも紫音の望みをかなえる、僕と紫音双方Win-Winの方法が…。


…と考える時間も紫音はもう与えないつもりだった。急に紫音は僕の右斜めにつく。義人も左斜めについた。腕をガッと突然ものすごい力で掴まれる。血流が止まりそうなくらいの力で腕が圧迫される。うっ、いてぇ。肘も体に食い込んでさらに痛みがプラス。ううっ。そのまま僕の体を二中の方向になかば引きずる形で持って行きはじめた。ズリズリズリ…。強引に引きずっていってるから、靴の先もすれてる気がする。

「おい!流石に強制連行はないだろ!しかもせめて縄で縛るとかにしろよ!いたい痛い痛い痛い痛い!腕痛くなっちゃうから!というか今現在進行形でめっちゃ痛いから!イタイタイタイタイタ痛い痛い!二中行く方向で考えていたから!二中に行くつもりになってたから!離せよ!マジで!!」

「嘘つけ。絶対そんなこと考えてなかったよね。絶対なんだかんだ言って粘ろうとしてたよね。そして離したらお前絶対逃げるよね。そこまで想像つくよもう。」

「……(目が泳ぐ)いや、そ、そんなことないけど?」

「思いっきり目泳いでますけど。思いっきり図星だよね。ここまで図星だってわかりやすいのもすげーよお前。」

うぅぅ。なんでこんなに心読まれてんだよぉ。うぅぅ。

そうだ、まだ高原がいるはずだ。高原よ、紫音たちになんか言ってやってくれぇぇぇぇぇ!

そしたら、なんとか拘束を解いてもらえ…と思ったが…

「まさか佐野クンがここまでと…。きょう…りうる一人とみ…。真野クンほ…言いがたいが…、他のSきゅ…+よりはやっか…。にして…もんす…のわた…うしているの…ないとは。あのけっか…しんようしすぎ…。このじょうき…らグールをなんに…やしつ…いぶこうさ…やすい…。」

全くこっちを気にしていない。俯きながらなんかつぶやいている。

…あ、だめだこりゃ。

「紫音、頼むから離してくれよ!頼むよ〜!」

ダメ元で紫音に懇願するものの、紫音さん、完全シカトしてきやがった。せめて返答するぐらいしてくれよぉ。僕たちはもう来た道の半分くらいまで来てしまっている。

「おーーい、離してよ、頼みますよ。ねえねえ。頼むって言ってんじゃん、頼むよ!紫音さぁぁーーーん!!」

完全シカトは終わらない。紫音は何も聞く気もないらしい。

もうクリーニング店も見えるところまで連れられてきてしまったようだ。

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ガルド奇談・序 ルマール @rumaaru

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