第6話
棒状の光が変化した形。それは––––––––––––––––––––––––––、
倭刀。僕の使用することになる武器の一つ。
光が消え、実体化する。さっき見せてきたまんまのデザインで。サーベルのようなナックルガードのついた片刃刀であり、柄の部分は柘榴色。金色を主にした豪華な飾り付けがされていて、所々に緑の宝石が埋め込まれ、龍のモチーフもところどころに取り入れられている。[戦極無双]に登場する、独眼竜と呼ばれる隻眼の武将キャラのレア武器–僕が見た中で最もかっこいい武器–に限りなく近い。僕にとって最高のデザイン。
諒也は満足げな顔をすると、部屋のクローゼットから人一人分くらいの極太な巻き藁を取り出した。倭刀を持ち、巻き藁に切りかかる。巻き藁は完全に切断され、真っ二つに別れた。
「切れ味も問題ないね。」
続けて、二梃の銃も同じように作った。焦茶色が主だが、倭刀と同じように緑の宝石や龍のモチーフも所々に取り入れられている。
「銃は‥さすがにここでは試せないか。」
そう言って、銃を床におく。
さらに高原の武器-長い刀-も作ると、先のように切れ味を確認し、満足そうな顔をする。
金属のかたまりも、いや、何も一切使わずに、武器を作っていた。切れ味も十分な、実戦用の武器を。これを魔法と言わずに
「なんて言えばいいんだろう。」
つい呟いてしまった。そのせいで
「あ、あっくん?!!なにしてんの??」
諒也に気づかれてしまった。大きく見開かれた目と顔からいろんな感情が伝わってくる。焦り、怒り、驚き‥。かくなるうえは…
「すみませんでしたぁぁぁ!!」
全力で土下座だぁぁぁ!!
「いや、え、えっと、説明を‥」
「その‥トイレをすませてから、武器をどう作っているのか気になって‥自分の目で見て知りたいと思って‥それで‥すき間からこっそり見てたんですぅ‥すみませんでしたぁぁ。」
少し頭を上げ上目遣いで諒也を見ると、諒也は天井を見上げ、ん~~と声を上げながら頭をかいていた。かいていた腕を下ろし、諦念のこもったため息をつきながら肩をすくめ
「秘密だったけど、まあ、あっくんならいいや。」
と許してくれた。
「ほんっっとうにありがとうございますぅぅ。諒也様ぁぁ。」
「まあ見ちゃったならもうしょうがないし、いいよいいよ。今の気になるんでしょ?」
それはものすごく気になる!!目をキラキラさせて首をブンブン縦にふると、諒也君が説明を始めようとした。
でも僕は先に聞いた。僕の目を輝かせた、あの光の正体を。
「あれは《魔法》なのか?諒也。」
「そうだよ。あっくん。」
やっぱり!あれは魔法だったんだ!そうでなきゃ説明つかないもんな。魔法はあったんだ!!やった!諒也は続ける。
「僕の《魔法》の属性は、〔剣製〕。あらゆる武器を自分の魔力で作り出すことができる。」
「どっかで聞いたような属性だな。」
なんとなく、人間のフリをしているロボットが頭に浮かぶ。
「魔法を扱うには精密なイメージが必要なんだ。この魔法なら、ら、武器のデザインが細部–1ミリ単位–まで正確にイメージできてないと、欠陥品になってしまうんだ。僕が魔法を使えるって教えてくれた人はね、ね、『同じくらいの技術の画家がいるとき、より精密にイメージができているほどいい絵になるものだろ?多分。それと同じように、同じ能力の魔術師が同じ技を出した時、その技のイメージがより精密である方が、正確性も何もかも上回る。』って言ってた。」
魔法が使えることを教えてくれた人がいたのか。その人は一体?諒也は話を続ける。
「魔法を使えることを教えてくれた人は、この機械も渡してくれたんだ。」
そう言いながら、右腕についた機械を見せてくれた。
「この機械はね、僕が魔法を使いながらさわった相手が一番使いたい武器、最も使いやすい武器、その二つから導きだした最もおすすめの武器のイメージをUSBメモリに保存することができるんだ。そのイメージ自体は、僕が手でふれた瞬間自分の脳には流れてくるんから僕は大丈夫なんだけどだけど、それを説明して、相手との合意の上で武器を作らないと問題が起こっちゃうかもしれないからね。」
さっき僕の肩にふれようとしていた時、手から光が出ていたのはそれだったのか。
「じゃあ、なんで学校で暮らさないんだ?もともと学校で共同生活するのは大変だと思うけど、安全なのは確かだろ?」
「僕が学校で暮らさないのは、みんなと一緒に生活していける気がしないのもあるけど、一番はこの魔法の力を隠すためなんだ。」
「なんで?」
確かに諒也は集団行動は苦手だと思う。実際、中学校ではそこで苦労していたし。ただ、隠す理由はどうしても分からない。
「魔法が使えるって言うのが知られたら、面倒なことになりそうな気がするんだ。なんとなくね。」
その辺の事情は僕は知らない。けど確かに、紫音の反応見たら、確かにばれたらいろいろと周りの変化が起きることは予想できる。憧れや妬み‥いろんな感情を持つ人が出そうだし、その人たちの言動も変わるだろう。それで周囲の言動にさらされるのは諒也もいやだろうなとは思う。
待てよ。そういえは、オレ一番大切なとこ聞いてねぇ!諒也に右腕の機械を渡した人は誰なんだ?
「なあ諒也君、諒也君に右腕の機械を渡して、魔法を使えるって教えてくれたのは、いったい誰なんだ?」
「あぁ。それはね–––––––––––」
ガチャン!急に玄関のドアが開いた音がした。中に入ってきたのは-高原だった。玄関から叫ぶ。「今すぐぼくの武器をくれ!」
すぐに階段を降りていく。降りながら諒也が尋ねる。
「何があったんです?」
「モンスターが集団で襲ってきた!紫音がなんとか対処してるけど一人だけではきついはずだ!すぐにぼくも戦わなきゃ。」
高原は深刻そうな目をしている。口もキッと結んでいる。諒也もそれを感じ、急いで階段を駆け上り、できた刀を投げ渡す。「サンキュ!!」
とだけ言うと、すぐに高原は出ていった。
諒也は僕の武器もついでに持ってきてくれていた。
「あっくん、僕らも行こう!」
諒也にうながされ、2人で外に出る。
外に出ると、インターホンの前で紫音たちが狼–ダークヴォルフ–に囲まれていた。その数、およそ15匹。周りに4匹の死骸がある。紫音の武器–大太刀–に血がついてるから、紫音が1人で奮闘したんだろう。紫音は肩で息をしている。そりゃ、流石にこの数相手に1人は鬼畜ゲーすぎるわな。狼の群れに隙はなさそうだ。どうする。
不意に諒也が僕を肘で小突き出した。なんだ?耳元で諒也が囁く。
「握手して」
「え?」
「握手して!今すぐ!」
「どうして?なんで急に」
「この状況をなんとかできるかも。」
「魔法でも使う気か?今あいつらいるだろ。」
「それしか手はないし、それに、に、今あっちは目の前の狼に夢中で僕らの方は見てない。今ならいい。やる!」
覚悟みたいなのがひしひしと伝わる。視線を合わせ、頷いた。すぐに右手で握手する。諒也の右手が光りだす。紫音に背中を向けて握手しているのを紫音たちから見えないように隠す。紫音たちは狼に夢中で、背後の光には気づかなかった。一瞬ほっとする。そして、諒也が唱えた。
「この《
右手の光が刀に宿った。何をしてんだ?
再び、諒也が唱える。
「〔剣製〕魔法・《
諒也が光を纏う。不意に諒也は加速して、 狼の群れに斬りかかった。
諒也劇場が開演した。
一番近くにいた狼の全ての足を、火を纏いし刃で切り裂き、そのまま胴体も両断。
その隙に後ろから襲ってきた2匹に振り向きざまに氷の光刃を放ち、一瞬で撃破。
右手にいた3匹との間合いを一気に詰めると、二挺の銃から弾丸を連射しすぐに倒す。
その時一番遠くにいたやつには、銃で狙い撃ち仕留める。
狙い撃ちしてるうちに近づいてきた2匹を華麗な跳躍でかわすと、体を捻り、着地する前に背後に閃光を宿す斬撃を喰らわせなぎ倒す。
その間に紫音と高原も1匹ずつ倒し、残った他の敵は逃げていった。
そこで諒也が纏っていた光は消え、劇場は閉幕したのだった。
衝撃的だった。運動が苦手なはずの諒也が、あの狼の群れに無双してしまうとは。なんと言うか、バトルアクションゲームの理想的な立ち回りを見ているようだった。
「すげぇよ佐野君!!あの状況を一人でひっくり返すなんて!」
紫音が諒也と肩を組みながら、諒也を称えている。
「まさか、ここまでとはね。すごいよ佐野君!」
高原も諒也に拍手を送る。顔から驚愕しているのが見てとれる。諒也は照れながらも紫音をたたえた。
「いやいや〜。紫音さんがここまで耐えきってくれていたからですよ。5匹も倒したじゃないですか。」
「それはあるかもね〜。」
「そこはお前謙遜せい!」
義人のツッコミにみんなで笑った。
「じゃあちょっとジュース飲んで乾杯しよっか!」
その場のみんなで歓喜の声を上げて、ハイタッチ。
『イエェイ!』
みんなで一旦諒也の家に入ろうとした時、諒也が僕に話しかけてきた。
「そうそう、あっくん。今のは《
と言ってきた。
…《
「ああ、それと。」
諒也がもう一度話し出した。何かまだ話すことがあったらしい。
「僕が魔法が使えることを教えてくれて、右手の機械を渡してくれた人の名前、え、言いかけてまだ言ってなかったよね。教えるよ。その人の名前は––––––––––
『ロキ』って言うんだ。」––––––––
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