第5話
紫音君、さっそく二人連れてきた。義人と高原狼。
義人は紫音と三年の頃ずっと二人でつるんでいた。僕と同じ特撮ファンであり同じく変わり者。二年の時はクラスが一緒だったこともあり、僕も交流はあった。好きな作品こそ全く違ったが、最初はそれなりに仲は良かった。だが、僕たちはどこかでボタンをかけ違えたらしい。僕たちの関係は徐々に壊れていき、義人が紫音とつるみだした頃には関係は崩壊し、ほとんど話さなくなった。
紫音が言う。
「わりーな、義人。救護班のお前に無理言って。」
「いや、まあ、大丈夫よ。そんなに仕事今ないし。」
「こっちもお前くらいしか個人的に一緒に動くやついないし。」
「この前も二人で外に遊び行って楽しかったしな。」
「あんまそれ言うなよ。ばれたら他のやつから注意くらうんだから。」
こっちでも紫音との仲は健在らしい。
高原狼。サッカー部で僕や紫音と一緒で、家の方向がさほど変わらなかったので、よく一緒に帰っていた。(サッカー部の他のメンバーの一部も一緒に)二人でいるときはあちらもだいぶ頭がいいこともあり、だいぶ話があう人なのだが、他の人とも一緒に帰るときは一転し、僕をいじめる害悪いじめ野郎に変貌していた。部活引退までには解決せず、その後一緒に帰ることはほぼなくなった。それでも、二人でいるときはまあ楽しかったため、その後も関係は切れずに続いたのだが。
だが、紫音と狼の仲は違う。小学校高学年の頃はものすごく仲がよく、いつも二人でいた。だが、中学校に入り紫音が変貌すると、二人の関係は最悪なものとなり、中二になる頃には完全に関係は消滅していた。互いに互いを嫌っていたはずだが、ここではそうではないのか?関係が修復されたのだろうか?
紫音が肩をぽんぽんたたきながら言う。
「サンキュー高原。」
「ちょうど暇だったしね。いいよいいよ~。」
「じゃあ行くぞ!」
紫音たちと僕のご一行は校門を出ると、クリーニング店の前のY字路を向かって右側-僕が来た道でない方-に進んだ。こっちには何があったっけ?高原の家、キウイ園、テニスコートと‥アイツの家かぁ‥。どこに行ってるんだ?
「ねえねえあっくん。」
高原君が話しかけてきた。
「何?」
「今までどこにいたの?何してたの?」
紫音から事情を説明されてないのだろうか。あいつ話してないのか?答える。
「なんで?紫音から事情聞いてないの?」
「紫音の説明は聞いたよ。でもそれがほんとだと言える証拠、なくない?」
「僕が嘘をついてると?」
「可能性として、ないとは言えないだろう?」
そんなこと言われても‥。高原は続ける。
「実はモンスターが化けていたとしても、紫音が言ってた説明をすれば、自然とこの組織に入り込めるじゃん。」
はぁ?ふざけんな。僕は化けたモンスターなんかじゃねぇ。本物の人間だ。でも、高原の言ってることは間違ってない。僕の話に証拠はない。信じてもらえなければ、そう考えられて殺されるかもしれねぇ。まずい。
「‥いや、それはねえ。」
紫音が俺をかばった。
「理由は?」
高原が尋ねる。
「そもそも、学校には結界が張られてる。その結界の中にモンスターは入れねぇ。実際モンスターはこれまで入ってきたことはねぇし、入った瞬間に消滅するとの参謀の分析もあるだろ。」
「いや、モンスターだって進化するし、強力な個体もいる。その結界に侵入できるやつがいないとは言いきれないじゃん。」
「それは絶対にねえし、こいつはモンスターなんかじゃない。」
高原は一瞬笑みをこぼすと、すぐ僕の方を向いて
「そうだね。疑って悪かった。」
と謝った。その後誰にも聞こえない声で何かを呟いたのが見えた。
…さっきの笑みに少し嘲りを感じたのは何でだろうか。
やっぱ紫音との関係は完全に戻ってないのでは?
そういえば、魔力に関する説明を聞いてなかったな。魔力があるってことは!アレもあるよな!!
「なあなあ紫音?」
「おぉ、どしたのあっくん?」
ついに質問できるぜ!アレがあるかってことが!!
「魔力が存在するってことは!あるんだな!魔法が!!」
さあ紫音よ、魔法があると言え!!!今ここで!!
紫音が口を開いた。ついに!その答えが!!
「はぁ?あったら苦労しねーんだよ馬鹿野郎!!!!」
「え、ないの?」
「ねーよ!!そんなのあったらモンスターなんてすぐに駆逐できるだろうがな!!自分の武器と身体以外に頼れるものはねーんだよ!!」
そこに高原も話に入ってきた。
「正確には、人間は、魔法を使えるものがいないってこと。モンスターの中には、平然と魔法を使うものもいるよ。ただ、僕たちの知る限りはという点には気をつけろよ。変な話、魔法を使えることを隠してるやつがいないとは限らないし、他の支部の中には魔法を使える奴がいるかもしれない。それに」
「魔法を扱うモンスターなんてよく知ってたな、高原。そんな情報はこれまでの報告にはなかった気が」
「あぁ〜、友達からそういう噂を聞いたことがあるってだけ。そんなに気にしないで。」
さらに紫音が話の間に割って入ってきた。紫音も魔法が使えるモンスターは知らなかったらしい。
…つか、こんな世界きたのに魔法使えねえのかよ。めちゃめちゃ期待してたのに。異世界・モンスター・剣ときたら魔法もあるってもんじゃねえのかよ。
「本当にラノベってのにどっぷり浸かってるんだな。あっくん。」
‥紫音くん、あなた心読めすぎじゃないですか?
魔法が使えないんだとしたら、救護班ってどうやって治療してるんだ?てっきり魔法で治しているのだと思ってた。そういえば義人は救護班って言ってたな。
「なあ義人。救護班ってどうやって治療してるんだい?魔法を使わずに。」
義人はあぁ〜って顔をすると、すぐに説明を始めた。
「魔力だ。自分の魔力を他人に流すと、流された人の再生能力は大きく上昇する。それを利用して、怪我人に魔力を流して治療をしてるんだ。骨折ぐらいなら数十秒で治せるし、片腕が切られても治すことはできる。切り傷なんてものの数秒だぜ。病気は治せないけどな。」
「でもさ、魔力ってみんな持ってんだろ。それなら」
「話してる途中で悪いが、魔力を他人に流せるのはほんの一部の人だけだ。全員ができるわけじゃない。救護班は全員それができる。」
「じゃあ自分で自分に魔力を流して治療するっていうのは?」
「それはできないな。軽傷じゃなかったら、俺たちに頼れ!ってことだな。」
魔力で治療できる人がいるとは。そうしてもらったら感謝しないとやな。
「あと、自分の魔力を身に纏うことで魔力がアーマー代わりになるんよ。仮面ライダーってさ、怪人に剣とかで斬られたりしてもよほど強くなければダメージは入っても切られてはないじゃん。あんな感じ。これは練習すれば誰でもできる。」
魔力がアーマーになり、他人に流せば回復もできるとは。この世界の魔力って結構それだけでもいろいろできるんやな。
4人で色々話しながら目的地へ進んだ。もちろん周りは警戒しているが、この辺りは最近モンスターの一斉掃討が行われたため、あまり出現しないらしい。
やはり義人と紫音は仲が良く、2人で話しながら笑い合うシーンが何回もあった。一方高原は紫音とは少し距離を置いているようで、話すことはあっても笑い合ったりみたいなことはなかった。高原も紫音も僕をいじることこそ少しあれど、いじめのようなことはしなかった。二人の関係は完全には修復されてないようだ。それでも、中学の頃の関係よりはだいぶましみたいだな。あの時の二人は、もうどっちかが思いっきり-それこそ別人かっていうくらいに-変わらないと、関係は戻せないと思ってた。お互いもう一度仲良くなってきているなら、それはよかった。
目的地に着いたらしい。その場所は…アイツの家。僕の友達である佐野くんの家だった。紫音がインターホンを鳴らすと、佐野くんは鍵を開けてくれた。4人で家に入る。
佐野諒也。ぽっちゃりさんで運動は苦手。
もともとは買ってなかったゲームをやるために一緒に遊んでいたが、たくさん一緒に遊んだ結果、いつしか親友になった。二人でよく話したり学校でいろいろと手伝ったり、そえしているうちに最も仲のいい友達の一人になった。高校に入ってからも、よくラインで話していた。美術が得意であり、その中でもダンボール工作は彼の十八番であった。いつからか銃がすきになり、ダンボールで銃を作るようになった。そのクオリティはどんどん上がっていって、中三の頃にはギミックを搭載したものまで作り、すごいもの作るなーと思っていた。
家の中ではその諒也がリビングで待っていた。
「紫音さん。これはこれは、お、お久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
紫音とは面識があるらしい。紫音は理科室から持ってきたという複数の金属のかたまりを渡すと、それに答える。
「この高原の武器の再入手。」
「武器がなくなったんですか?一体何が、が、あったんですか?」
「どうやらモンスターとの戦闘でピンチになって、命からがら逃走したんだそうだ。その時に武器ごと身体を吸収されそうになったから武器は手放したんだと。」
おいおい、さっき俺のこと疑ってたけどさ、そっちもだいぶ怪しくない?高原さんよお。
「承知しました。紫音さん。前の武器をもう一回作ればよろしいのですね。」
「ああ、佐野君。それでお願い。それともう一つ。」
諒也が武器作ってんのかよ!!すごすぎじゃねーか!!一体どうやって作っているんだ?
「こいつの武器を作ってもらえないか?」
紫音はそう言って、俺を親指でさした。あ、俺の武器も作るのね。
「あ!あっくん!よかった。生きていたんだね。じゃ、ちょっとこっち来て。」
諒也に近づくと、諒也は機械のついた右手を伸ばす。怪我して義手をつけてるのかと思ったが、手のひらから肩まであるのがちゃんと見えた。機械アイアンマンの手に近い形をしていて、僕に手が近づくにつれ、手のひらあたりにある穴から少しずつ光が放たれ、明るさもましていく。その光は手から出ているようにも見える。そして僕の肩に手を置く。いったい何をしてるんだ?少しすると、肩から手を離し、近くの液晶画面を手に取った。右手の機械についていたUSBメモリを取ると液晶画面に差し込み、
「なるほどね。こんな感じの武器がいいんじゃないですかね。」
と液晶画面を見せてきた。そこに写っていたのは、二挺の銃とサーベル風の倭刀。僕がやっていた戦国ゲームで一番好きなキャラの使う武器だ。デザインもそれに近く、少し僕好みに調整されている。使うならこれだ。
「これで!これでお願い!」
「了解しました。じゃあ作ってくるから少し外で待っててもらえます?」
諒也がそう言うと、僕は紫音たちと頷き、外に出ようとした。靴を履こうとすると、急にお腹が痛くなった。漏れそう。
「ごめん。ちょっとトイレ借りていい?」
そう言うと諒也は、
「OK。終わったら外に出ててね。上の階で作ってるから。」
と言ってくれた。すぐにトイレに駆け込む。トイレに駆け込むとすぐに諒也は上に上がり、紫音たちは外に出たようだ。トイレを流して、トイレのドアを閉めた。
まさか、段ボールの銃からほんとの武器を作るようになるとはな。にしても、武器を作っている人なんて最重要人物と言っても過言じゃない。安全の確保は重要なはずなのに。鬼狩りの使う刀の職人の里は巧妙に隠されて安全を確保しているのに、なんでこんなとこにいるんだ?モンスターが絶対入れないっていう結界のある学校に居させるべきじゃないか。いなくなったら戦えないんだから。それにどうやって作っているかはまだ分かってない。すごく気になる〜!上で作ってるとこ見てぇ〜。
欲を抑えるのは苦手だ。僕は、知りたいという欲に従うことにした。
ひっそりと階段を上ると、階段を背にして左のドアから声がする。確かその部屋は諒也のゲーミングパソコンがあったはずだ。ドアは少し開いている。その隙間から部屋を覗く。部屋の中には諒也がいた。右手のひらを天井に向けている。何をするつもりなんだ?
息を潜め、諒也と部屋を観察する。部屋の中は中学の時と変わっていない。金属加工の機械も、刀鍛冶が使いそうな金槌も、ダンボール工作に使うハサミやテープも、何もない。あるのは、紫音たちから渡された金属のかたまりとゲーミングパソコン、パソコンののった机、布団だけ。これでどうやって武器を作るっていうんだ?そんなことを考えはじめるが、正直予想がつかない。
すると突然、諒也の右手からまばゆい光が溢れ出す!突然のあまりの眩しさに目を細める。だが、その光から目を離すことはなかった。光は徐々に棒状に収束し、棒状から形を変えていき、ある形状になっていった。その形は……
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