第4話

「さて、どこから見ようか。いや、その前にまずは教室の話をしようか。」

紫音はそう切り出した。

「俺たちは2階から4階の教室を住居にしている。三段ベッドと1人用の机が人数に応じて置いてあるだけだ。

「寝泊まりと食事、ルームメイトと団欒したりしてる。

「ウノやトランプとかいくつか置いてあるから、そういうので遊ぶのが暇な時の過ごし方かな。本読んだりもできるけど。」

そうなると、一階の教室–二つはあったはずだ–は何に使われているんだ?そのことを聞くと、とりあえず後で話す、と言われた。


「じゃあ学校見学行くか!」そう言うと紫音はドアから階段のほうに進んでいった。いや急に出発すんなよ。色々と準備が…ないか。ついていく。階段を降りると思ったら、その3歩先の南校舎と北校舎を繋ぐ渡り廊下に出た。この学校はカタカナの「エ」に近い形をしていて、主に教室のある南校舎と主に特別教室のある北校舎を渡り廊下が結んでいる。3階の北校舎には、教室以外にトイレと図書室、コンピューター室があるはずだ。今はどうなっているんだ?


図書室の前についた。横にコンピューター室もある。

紫音の説明が始まる。

「図書室に行く奴はあんまいないが、大量に本が置いてある。ここに校内の全ての本が保管されてる。ここから何冊か教室–今は宿泊室って言ってるが–に持ってきて読んでるやつもいるかな。」

「ラノベは、というかロシ甘はあるのか?フン」

「もう鼻息まで聞こえるんだが?厨二病だけじゃなくそっちにも手を出してるのか?」

「あるの?ないの?」

「んなこと知らねーよ。自分で探せよ。つか何そr」

すぐに図書室のドアに駆け寄…ろうとした瞬間、紫音にパーカーのフードを引っ張られた。さっさと探して早く本を読みたい。僕は駄々をこねる。

「く、苦しい!苦しいっすよぉ!入らせてくだせえよぉ兄貴!」

「誰がオメーの兄貴だよ。いやだよ絶対お前の兄貴とか。めんどそうだし。あとその本探すのは後にしろよ。今見学の途中だよ?」

「2分でいいんで!2分でいいんで探させてくだせえよう!」

「どうせ2分じゃすまなくなるだろこういうの。特にお前は。」

「フッ…わかってるじゃないか。」

「こんなタイミングでキメ顔すんなや。どこにキメ顔する要素あったんだ?見てるこっちがちょっと恥ずくなるわ。見学終わったら好きに見てていいから。次行こ?」

「ちぇっ。」

「あとで来れるんだからいいだろそれで。あ、コンピューター室はもうただの倉庫だよ。各部屋に置いてあるタブレット端末があるからそれで済むし。」

「え、タブレット使えんの?」

「使えるよ。作戦の報告–死傷者数や獲得物、負傷者や武器の状況とか–の報告や上からの指示なんかはタブレットでやってる。」

「上?」

「かくいう俺も上に属すんだけどな。次行くぞ。」

「待て待て、上ってのが何か教えろよ。気になるだろ。」

「ちょっと待って。あとで絶対説明すっから。次行くぞ。」

紫音は渡り廊下を進みだす。

「気になんじゃーん!教えろよー!」

声を張り上げる。でも紫音はガン無視。しゃーない。しぶしぶついていく。


次に着いたのは、南校舎3階の校門側、音楽室の辺り。この学校には2つ音楽室がある。

両方とも会議室になっていた。奥にある第一音楽室から何やら声がする。

「第一音楽室では今ちょうど、次の作戦実行部隊と参謀たちでミーティングしてんだよ。こんな感じの出撃前のミーティングに使うのが主だな。上に申請すればそのほかの用途でここを使える。そんなことしたことのある奴はいねーけどな。」

実行部隊ってなんだ?どういう部隊なんじゃ?誰なんだ参謀って?…質問しy

「あとで話すから、参謀とか実行部隊とかの質問はすなよ。」

「エスパーかよ。心読むなよ。」

「お前がどのタイミングで何聞こうとするかは大体わかるわ。おっ、部屋からみんな出てくるぜ。」

奥のドアがスライドする。中から出てきたのは、清水くんに小形海斗、増子春樹‥あーこの面子‥と、金澤天、面澤くんこと面ちゃんに小山瑞稀…元3年1組の人達だった。

「おー紫音!俺ら今から作戦開始だぜ!」

清水くんが紫音に話しかけた。

「裕也!行くのはスーパーアンデスか?」

「そうそう!まあいつも通りだけどな。なにしてんの?」

「こいつに今の状況とか諸々説明してんのよ。」

紫音が僕に目を向ける。

「ああ、あっくんか。元気?」

「さっきぶりだね裕也。まあまあかなぁ。」

「そっかそっか。ならまだよかった。」

紫音はほかの面子とも話し出した。

「今回は飲み水と魚か?」

「そうそう!時間かけらんねぇけどなあ。モンスター出てこないかなあ。」

紫音が返す。

「流石にこの距離なら平気だろ。最近何して遊んでんだ?」

「ウノでランク戦やってるよ。ちょー楽しい。」

「そっか。それって飛び入り参加できる?」

「いつでもウェルカムだよ!」

「なら今度こいつも入れてやってくんねーか?こいつ普通に面白いし。」

紫音がそう言っちゃったおかげで、俺に周りが目を向けてくる。

「いや、変にハードルあげんなよー。変に期待されても困るし…。」

さらに紫音は畳み掛ける。

「こう言ってるけど絶対面白いぜ。」

「だからハードル上げんなて!」

「紫音、面白そうな人だな、この人。

君、あっくんって呼ばれてたよな。俺もそう呼んでいい?」

「そりゃもちろん!」

首を激しく縦に振る。

「それじゃあ今度遊ぼうぜ!」

「俺ともだぞ!あっくん!」

「あっくん、楽しみにしてるからな!」

一気に仲良くなれた。ナイスアシスト、紫音!やっぱ、相変わらずみんなの中心にいるのは変わらねーな。俺とみんなのことも繋いでくれるとは、ありがたいなぁ。こっちではいいやつみたいだな。良かった。

「紫音。そろそろ作戦開始時間だ。んじゃ、そろそろ俺たち出発するわ。」

「おう!いってら〜。」

仲良くなれた御一行は、戦場への道を進み出した。


元3年1組の男子達と別れ、次は校門側南校舎2階。美術室と調理室がある。

調理室はそのまま調理室として使っていた。どうやら元3年5組の女子中心のグループが調理をしている最中らしく、ポトフのいい香りがする。

なぜ元3年5組の女子が調理をしているのか。たまたまその班の担当日だっただけらしい。

なんでも、同じ教室で生活しているもの同士で班が17個作られていて、その班ごとに当番制で、作戦実行・掃除・調理を行っているのだとか。

例えば、7班–今調理中の班–は今日昼食の調理担当で、明日から3日は夕食、その次の日から3日は掃除、その後2日は仕事なしの日になる。その次の日に作戦実行部隊として作戦を実行し、その後2日はまた仕事なし。次の日から3日朝食を担当し、その後3日昼食を担当する。そうして17日で仕事が一周していることとなるらしい。


今いるのは美術室の前。美術室は何に使われているのかというと…冷蔵庫になってた。

は??としか言いようがない。僕にできるのは、紫音に訊ねることだけだった。

「なんで冷蔵庫になってんの?」

「知らねぇよ。なんか来たらそうなってた。」

「なんでだYOU!おかしいだROU!」

「変に韻踏んでくんなYO。んなこと言ってもわかんねえことはわかんねぇYO。」

「オメーも韻踏んでんじゃねーか。」

「第二理科室–南校舎のこの階の体育館側にあるだろ–も冷蔵庫になってる。冷凍庫も付いてるけど。」

「ここで生活できる準備はオメーらが来る前から整ってたってことか。」

「そういうことになるな。そのおかげで俺らは生活できているわけだな。あと、それについてなんだけどな…。」

「なんだ?」

紫音が物語る。

「少し前に『いるのは俺らと同年代の奴ら、と俺たちを襲って喰おうとするモンスターだけだ。俺や仲間の知る限りは。』と言ったが、真偽不明の情報として『を見かけた。』という話はあったんだ。」

「なっ…。」

「ただ、出現地点・見た姿・見たタイミングなんかがまちまちで、なんなら姿を明確に認識していなかったりする話もある。『なんかモンスターでも人でもないやつがいた!いたことしか分からなかったけど。』みたいなやつな。そんなだから何かの見間違いだと考えられて、調査しようという話も反対意見–見つかる前にモンスターに殺されかねない、見つかる確率はとてつもなく低いではないか、見つけたところで何になるんだ、協力が得られるかも分からないじゃないか、などなど–が多くて、調査するだけの価値はないとして実行されなかった。調査の話が中止になってすぐに目撃情報がピタッとなくなったこともあって、そんなものはいないという事になった。」

「ほうほう」

「とまあそんな話があったから、『ここには俺たちが来る前にそのがいて、そいつらが色々と生活しやすいように整備してたのだ!』っていう噂がある。というかそれが一番信憑性のある話なんだよなあ、『何でここがこれほど生活しやすいのか?』っていう疑問の答えとしては。」

「へぇ。なかなか面白いじゃない。」

「あ、校内の説明の続きな。体育館の地下2階に大浴場、一階にランドリーがある。シャワー、洗濯、乾燥、風呂全部できる。ちゃんとボディソープ、シャンプー、洗顔料もあるぜ。」

紫音が話を切り替えた。…っていうか

「生活環境の整い方エグすぎでしょ!もう生活環境整ってるってレベルじゃねーぞ!!普通に暮らせるじゃねーか!」

「そんなに驚きます?」

「普通ここまで学校にあると思わねーよ!!」

「それもそうか。」

2人は笑った。『ハハハハハ。』


南校舎の体育館側3・4階は倉庫になっていて、色々と物品を保管しているとのこと。ただ、3階の被服室の前での紫音の説明はそれだけでは終わらなかった。

「柔道場は闘技場になっている。戦闘技術を高めるために同じランク同士でリーグ戦をやっているんだよ。その試合の会場として使ってるんだよ。校内のタブレットで試合が配信されてて結構人気なんよ。」

「ランク?」

「能力や功績に応じて、S+・S・A+・A・B+・B・C+・C・D・Eの10ランクで評価をつけてんだよ。」

「活躍してけばランクは上がるってことか。あれ?じゃあランクをつけてるのはどこの誰だ?」

「それを今から見せてやる。ついてこい。あ、体育館と校庭は遊び場としてもトレーニング場としても使ってて、保健室と1階の特別支援教室は救護班が使ってる。」

と、紫音が言う。僕はコバンザメのごとく紫音にくっついてついていく。

「救護班って?」

「治癒能力を持った面子とその補佐で構成される班で、文字通り負傷者・病人の救護を行う。薬はドラッグストアで調達してるし怪我の治療用のロボットや機械もある。」

「だからもう学校にあるってレベルじゃねーぞ!!」

紫音の返答。

「さっきから言ってるそのツッコミ、なんなん?」


階段を降りて、南校舎校門側の1階にやって来る。ここには2つの教室と第一理科室がある。2つの教室にはそれぞれ、“評議会室“と“参謀室“と書かれた紙がドアに貼られていた。

「参謀室では、参謀の役職に指名されたメンバーの会議が行われている。参謀の仕事は保管してある物資の管理、実施する作戦の立案、提案された作戦の審議、後は現場に出て部隊指揮の補佐をすることもある。そういう役職だから頭のいい奴らがメンバーやってるよ。」

紫音はそう言ってメンバー表を見せてきた。佐藤徹平くんに片寄…。なるほど。確かに頭良さそうな面子だった。

さらに評議会室の説明を続ける。

「評議会室は評議員の会議室だ。評議会はこの校内最高の権力を持っていて、メンバーは各班から1人ずつの17人と救護班から1人で合計18人。さっき気にしてた校内の仲間のランクづけ、法の制定およびその違反者の処罰、作戦実行部隊の指揮もしくは指揮権の譲与、作戦後の論功行賞なんかを担当する。あとさっき行ったリーグ戦の運営。もし新たに仕事ができたらそれも担当する事になるな。3ヶ月ごとの選挙で選ばれるんだが、立候補する奴がいないから、実際メンバーは固定化してる。」

「論功行賞ってのは?」

「そいつの活躍に応じて、ポイントと装飾品が渡される。装飾品には、攻撃力UPとか素早さ上昇なんかの効果が付与されているから、戦闘面でプラスになる。ポイントが一定のところまで貯まるとランクが上がる。と言っても、ランクが上がることなんて滅多にない。一定のところまで普通にやってたら到達できないからな。」

「んじゃ最初の能力が全てじゃん。」

「そんなふうに不満を持つ奴が多かったからリーグ戦が作られたんだよ。詳しくは後日話すけど。そうそう、重大な事件が起きた時に開く公開裁判と、法以外の個人間の問題を解決するために行われる討論会に関する仕事も俺たちの仕事だ。詳しくは、これを見てくれ。」

紫音はそう言って、生徒手帳くらいの本を手渡してきた。

「解放戦線第二支部手帳?」

「俺やその仲間–ここで暮らすみんな–全員が持ってるもんだ。解放戦線第二支部ってのが俺たち全員のチームの名前だ。それに評議会のメンバー載ってるだろ。」

それを見ると評議員のメンバーが載っていた。紫音以外にも平野櫻子さんなど、クラスのリーダーぽい人たちが集まっているようだ。ところで評議会議長って…

「ちなみに、櫻子のとこに書いてある評議会議長ってのが最高の権力を持った役職で、評議会の中意見がまとまらない時や最速で決断を下さなければならない時など、一部の状況においてのみ議長の決定だけで動くことが可能になる。詳しいことは手帳を読めよ。」

…また心を読まれた。何なんでしょうかこの人。マジでエスパーなのでは?


その後第一理科室についても聞いた。武器の手入れに必要な原料の保管場所になっていて、ここで原料を加工するらしい。


そして、手入れをする場所は同じ階の体育館側にある技術室だった。実際に手入れをしているところも見させてもらった。手入れの補助をする機械(学校にあるってレベルじゃねー、つかそんなもの学校にあるわけねー)の手も借りつつ、6人がそれぞれ自分の武器–槍・双剣・刀の3種類、しかも一人一人色や形が全員全く異なる–の手入れをしていた。

ただし、武器をここでは作れないと言っていた。それぞれの武器を見たとき、僕はここで自分で作ったのだとしか思えなかった。だとしたら、自分の武器はどこで手に入れたんだ?完全オーダーメイドとしか思えないような武器たちをどこの誰が作れると言うんだ?

「武器の手入れができるのはほんとすごいな。ただ、その武器をここでは作れないんだとしたら、一体どこで入手したんだ?」

それを聞くと、紫音は

「なら、百聞は一見にしかず。その場所に見に行くか。ちょうどそこへパトロールしないといけない日だし。後2人揃えてくるから、そしたら行くぞ!その場所に!」

……ええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!図書室はぁぁぁ〜〜〜〜〜??!!


‥かくして、僕は紫音らと共に、再び学校の外に出てどこかへ向かうこととなった。楽しみにしていた、図書室にて本を探すのはさらに後となった。そして、行き先で待っていたのは…親友とその親友の秘密であった。

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