#8 テスト、そして夏休み 〜Summer Vacation〜
AM8:30 2-A教室…
中間テスト当日。
教室はいつになくざわめきを見せていた。
阿鼻叫喚する者、ギリギリまで足掻く者、悟りを開く者…
多種多様な空気の中、氷華は涼し気な顔でドアを開ける。
「おはよう。」
そう言って自分の席に着き、鞄をかけてテストの用意をする。
隣には既に六駆がすました顔で頬杖をついていた。
「おはよう氷華、随分と余裕そうだな?」
「当たり前でしょ、テストごときで騒がしい…」
「優等生は違うねぇ、高みの見物か?」
「六だって勉強してないでしょ…せずとも点取れるんだから。」
キーンコーンカーンコーン…
始業のチャイムと同時に担任が入ってくる。
「ほら席つけー、ホームルーム始めるぞー」
チョークを片手にテストの予定を書いていく。
涼蘭高校のテストは一日に全てを詰め込むタイプのスケジュールで、夕方までに五教科と保険、音楽を含めた7教科のテストがある。
「…と、言う事で皆が嫌いなテストの時間だ。赤とったやつは容赦なく夏休み補習だからな、覚悟しとけよー」
ザワザワ…
担任の一言で絶望する者多数。
2-A自体の評定は悪くないが、それでも赤を取る者は数名いる。
その筆頭格が…
「赤取ったら補習…赤取ったら補習…」
「ひーちゃんに殺される…ひーちゃんに殺される…」
何を隠そう、桃香と彩葉だ。
はぁ、と大きく溜息を着く氷華。
「あんた達…分かってるわよね?あれだけ教えて赤取ったら承知しないわよ?」
「「ヒッ…分かってます…」」
状況は十分に理解していると言った顔だ。
ここで赤点を取ったらNAFには出れないのはもちろん、夏休みが減る。
それだけは避けねばならないと、青い顔をしながら集中している。
「ま…音楽『だけは』赤点取らないでよね…恥ずかしいから。」
そう言って黒板に目線を戻す。
最初の三限は文系科目の様だ。
「じゃあテスト始めるぞー、問題用紙と答案用紙前から回せー」
担任がプリントを配り始める。
プリントを受け取り、ペンを手に取る氷華。
余裕の表情だ。
キーンコーンカーンコーン…
一限開始のチャイムが鳴り響く。
「じゃあ始め!」
バサバサ…と皆プリントをめくる。
「……ふぅん、アレにしては随分捻ったわね…余裕だけど。」
スラスラとペンを走らせていく。
その動きは止まることを知らない。
「…予想より簡単だな、こんなもんだったか高校のテストって……」
六駆も例外では無い。
走り出したペンは止まることを知らない。
後ろの席の桃香、彩葉も着々と問題を解いていく。
「すげぇな…氷華の言ってた通りの場所が問題になってる…」
「これなら…いける…!」
そして、時は流れ……
PM12:00 昼休み 生徒会室…
コンコン…
ノックの後、扉を開く氷華。
既に翡翠と葵が部屋にいた。
「あら、予想より早かったわね?」
「皆さんお疲れ様ですわ、お昼にしましょ。」
今日は珍しく葵が全員分の弁当を作ってきたとのことで、VBRのメンバーが生徒会室に集められていた。
何故か六駆も呼ばれていたが。
「いいのか?俺まで相席して。」
「少々作りすぎてしまいましたの、気にせず召し上がって下さいな。お口に合えばいいのだけれど。」
そう言って重箱を取り出す。
おせちかと思わせるサイズの重箱には、葵お手製の唐揚げや卵焼き等、定番のおかず達がこれでもかと言わんばかりに詰め込まれていた。
「うぉ、すげぇ…」
「これ全部あーちゃんが作ったの!?」
「凄いです葵先輩!」
「大したものでは無いのだけれど…さ、召し上がれ?」
ニコ、と笑う葵。
「それじゃあ、いただきます。」
そう言って六駆は唐揚げに箸を伸ばす。
そして一口。
「……!うまい…!」
「よかった、お口にあったみたいで。」
「それはそうと、桃香と彩葉は午前どうだったのよ、五教科。」
翡翠は卵焼きを食べながら2人に問う。
「バッチリだよ、氷華達のおかげでな。」
「これで点取れなかったらひーちゃんに殺されるレベルだよ…」
2人も葵の弁当をつつきながら答える。
「どうであれ点数低かったら怒るけどね。」
そう言ってきんぴらをつつく氷華。
「「勘弁して下さい…」」
お茶を飲みながら肩を竦め、目を伏せる2人。
「ま、まぁまぁ…でも、赤点取らなければいいだけですし…」
いなり寿司を食べながら宥める莉沙。
「それでも取りかねないのがコイツらなんだよ、莉沙…」
同じくいなり寿司を食べながら呆れる茜。
あはは…という乾いた笑いを遮るかのように、六駆が口を開く。
「それよりも。NAFで何弾くんだお前ら?」
お茶を飲みつつ、ふと気になったかのように問いかける。
「セトリねぇ…そろそろ決めないとマズいわよね…」
それを聞いて一同は溜息を着く。
「氷華、新曲はどうなってるんだ?」
「7割、ってとこかしら…メンバー増えたから作業量増えたのよね…」
そう言いながら書きかけのスコアを出す。
7割、と言う割には大作だ。
総トータルにして約5分程度の曲になるであろうボリュームだ。
「うわ、ひーちゃん史上最大じゃない?このスコア…」
「たしかにな、ドラムもギターもベースも今までのよりテクいフレーズだぜこれ…」
桃香と彩葉は目を丸くする。
「……クラシックに比べれば」
「……全然短いから暗譜が楽でいいわよね、葵?」
経験者2人は余裕の表情だ。
「うわぁ…余裕そうな顔してる…」
「氷華の曲の真髄はまだミリも出てないけどな…」
茜と彩葉は顔を見合せながら苦笑する。
PM13:00…
「ご馳走様、ありがとね葵。」
氷華は箸を置き、取り皿に使っていた紙皿を集めて捨てる。
「はい、お粗末さま。…ともあれ、午後は保健と音楽ですわ。」
「間違えても、音楽で赤なんか取らないでよ?バンドマンとして恥ずかしいから。」
空になった重箱を包みながら、葵と翡翠は午後の準備を始める。
「ここからはモモの得意分野だよ!」
「任せな!」
「なんでこれが五教科でも出来ないかね…」
そんな二人を見て頭を抱える茜。
「さ、午後が始まりますわよ。戻った戻った。」
そして全ての工程が終了し、放課後。
解放される一同。
「夏休みだぁーーー!!!」
浮かれ上がる桃香。
「まだあと2日あるっつの。」
てし、と頭にチョップする彩葉。
テストは終わったが、結果を見るまではまだ気を抜けない。
「ま、余裕だったわね…」
「だな、少なからず1年の内容が目立ってたから楽でよかったぜ…」
各々帰宅の準備を進めつつ話す氷華と六駆。
「…そうだ。帰り楽器屋寄るけど、六はどうするの?」
「んー…寄ろうかな、気になる機材あるし。」
「お、アタシも行くよ。ようやく金貯まったから…アレ、買いに行くんだ。」
「モモもお金貯まったからベース買うー!」
「…じゃあ、用意が出来たら正門で待ってるわ。」
そう言って鞄を片手に氷華は教室を後にする。
テスト結果の張り出しは2日後。
彼女達の運命や如何に…
to be continued…
蒼く気高く咲く薔薇に 〜白きスコアに描く夢〜 六弦翠星 @hibiki_g11
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