#7 迫り来る焦燥感 〜Exam〜
AM8:30 2-A教室 ホームルーム…
キーンコーンカーンコーン…
始業のチャイムが鳴る。
「ホームルーム始めるぞー、ほら座れー。」
担任が扉を開けて入ってくる。
それを合図に皆各々の席に戻る。
「…お?今日も水瀬がいるな?」
「…居ちゃ悪い?」
ムスッとした顔で返す氷華。
「ハハッ、まさか。珍しく連日いるから明日は雪でも降るんじゃないかってな。」
「…もう春も終わりだし次は夏なのだけれど。」
「それもそうだな、ハハッ。」
「意味分かんない…」
呆れた、という顔だ。
担任の話も程々に、一限の準備を始める氷華。
「一限は現国だ、授業始めるぞー」
そう言って担任はチョークを手に取り黒板に書き出し始める。
「ああそうだ、そろそろ中間だな?テスト範囲進めるからしっかりノート取れよー?」
クラスがザワつく。
やべぇ何もやってねぇよ…などという声が聞こえてくる。
「氷華、お前テスト範囲は大丈夫なのか?」
六駆は氷華の肩をつつき問う。
「…何?バカにしてる?」
「いやお前学校来てなかったし、マトモに授業も受けてないだろ。」
「授業なんて受けなくても点数取れるし、過保護すぎ。」
やれやれと言った顔で前回の期末テストの点数表を見せる氷華。
それを見て六駆は安堵の顔で黒板に視線を戻す。
「…左様で。」
この分なら大して問題無いか。
心の内で六駆は一息つき、授業を受けるのであった。
PM15:30 放課後…
「ひーーーちゃーーーん!!!」
桃香だ。
おそらく中間テストの件で氷華に泣きつきに来たのだろう。
「何よ…どうしたのモモ。」
「テスト範囲!!教えて下さい!!」
「はぁ…やっぱりね…」
頭を抱える氷華。
テストは来週だ。そう呑気にしてはいられない。
「バンドもようやく動き始めたってのに…こんな所で時間取りたくないのよね…」
「そこを何とかぁ…!氷華様ぁ…!スタバ奢るからァ!」
ぴくり、と氷華の眉が動く。
そして静かに目を伏せたまま口を開く。
「……新作、グランデ。」
「わかりました!買ってきます!」
走り出そうとする桃香を氷華が袖を掴み止める。
「ストップ。あまり頼りたくは無いけど、モモ以外にも心配なのが1人居るからね…」
「ほぇ?」
「…はぁ。めんどくさいけど、捕まえに行くか…」
氷華はそう言って桃香を連れて教室を後にした。
生徒会室前…
コンコン。
ノックをし、扉を開ける。
「入るわよ、葵。」
「あら、氷華さん。珍しいですわね、こんな所に…珍しい方も一緒の様だけれど?」
「何か用?練習は明日よね?」
翡翠も一緒だ。
葵の事務作業を手伝っている様で、片手間に話をしている。
「…忙しそうね、出直すわ。」
踵を返す氷華を制止する葵。
「まぁお待ちなさいな、もうすぐで終わりますから。用件は何ですの?」
「…テスト範囲、この子に教えるの手伝ってあげてくれない?」
キョトンとした顔で氷華を見る2人。
余程珍しかったのか、一瞬顔を見合わせる。
「…何よ?」
「いいえ、何も。珍しい事もありますわねと思っただけですわ。」
「うぇ…ひーちゃん…なんでこの2人に…」
桃香は今にもグズりそうだ。
「これくらいやらないと、モモは勉強しないでしょ。私も同席するわ。」
「でもぉ…」
「ちなみに言っておくけど、テスト赤点取ったら追試で夏休み何日か潰れるわよ。」
追い打ちをかける翡翠。
「で、どうするのかしら?夏休み、追試で持ってかれてしまってはNAFも出場出来ませんわよ?」
NEXT AGE FESの日程と追試日程が被っている事を、カレンダーを指さし桃香に見せる。
「ぅぅ…わかったよぉ…」
諦めたのかその場にへたり込む桃香。
その瞬間、ドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します、葵先輩。」
莉沙だ。
「あら、莉沙さん。ごきげんよう。」
ヒラヒラと手を振る葵。
莉沙の持ってきた書類に目を向ける。
「これ、クラスの担任からです。葵先輩に持って行ってくれって。」
「あら、ありがとう。」
書類を受け取り机に置き、振り返る。
「えっ…と…どういう状況です?」
「こういう状況よ。見て察して頂戴な。」
ひたすら書類と格闘する翡翠を横目に、莉沙は状況を把握する。
「あー………なるほど…」
「りさりさ助けてぇ…」
ブレザーの裾を掴み桃香は莉沙に泣きつく。
「あはは…状況を理解しましたよ、桃香先輩…」
やれやれと言った顔で、桃香を引き起こす。
「中間テストの範囲を桃香先輩に教えればいいんですよね?氷華先輩。」
「え?えぇ…そうよ。」
キョトンとした顔で答える氷華。
「わかりました、私も手伝います!これが理由でNAFに出れないのは私としても由々しき事態ですし、VBRとしても由々しき事態です!」
ふんすっ、と意気込む莉沙。
「悪いのだけれど頼めるかしら、私は見ての通り忙しいからパス。」
「ごめんなさいね…手伝ってもらってしまって…」
申し訳無さそうな顔で翡翠に紅茶を淹れる葵。
「今更何言ってるのよ、中学からずっとじゃない。葵は私がいないと仕事の進みが遅いんだから。」
「ふふ…翡翠には敵わないわね…」
肩を落とす葵。
「…そういう事で、私達2人はちょっと難しいわ。申し訳ないけど、3人で何とかして頂戴。…最悪、赤点取ったら口利きはしてあげるから。」
書類を捌きながら申し訳なさそうに返す翡翠。
「…はぁ。仕方ない…申し訳ないけど、頼めるかしら?莉沙。」
振り返る氷華。
莉沙はやる気に満ちている様だ。
「任せてください!これでも高3までの勉強は予習済です!」
「うぇぇ…泣きそう…」
落胆しつつも諦めたのか、しおらしくなる桃香。
「さ、行きますよ桃香先輩!」
そう言って桃香を引っ張って生徒会室を後にする莉沙。
「後で私も行くから、商店街のスタバで待ってて頂戴。もう1人連れてくから。」
「わかりました!」
「うわぁぁん!!ひーちゃぁん!!」
ジタバタと暴れるも引きずられていく桃香を横目に、氷華も生徒会室を後にした。
PM16:00 白百合台商店街…
「毎度!ありがとなぁ!」
元気のいい声で店前に立つ少女が1人。
彩葉だ。こう見えて実家は八百屋だったりするので、こうしてたまに店を手伝っている。
「お疲れ様、彩葉。」
「いらっしゃ…なぁんだ氷華じゃんか、どうしたんだよ?」
声を聞き、腰に手を当て振り返る彩葉。
「用があって来たのよ。とりあえずその前に…そこのトマトを2つと、じゃがいもと人参をくれるかしら。」
氷華は財布を取りだしつつ、買い物をする。
「晩飯の買い物か?珍しいな。ほらよ。540円な。」
代金を支払いつつ口を開く。
「それもそうだけど。彩葉は中間大丈夫なのかをついでに確認しに来たのよ。」
「ゲッ…お見通しかよ…」
顔をしかめる彩葉を見て、グイと腕を掴む氷華。
「はい、連行確定。」
「は?」
「彩葉、借りていってもいいかしら?」
店前で煙草をふかしている彩葉の父に問う氷華。
「お?勉強か?むしろ連れてけ!追試で店手伝えないのはこっちも困るからな!ガハハ!」
「なっ!?こんのクソ親父…!」
「赤点取ったら承知しないからな!ハハハ!」
「じゃあ、借りていくわね。」
「氷華まで…おい、待てって!」
グイグイと彩葉の腕を引きつつ、莉沙と待ち合わせしているスタバに向かう氷華であった。
PM16:30 スターバレットコーヒー…
「あ、氷華先輩!こっちです!」
手を挙げ合図する莉沙。
傍らでは桃香がぐったりと溶けている。
「んぇぇ…ひーちゃん…りさりさ、思ったよりスパルタだよぉ…」
桃香は今にも泣きそうだ。
「あらそう…モモにはいい薬なんじゃないかしら?」
「うわぁぁん!ひーちゃんの意地悪ぅ!」
「で、私もこれからこうなると…」
頭を抱える彩葉。
「はーちゃんも連れてこられたの?」
「ああ。捕まった、が正解かな…」
仕方なくノートと教科書を手に取る彩葉。
どうやら腹を決めたらしい。
「で、私のコーヒーはどこかしら?モモ。」
「買ってくるよぉ、アイス?ホット?」
「ホット。」
「はーちゃんは?ついでに奢るよ?」
「…アイスキャラメルマキアート、トールでいいよ。ありがとうな。」
「わかったぁー」
タタタッと軽いステップでカウンターに向かう桃香。
「…莉沙は奢ってもらったの?」
「ええ、対価は払うって言って聞かなくて…」
そう言った莉沙の手元には飲みかけの新作、ストロベリーフラペチーノが置いてある。
「…意外と甘党?」
「乙女は基本そういう物ですよ、氷華先輩…」
苦笑する莉沙を横目に、ペンを走らせる氷華。
「おまたせぇ、スコーンも買ってきたから皆で食べよ?疲れたよぉ…」
コーヒーとスコーンをトレーに乗せて桃香が戻ってきた。
「そうですね、そろそろ一旦休憩しましょうか?」
「…まぁ、いいか。コーヒー飲んだ後でも…」
氷華はスコーンと自分のコーヒーを手に取り、皆と一息つくのであった。
30分後…
「あ、やっぱりまだいた。」
「読みは当たりましたわね。」
翡翠と葵が店に姿を現す。
どうやら様子を見に来た様だ。
「あら、書類は片付いたのかしら?」
氷華は声を聞いて振り返る。
「ええ、翡翠のおかげで。」
「感謝してよね、3日分の仕事終わらせたんだから。」
ふんすっ、と言った顔で葵を見る翡翠。
それを見て財布を出す葵。
「ふふ…そうですわね、何か奢りますわよ。ケーキ付きで。」
「じゃあ…氷華と同じ奴、ミルフィーユ付きで。」
「わかりましたわ、先に始めててくださいな。」
そう言ってカウンターに向かう葵。
翡翠は氷華の隣に座る。
「で、どこまで進んだの?」
「とりあえず7割消化した所です。範囲がそこまで広くなかったので助かりましたよ。」
莉沙が答える。
「そう、なら大丈夫そうね。」
「おまたせ翡翠。はい、貴女の分。」
葵も戻ってきた。
奇しくも茜以外の全員が揃った。
「茜さんは?大丈夫なんですの?」
「茜はああ見えてちゃんとやってるわよ。成績は私より少し下だけど赤は取らない子よ、それは知ってる。」
氷華はペンを走らせながら葵の問いに答える。
「ならいいのですけれど…」
「それよりもモモの方見てやって、私はいいから。」
「そうですわね…」
ぐったりしている桃香を見て、翡翠と葵が教えに入る。
「起きて桃香、続きやるわよ。」
「んぇぇ…もう疲れたよぉヒスピぃ…」
「ウダウダ言わない!後3割、さっさと終わらせるわよ!」
「うわぁぁん!」
桃香の泣き叫ぶ声を横目に、勉強会は再開する…
PM18:30…
「やっと…終わった…」
「もう勘弁してくれ…」
ゴン、と机に突っ伏す桃香と彩葉。
「とりあえず、これで大丈夫そうですね?」
「ええ、上出来よ莉沙。ありがとう。」
そう言って氷華は莉沙の頭を撫でる。
「えへへ…そんな事ないですよ…」
莉沙は氷華に撫でられるのが余程嬉しかったのか、顔を赤らめながらもじもじとしている。
「仲良いよねぇ2人とも…」
「そうだな…とても昨日の今日とは思えんぜ…」
そう言いつつ体を起こし、コーヒーを啜る2人。
うんうんと頷く翡翠と葵。
「まぁ、これでテストは大丈夫そうね?」
「ですわね。あとは2人の頑張り次第と言った所じゃなくて?」
2人もコーヒーを啜りつつ安堵する。
「これで落としたら…」
「ひーちゃんにころころされちゃう…」
顔を見合わせる彩葉と桃香。
「「……それだけは絶ッ対に嫌だァ!!!」」
頭を抱える2人をみて、呆れ返った顔で氷華は口を開く。
「2人が今日のことを活かしてベストを尽くせばいいだけよ…何も難しくないわ…」
「エリート様がなんか言ってんぜ…」
「それが出来たら苦労しないよひーちゃん…」
先行きはどうなる事やら…
氷華達は顔を見合せつつも、テスト当日を迎えるのであった……
To Be Continued…
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