第12話
私の意図することが母に伝わったのか、母は
「そうだよね。昔のことだよね。」
と言った。
「そうだよ。」
と私も応えた。それからしばらくの間、母が運転する車が家に着くまで、私も母も無言だった。
次の日も、その次の日も、私は学校が終わると、祖父母の家に行き、母が迎えに来るまでそこで過ごしている。
ある時、私はちょっとしたいたずらを思いついた。祖母がおやつにとだしてくれたいちじくを二つばかり、もとは和菓子が入っていて、捨てるのがもったいないと祖母がとっておいた竹かごに入れた。それを自分の部屋で、うつらうつらとしている曾祖母の枕元に置いた。
しばらくして目を覚ました曾祖母は
「あれまあ。」
と嬉しそうに言った。
「留子。征男さんに連れて来てもらったんだね。母さんが持たせてくれたんだね。この前のまくわもとても美味しかった。ありがとうね。」
「うん。」
と私は話しを合わせている。亡くなった娘より妹だと思わせる方がいいだろう。でも、曾祖母が私の名前を呼んでくれることはもうないだろうと思うとどこか寂しい。
ところで、まくわってなんだ?スーパーに売っていたかな?祖父母なら知っているだろうか?そんなことを考えながら、窓の外の樫の木に話しかけた。
「あなたなら知っているよね。だって、ずっと見てきたんだものね。」
完
樫の木 簪ぴあの @kanzashipiano
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