第48話 天使と騎士の狂騒曲・上

 黒輝士道が目覚めたのは、有素が目覚めてから丸一日たった後のことだった。


「……病室、か」


 ベッドの上から病室の窓を見て、士道はそんな呟きを漏らす。


 外ではすでに日が昇って久しいらしく、開け放たられた窓から夏らしい少し湿った風が流れ込んできていて、士道の頬を撫でる。


「昼か」


 呟きながら、士道はそのまま上体を起こそうとして、しかしその瞬間に走った全身の激痛に、顔をしかめてしまう。


 口元を押さえてせき込む。


 見やれば、掌にべったりと血液がついていた。


「……クソ……」


 ずきずきと痛む全身に悪態をつきながら士道は、頭を振った。近くにあったティッシュを抜いてそれで血液のついた手をぬぐう。


 そうして血液をぬぐった掌。その下で緑色に光る紋様があった。


 エニグマ病。


 体内に何らかの要因でエーテルが沈殿することで起こる原因不明の病気。


 全身を侵す、緑色に光る幾何学紋様と、それによって起こる神経痛に顔をしかめながら、士道は大きく息を吐いた。


「ったく、つくづく二十年前よりも劣っちまったな」


 悪態をつきながら、士道が思い出すのは、自分が気絶する前──あの天使との戦いだ。



     ◇◇◇



 迫ってくる天使。


 それを前に士道は、自分の武装である長短二刀流のアタッチメントを構えた。


「来いよ、クソ野郎」


【シネ】


 端的な感情の交差をぶつけ合って、士道と天使は激突する。


 真正面から突っ込んできて腕を振り上げる天使。


 天使が腕を振り下ろした瞬間、士道の方へと見えざる攻撃が飛んできた。


「───」


 跳躍する士道。


 その一瞬直後に士道のいた場所が轟音を立ててはじけ飛ぶ。


 士道が動くのが、あるいは判断が少しでも遅ければあの攻撃に巻き込まれて士道のエーテル体は完全に破壊されていたことだろう。


 そんな一撃を浴びせられて、しかし士道は冷静に跳躍したまま、頭上へと舞い上がり、そこへ足をつける。


 上下逆さま。天井を足場にして、士道はエーテル体の伝達網へ指令を送った。


 はじけ飛ぶ。


 上下左右。あらゆる角度から鋭角に飛び回って天使が振るう不可視の攻撃を避ける士道。


【シネッ、シネッ、シネッ、シネェェェェエエエエエッッッ‼】


 絶叫を上げて腕を無茶苦茶に振るう天使。


 あまりにも無茶苦茶な攻撃に、迷宮の通路のあちこちがはじけ飛び、その破片がすさまじい勢いで飛び回ってあらゆる場所で跳弾する。


 地面に倒れて動けないUSAにすら破片は降りかかっていて、士道は舌打ちを漏らした。


「大事じゃなかったのかよ」


 言いながら士道は《韋駄天ライントニング》を発動。


 一瞬で、USAの方へと駆け寄って、そんな彼女を抱え上げるとそのまま士道は、ダンジョンの通路を駆け抜ける。


「やめ、て……!」


 USAが、拒絶の言葉を吐くので、士道はキッと彼女を睨みつけた。


「やめてってな、おい。この状況でその言葉はないだろ!」


「私を助ける必要はないのっ! あなたに助けられたくないッッッ!」


 思いのたけを叫ぶUSA──有素に、士道も反射的に言い返していた。


「そうかい! じゃあ、俺は勝手にたすけさせてもらうぞ!」


 言いながら、走る士道。


 そんな士道とUSAを天使は追いかけてくる。


【マテ! ソノコヲカエセ‼】


「こいつはお前の者じゃねえだろうが、あほ天使‼」


 言い返しながら士道は、ダンジョンの壁面を跳躍して不可視の攻撃を避ける。


 そうしてはじけた破片の一部がUSAの方へと降りかかってきて、USAは思わず顔をしかめてしまった。


「………ッ! なんなの、あの攻撃⁉」


「──エーテルを飛ばしてんだよ。腕の中で圧縮された活性化エーテルを、目に見えないほどの速度で射出することで破壊力を生んでんだ」


 USAの疑問に答えるようにして士道がそう告げたことで、USA羽目を白黒させた。


「エーテルを飛ばす……⁉」


 USAが驚きの声を上げるのに、士道はそうだ、と頷きながらもう一度放たれた攻撃を避けながら、説明を続ける。


「あいつらが放つ〝光撃〟は、俺達が使うアタッチメントと同じ原理で動くものだ。当たれば一撃でエーテル体が破壊されるッ!」


 だから、避けなければならない、と告げる士道に、USAは息を飲む。


「なんで、そんなモンストラスがこんな場所に……!」


 そう疑問するUSAに応えはせず、士道は走る足を速めた。


 だが、それで天使を振り切れるなら、そもそも戦いなど始めていない。


【Sao; nンdhj日g;岡瀬うm4@tB日あ:エ;¥拝:おmfJLkんぁ」絵m5ルt衣¥l:rmアhんrん儀エアt:イン4れアhk;て¥4wp8位;う2あ8;5・lh6js】


 もはや思念の形が人間の理解する息を超えたものとなるほどに激昂しながら無茶苦茶に腕を振るう天使。


 放たれた活性化エーテルの光弾の物量が増す。そのあまりにも数が多い攻撃にとうとう士道の反応が間に合わなくなり、攻撃を浴びてしまう。


「───ッ」


 足に光弾を受けた士道。砕かれた足からエーテルの粒子をまき散らしながら、士道はそのまま地面に向かって倒れこむ。


「……がっ」


「きゃっ」


 地面に激突して倒れこむ士道とUSA。


【──────────────────────────────ッッッ‼‼‼】


 そんな二人へ、天使が腕を振り上げる。


 光弾が、二人に向かって放たれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冒険者USAのダンジョン配信復興期!~すたれゆく故郷を救うため現実世界に現れたダンジョンで動画配信を頑張りたいと思います~ 結芽之綴喜 @alvans312

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ