エピローグ
〝鍵〟に託す最期の願い
「ふ……ふふふ……」
だらり、と。
レティルの腕が下がる。
その腕から、傷一つついていない桜理の体が零れ落ちる。
実は剣を投げ捨て、必死の形相でその体を受け止めた。
「ははは! これが……これが…っ! ははは! ははははは!!」
痛快な笑い声を背後に、実は桜理を抱いてそこを離れた。
どうにか彼の攻撃が届かない安全圏まで
念のためにもう一度彼女の周りに結界を張って……そこで、平衡感覚が崩れた。
(くそ……もう、力が…っ)
先ほど、レティルに絡んでいた糸の全部を切った。
どの糸がどんな
だが、それで最後の力を使い果たしてしまったらしい。
大波の中で船に乗っているかのように、視界が激しく揺れる。
体の末端から、
なんとか踏ん張っているが、気を抜いた瞬間に意識が疲労の向こう側へとさらわれそうだ。
地面に手をついて草を握り締める実に、黒い影が差した。
「………」
顔を上げると、水晶の剣を持ったレティルがこちらを見下ろしている。
「ありがとな。」
目が合ったレティルは、とても幸せそうに笑った。
そんな彼は―――次の瞬間、実に向かって剣を振り下ろした。
「………っ」
動けない実を守るように、世界からの結界がその攻撃を阻む。
しかし、レティルはそれを見つめてにやりと口の端を吊り上げた。
結界に構わず、問答無用で剣を持つ手に力を込める。
すると、小さな音がして―――結界にひびが入った。
「なっ…!?」
これまでになかった現象に、実は驚愕する。
一体、何が……
そんな風に、動揺している暇はなかった。
一度入ったひびは瞬く間に広がっていき、ついに結界が粉々に砕けてしまったのだ。
「ふふふ……あはははは!!」
狂喜に満ちた笑い声を
「ぐっ…」
勢いよく地面に押し倒され、後頭部を打ったことで目の前に星が散る。
正常を取り戻した視界に見えたのは―――高く掲げられた、剣の切っ先。
抵抗できる力も、抵抗しようと考えられる余裕もなかった。
「終わりだ。」
容赦なく響く、最終宣告。
レティルが振り下ろした剣は、音をさせずに実の胸へと突き立った。
―――――バキンッ
盛大な音が脳内で響く。
まるで、太い鎖が無理に割られたような。
そんな音だった。
「安心しろ。滅したのはお前の肉体でも魂でもなく、お前の中に眠る封印だ。」
「―――っ!!」
そっと囁かれた言葉がもたらしてくる衝撃は、暴力的な力で意識を白く飛ばしてしまう。
なんてことを……
これまで必死に、本当に必死に守ってきたのに。
あまりのショックに、呼吸すらも止まりそうになった。
しかしそのショックも、この後に襲ってきた異変に飲み込まれてしまうことになる。
「そんな顔をするな。私はルゥを運命から解放する唯一の希望だと……エリオスにああ言ったのは、嘘ではないのだぞ? これは、そのために必要なことなのだ。」
実の髪を優しくなでるレティルは、愛しげに実へと語りかけた。
「お前は死なない。これでお前は、繰り返される死という運命から永遠に解き放たれるのだ。」
「うっ…」
実は思わず、胸元を握る。
突然、胸が苦しくてたまらなくなったのだ。
異変はそれだけに
ぐにゃりと視界が歪む。
脳内が掻き回されるような不快感に、吐き気が込み上げてくる。
胸に突き立っていた剣が、淡い光となって自分の中に戻ってくる。
それにつれて、体を
そして―――目の前で微笑んでいるレティルの体が、ぼろぼろと崩れ始めた。
「私の可愛いルゥ…。私の力を引き継ぎし、愛しい後継者よ。私という存在を
「あああっ!!」
身を折った実は、苦悶の声をあげてのたうち回るしかなかった。
痛い。
苦しい。
全身がバラバラに引き裂かれるようだ。
苦痛に
その体が、徐々に形を失っていく。
レティルは最期の力を振り絞ると、実をきつく抱き締めた。
自身の腕に抱いた温もりを確かめるように頬をすり寄せ、その耳元で甘く囁く。
「どうか―――この世界に
全てが、闇に染まる―――
世界の十字路17~終焉を司る神の物語~ 時雨青葉 @mocafe1783
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