ハナヲツム
牛尾 仁成
ハナヲツム
ボクは毎日お花の掃除をしている。
それがボクのお仕事。
お掃除なので、水をあげたり枝葉を切ったりといったお世話はできない。
それは別の人のお仕事だ。他人の仕事を取ってはいけない、とボクは教わっている。
ゴミが落ちてたり、枯れた葉っぱなどがそのまま放置されると景観が悪くなる。昔はたくさんゴミが落ちてたり他のお花の葉っぱが落ちてたりで、忙しなく掃除をする必要があったが、最近はその回数もめっきりと減った。
退屈、ということはないがちょっとだけ別のことをしてみたい、と思うこともあった。ずーっと掃除ばかりをしていたせいで調子が悪くなってしまったのか、他の仲間がお花のお世話をする時、ボクは無性にソワソワするようになった。
今では1日1回、お花の周りを確認する程度。
お花は良い香りがするのか、たくさん虫が寄り付いてくる。虫が悪さするといけないので、それを駆除するのがボクの仕事だ。
追い払っても、叩き潰しても、どこからともなくやって来る虫は凝りもせずにお花に群がる。ボクはそれを無造作に薙ぎ払ってお花を守ってきた。
最近は妙なヤツも来るようになった。
虫でも仲間でもないヤツがボクに問いかけてきた。
「キミは何のためにソレを守っているんだい?」
おかしなことを聞く。守れと言われたから守っているに決まっているじゃないか。
そう返すと、ソイツは何とも言えない顔で帰って行った。
虫の数も増えてきた。増えてる上に、何だか大きくて固い。退治するのにも骨が折れるようになってきた。考えたくはないが、もしかするとお花を守れなくなるかもしれない。
誰かに助けてほしかったが、お花の世話する仲間も随分前に姿を見せなくなってしまったので、誰に助けを求めればいいか分からなかった。
モタモタしていうちに、また虫たちがやって来た。
今度の虫は強かった。
大きさはそれほどでもなかったが、やたらと連携が上手で1匹だけを相手にしていると他の虫たちが邪魔をしてくる。
仕方がないので、広い範囲の虫をやっつける武器を体から取り出した。
やっぱりちゃんとメンテナンスはしておくべきだった。先端から拡散型分子分解熱線が放出されるはずが、柔らかな水のシャワーしか出てこなかった。
次の瞬間、ボクの体に虫が放った斬撃が食い込み、ボクの機能の大半が失われてしまった。
「こいつ、スゲー強かったな」
「なんでホウキとかチリトリだけで、あんな威力の攻撃を繰り出せてんのよ」
「さっき避けた攻撃、岩盤えぐれてるぞ」
「ていうか、最後の攻撃は何であんなにヘボかったんだ?」
勇者一行は、旅の途中で潜ったダンジョンで巨大な機械のモンスターと遭遇した。
魔王をも倒した勇者たちであるが、その彼らをただの野良モンスターが壊滅寸前まで追い込んだのである。驚くのも無理は無かった。
逆に言えば、こういう所には良いお宝があると、相場は決まっている。
意気揚々と奥へと入った勇者たちはそこで宝箱を見つけたが、その中には一本の花が入っているだけだった。
「何だよ、スカじゃん。先に取られたのか」
「かもね」
勇者は舌打ちして、がっくりと肩を落とした。
無収穫となった彼らはそろそろ補給が尽きることもあり、倒したモンスターの前を通って、地上へと帰還した。
帰る直前、勇者は今回の旅の最大の障害となったそのモンスターへ苛立たし気に手に持っていた花を投げつけた。
……ガガガ……ピー……
……ボクハお花を守れなかっタ。
……ゴメンナサイ。
……アア、でもヨカッタ……ボクノオハナ、ココにあ……ル
壊れて動かなくなった機械の上で、白い造花の花びらが微かにそよいでいた。
ハナヲツム 牛尾 仁成 @hitonariushio
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